6.大司教との対面
「ユリシア=センレント、大司教ザダーク様の拝謁のお許しをいただきまかり越しました」
教わった通りに膝をついて挨拶をすると、壇上に立ったご老人が鷹揚に頷いた。
白い筒のような服の上に、膝のあたりまである刺繍たっぷりの貫頭衣を身に付けているその人は、大司教ザダーク。
壁際には何人もの神官が胸の下に手を当て、立ち並んでいた。
反対側の壁際には、リヒャルトを始め王室関係の人たちが並んでいる。
「遠い農村よりいらしたとか。長旅さぞお疲れになったことでしょう。国のためにはるかな旅路を経ておいでになられたことを、神もさぞお喜びのことかと存じます」
遠い田舎から来たということを三回も重ねて言わなくてよくないだろうか。
絶対都会育ちだと思う。絶対揶揄してると思う。
白いふさふさの眉毛と口元の髭がわずかに表情を隠しているけれど、聖職者らしい、だけど張り付けたような笑みからはロクなものを感じない。
『村娘風情が清浄な神殿に上がり込みおって。次代の聖女は貴族の姫君に決めるつもりであったのにリヒャルトめ余計なことをしてくれたわ』
とか思ってるんだろうなと容易に想像できた。
事前にリヒャルトから聞いていたからではない。
眉毛が片方だけ微妙に吊り上がっている。私がここにいることが我慢ならないというように。
そもそも、何故聖女が国のために働くことを神が喜ぶのかわからない。
神はそのためにアレクシアに力を授けたわけでもあるまいに。
だったらもっと国のために相応しい人がいるはずだ。
『確かにー』
心の中でそんなことを思っていると、気の抜けた相槌が返された。
他の人には聞こえない。
私にだけ聞こえる声で。
『アレクシア……。心の中を読まないで』
『だって、今日は聖女検証の日だから準備万端直立不動で待機しとけって言ったのはユリシアじゃない』
絶対座ってると思うけどね。
『案の定相手は油断ならない匂いがプンプンするわよ。偽聖女として私がしょっぴかれたりしないよう、協力お願いね、アレクシア』
『あいあいさー! ズズッ』
絶対今お茶飲んでると思うけどね。
「お城の方々によくしていただき、しっかりと休養させていただきましたので、体調は万全でございます」
「そうでしたな。少々腰を悪くしておりましたもので、なかなかこうして出て来られず。大変お待たせし申し訳ありませんでしたな」
たぶんそうして神殿内部で策を練っていたに違いない。
だがそれはこちらも同じだ。
準備は万端。
返り討ちにしてやんよ!
『やんよー!』




