2.聖女の教え
「と、いうわけで元聖女になる予定のミレーネです。よろしくね」
神殿内にあるミレーネの執務部屋に通されると、ミレーネはこざっぱりとしてそう言った。
私はどこかでやはり、と思った。
「先ほど私に敵意を向けて見せたのは演技、ですか。何故そんなことを」
仮にも聖女と呼ばれ敬われる存在が、しかも偽聖女として長らく大司教の言うがままになってきた人が、普段からあんな扱いにくい態度でいるわけがない。
どうせ偽聖女なら代わりなどいくらでもいるのだから。
「新しい聖女に助けを求めるとは思わせないためよ。私、この後殺される予定だから。保護お願いね、ユリシアちゃん」
ミレーネは前置きも説明も何もなく、簡潔にそう述べた。
こちらのドキリとした心臓をいたわってほしい。
「殺される、って……、まさか」
「最初からそういう計画なのよ。前代の聖女も偽物だったからね。余計なことを喋らないという約束を交わして隣国へ行ったはずだけど、どこにいようがいらぬ真実が漏れては困るから。確実に口止めしないと安心して眠れない小心者なのよ、あの大司教」
あっさりと自らも偽物であると明かす。
探り合いとか、牽制しあいとか、そういうのを想像していただけにこの話の早さは意表をつかれた。
「だからいつものように言われた通りに外国に行くふりをして、王宮にかくまってもらおうって考えたと」
「そういうことー」
この感じは。
とてもアレクシアに似ている。
腹芸も計算もできるからアレクシアより数段上だが。
「わかりました。殿下に相談してみます」
「ありがと。よろしくねー。でもまさか、私の次に来るのが本物の聖女だとは思わなかったわよ」
いえ、私も偽物です、とは言わなかった。
まだ大司教との繋がりがないとは言えないし、極力真実を知る人は少ない方がいい。
「まだ力のことも祈り方もよくわかっていない未熟者なので、ご指導よろしくお願いします」
くだけた様子のミレーネに合わせず、あくまで無難に答えれば、その頬が面白げに吊り上がった。
「いいわよ。神殿での生き抜き方を教えてあげる」
頼んでない答えが返ってきた。
けれど、結局のところ今の私に一番必要なのはそれだろう。
私が黙って頷くと、ミレーネはにっこりと笑った。
「このままじゃあんた、大司教に殺されるわよ」




