京花1
生まれた時から、この世界には怖いものばかりだったような気がする。本当は生まれた時なんて覚えていないけど、絶対にそうだったと思う。
注射が怖かった。単純に痛かったからだ。今なら理屈がわかるから我慢できても、当時はどうして注射をしないといけないかなんてわからないから、私はたくさん泣いた。でもどんなに泣いてもいつも針を刺されて、終わる頃には泣き疲れていた。
電車の音が怖かった。単純にうるさかったからだ。踏切の前に行くといつも怖くて泣いた。
避難訓練が怖かった。大きな怖くなる音が鳴るからだ。あと、地震の揺れを体験できる車も怖かった。あれも揺れと言うより音が怖かった。
父が怖かった。怒ると大きな声で怒鳴るからだ。あの声を聞くと心臓がどきどきした。注射の前にも、避難訓練の前にもどきどきした。
プールも怖かった。幼稚園は定期的に近くのスイミング教室のプールに行かなきゃいけなかった。足がつかない深いプールが怖くてよく泣いていた。
ピストルの音。風船が破裂する音。クリスマスツリーの飾りの雪だるまの顔。はだしのゲン。暗い場所。ジェットコースター。怖かったものをあげたらきりがないし、半分くらいは今も怖いままだ。
あれは大きな地震があった時だ。もう私は子どもじゃなくて、大学入学を控えていたが怖くて毎晩泣いていた。そんな私に「そんなんじゃ生きていけないぞ」と父が言った。確かにそうかもしれないと思う。私にとってこの世界はあまりに怖いことばかりなのに、ほとんどの人はそれが平気か、あるいは一過性のものだと感じていることに気付いた。私がおかしいのだ。ほとんどの人がそう思うだろう。