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宣誓  作者: とても白いペンギン
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春花4

 高校の卒業式の日だった。私はまたトイレの個室でかつて友達だった人たちが私の話をしているのを聞いた。どうして女子はトイレで人の悪口を言うのが好きなのだろう。

「浪人するんでしょ」

「マジで?あんな必死に勉強してたのに。ださ」

「ていうか、あの子が頑張ってるのって、ママがウルサイからでしょ」

「なにそれ」

「私家いったことあるもん、キツそうなママ。あれ絶対教育ママってやつだよ」

「えーこわいー」

「高校生にもなって、ママの言いなりとかださくない?」

 私は絶望していた。友達だと思っていた彼女たちがこんなに無神経だったなんて。ママの言いなり?お前らに何がわかる。期待を裏切ってしまった時のため息や表情を、お前らは見たことがあるのか?逆らったことがあるのか?何も知らないくせに!


「ねえ、トイレで人の悪口言うのって楽しい?」

 聞き慣れた声が聞こえて、トイレが急に静かになった。この声は高橋だ。

「手洗い場占領して邪魔だし、聞いてて不愉快だから」

 素直に驚いた。高橋がクラスメートにはっきり物を言うのを初めて聞いた。それは言われた側も同じだったのか、少しの間誰も何も言わなかったが、我に返ったのか反撃を始めた。

 は?何急に。陰キャは黙ってろよ!春花の友達気取り?うざいんですけど。だいたい春花はアンタを友達なんて思ってないよ、プライド高いもんあの子。友達もママに選んでもらうんじゃないの?

 今日で関係が終わるからか、容赦のない罵声だった。耳を塞ぎたくなるような内容だったけど、それ以上に高橋が心配だった。私は勇気を出して個室のドアを開けた。彼女たちは私を見たが、高橋はこちらを見なかった。

「友達とか友達じゃないとか、そんな話してないよね。私はただ手洗い場で長話するのをやめろって言っただけ。」

「高橋!もういいから行こう!」

「持田さんのお母さんのこと、みんなに何がわかるの?切り取った情報とか世間の常識とやらに当てはめて、好き勝手言わないで!」

 高橋の手を引いて無理やりトイレを出た。さすがに彼女たちも追ってまではこなかった。

 そういえば、小学生の時、京ちゃんをトイレの個室に閉じ込めて、泣かせてしまったことがあった。いじめているつもりは全然なくて、ただ京ちゃんはおとなしくて何も言えない子だったから、少しからかっただけだった。泣いている京ちゃんを必死になだめたが、今改めて、とても悪いことをしたと思った。もしもその時高橋がいたら、きっと今みたいに「そんなことして楽しい?」って言ってくれたんだろうか。


 高校でできたまともな友達は結果として高橋一人だった。大学に進学して、友達もたくさんできたし、彼氏もできたけど、いつも自分は劣等生という思いが消えなかった。飲み会の話題がくだらないと「あの大学ならこんなレベルの低い話はしなかったんだろうな」と考えた。意識の低い友人のセリフに苛立ったりもした。それでも、成績は彼女たちのほうが良いという事実を知った時、私は本当に絶望した。どうして滑り止めの滑り止めに入学した私よりも、現役でぎりぎり合格できて大して授業も聞いていない彼女たちのほうが勉強ができるのか。次第に私は頑張ることをやめた。授業も単位が取れるぎりぎりだけ出席して、彼氏の家に引きこもっていた。実家には帰りたくなかったからだ。サークルも結局就活のためと考えたら馬鹿らしくてやめてしまった。もちろんその就活もうまくいかなくて、名前も知らないような中小企業の営業職になんとか引っかかった。父が「就職祝いをしよう」と言ったが、今度は私が断った。母は私が就職した会社も聞いてこなかった。

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