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勘違い転生者の無自覚冒険譚  作者: ルーニャ
第1章 異世界からの来訪者
5/18

勘違い棍使いは戦闘をこなす

という事で今回からようやく本編が始まったようなものですね。

ちなみにセインが異世界の地に立つのに15000文字使ってます。

物語が進まないのも当然ですね。

 


 それから燦々と降り注ぐ日光を受けながら1時間ほど歩き、セインは森に辿り着いた。

 道中は特に異変もなく、ずっと美しい景色を眺めているだけだった。

 強いていうならば空を飛んでいた飛竜のようなものが山の向こうに消えていったことくらいか。



「結構遠かったな……日が暮れるまでに街に着くかどうか怪しいぞ……?」



 急ぐ必要があるかもしれない。そう思ったセインは森の中に足を踏み出した。


 森の中は太陽の光がほとんど差しておらず、辺りは薄暗い。

 そこら中に生えている木は10メートルほどの高さの針葉樹だろうか。木に関する知識はほとんどないのでよく分からないが、特に違和感を覚えるような木は生えていない。


 異世界だからといって変な木が生えているわけでもないらしい。


 道中魔法で作った石杭を地面に刺して道標を作りながら歩いていく。

 10分ほど歩いた頃だろうかセインは遠くに微かな気配を感じた。

 すぐに足を止め、気を引き締めて棍棒を構える。


 相手は動かない。まだこちらには気付いていないようだ。


 出来るだけ足音を消すように歩き、少しずつ距離を詰める。


 距離が縮むのと並行してセインの心臓は早くなっていく。初めての狩り。これから自分は動物を殺すのだ。

 嫌でも緊張してしまう。



(心臓がうるさい……)



 深呼吸をして息を鎮めるよう努力するが、一向に心臓は鳴り止まない。


 それでもセインは勇気を振り絞り、獲物に近づいて行く。


 距離が10メートルほどまで近づいた時、木々の隙間からその姿が見えた。



 体調は30センチほど、白い体毛を持ち、長い耳を持っている。額からは10センチ弱の角が生えており、明らかに()()()()()()()生き物だった。



(角が生えた……ウサギ!?もしかして、魔獣!?)



 身体に緊張が走る。先程までとは別種の、恐怖から来る緊張だった。



(魔獣って元の10倍は強いんだよね。俺に勝てるのかな……いや、勝つしかないんだ。強くならなきゃ、ダメなんだ)



 家族や聖奈のことを思い出す。

 こんなところで躓いている場合じゃない。

 ここで逃げ出して、強くなれるわけがない。


 セインは恐怖を押さえつけてもう一度角ウサギを観察する。


 よく見ると寝ているようだ。



(これなら、行ける!!)



 ゆっくりと近づく。

 起こさないように。


 少しでも足音を無くせるように全神経を足に集中させる。


 一歩、また一歩と近づいていく。



 もし起こしてしまえばどうなるのだろうか。

 相手はおそらく魔獣だ。

 普通の動物とすら戦ったことがないのに、果たして勝てるのだろうか。

 力を与えられ、強くなった。もしかするとあっさり倒せるかもしれない。



 集中と共に思考が脳内を埋め尽くす。


 最悪の状況を想像してしまう自分がいる。

 楽観的に考える自分がいる。

 思考が安定しない。


 集中が乱れていく。



 距離が3メートルまで近付いた。


 もう目と鼻の先だ。


 一気に飛び出し、棍棒を振り下ろせば届くだろう。


 だが、飛び出した瞬間に相手が起きたらどうする。



(ダメだ、もう少し近付こう)



 また一歩近付く。


 いくら足音を消しているからといって、完全に消えるわけではない。

 これ以上近付けばその音だけで起きてしまうかもしれない。


 でもまだ、棍棒は届かない。



(緊張で、吐きそうだ)



 自分は今から命を奪うのだ。平和な日本で生きてきた高校生が、いきなりそんな覚悟が出来る筈もない。


 余計な思考がまたもや集中力を奪っていく。




 ガサリッ




(っ!!しまった!!!)



 足音が鳴ってしまった。距離はおよそ2メートル。

 それほどの近さで音が聞こえた角ウサギは飛び起き、逃げ出そうとする。



(やるしか……ない!!)



 セインは覚悟を決め、思いっきり地面を蹴る。


 そうして瞬時に距離を詰め、思いっきり棍棒を振りかぶった。



 ドゴッ!!



 おおよそ生物から鳴っていいものでは無いだろう音を鳴らせて、角ウサギは吹っ飛んでいった。


 それから5メートルほど離れた位置にある木にぶつかり、ベタリと落下した。


 動く様子は、


 ない。



「っっはぁぁぁぁぁ…………」



 いつの間にか止めてしまっていた息を吐き出す。

 ゆっくりと呼吸をして息を整えたセインは、




 盛大に吐いた。




 異世界に来て初めて味わったのが吐瀉物の味とはなんとも災難である。


 それから、もう一度呼吸を整えたセインは吐いた時に落としてしまった棍棒を拾い、角ウサギの元へと歩いていく。

 先程の緊張の余韻が残っているのか、少し足がふらつく。


 近くまで歩いていったセインは角ウサギをじっくりと観察した。


 先程から全く動いていないことから分かる通り完全に死んでいるようだ。

 だが見た限り外傷が見られない。あれほどの音がなったのだ、手足や首が千切れていることも覚悟していたのだが、そういったことはないようだ。


 セインは少しビビりながら角ウサギを持ち上げる。


 すると角ウサギの身体があり得ないほど伸びた。



(!?!?!?)



 最早思考が停止した。もう一度吐き気が込み上げてくる。酸味と苦味が入り混じった香りが口の中に充満する。

 なんとか押さえつけ、冷静になって考えてみる。


 おそらく、棍棒で背骨を砕いたのだろう。それで繋がりを失った身体が、皮の伸びる限り伸びたのだ。



「はぁぁ……血とか流れるのは覚悟してたけど、まさか伸びるとは思わないよ……ビックリした……」



 とにかくこれで獲物は手に入れた。だが、入市税がどれほどかかるかも、この角ウサギが幾らで売れるのかも分からない。もう少し狩りを続ける必要があるだろう。


 完全に呼吸を落ち着けたセインは、もう一度周囲に気を配る。近くにこの角ウサギの群れでもいるかと思ったが、そんな気配は感じられない。もしかするとこの角ウサギは、はぐれというやつなのかもしれない。



(1匹で寝ていたのは、運が良かったのかも)



 とにかく、近くに動物はいない。



(もう一度、探しなおそう)



 そうしてセインは森の中を歩いていった。




 ――――――――




 それから2時間程が経過した。


 セインは角ウサギをさらに3匹倒し、魔法で作った石籠に入れて持ち歩いていた。


 どの角ウサギも1匹で行動しており、戦闘も苦労しなかった。


 というのも、角ウサギが逃げようとも筋力が上がったセインは難なく追いつき、返って攻撃してきた角ウサギもこれまた上がった反射神経により難なく躱して返り討ちにした。



(なんていうか、拍子抜けだよなぁ……でもこれもフェインラミナスのおかげなんだよね。ほんとに、感謝しかないよ)



 最初あれほど緊張していたのが嘘のように落ち着いていた。

 ちなみに血を見たくなかったセインは、全て胴体を棍棒で殴りつけて倒している。

 狙ってこれが出来るのもやはりフェインラミナスから貰った力のおかげなのだろう。



(でもこれで、入市税には届くよね。分かんないけど、税金ってそこまで高くないと思うし、大丈夫だと信じたい)



 少し不安に駆られながらもセインは元来た道を帰って行く。

 道と言っても道中刺してきた石杭しかないのだが。

 そもそも森の中に道など無い。



(道も方向もわからない森の中で、石杭立てることを思いついた俺ってやっぱり天才なのかな!?)



 初めての狩りで順調に行った為か、セインはそんなしょうもない事を考える余裕すら出て来た。


 森を出る最中にまたもや1匹の角ウサギを見つけて、それも胴体をぶん殴って狩った。




 1時間ほど歩き森を出た。森に入った時はかなり慎重に歩いていた為ゆっくりとした歩調だったが、帰りは特に緊張することもなく歩いて来たためかなり早く戻ってくることが出来た。


 だがそれでも森の中に3時間いたのだ。

 森を出るまで分からなかったが日が傾き始めていた。

 あと2時間ほどで日が沈むだろう。



「確かフェインラミナスは街から10キロ離れたところに転生させるって言ってたよな……森まで3キロくらいだったし、あと7キロくらいか?多分大丈夫だとは思うけど、急いだほうが良いかもな」



 セインはそう言って棍棒と角ウサギが入った石籠を抱え直すと、街道を走り出した。


 走り出してから気付く。



(方向こっちで会ってるかな!?)



 何も考えず道の先に行けば良いと思い走り出したが、逆走している可能性もあるのだ。

 ともかく、ある程度走って何も見えなかったら引き返すしかないだろう。

 そう考えたセインは走る速度を少し早めた。




 10分ほど走ると道の先に壁のようなものが見える。

 おそらくあれが街の外壁なのだろう。



(合ってたぁぁぁ!)



 もし日没までに街に辿り着かなかったら野宿だ。

 流石に異世界初日から野宿は嫌過ぎる。

 不安を抱えて走っていただけに外壁を見つけた時かなり安心した。



(ここからは大体5キロか6キロくらいかな?日が沈むまでには間に合いそう)



 少し走る速度を落とし、セインは街道を進んでいく。





 それから30分ほど走ったセインは外壁の前に立っていた。


 高さは5メートルほどだろうか。遠くから見た限り街の周りを完全に囲っているようだった。



(遠くからじゃ分かんなかったけど、壁でっけぇ……こんな大きな壁初めて見たよ)



 この壁の向こうに、異世界の街並みが広がっているのだ。

 セインは心を踊らせて道を歩く。


 道の先、壁に設置された門の前に槍を持った人が立っている。おそらく門番だろう。


 近付いて行くと門番に呼び止められた。



「そこで止まれ!何の用でこの街に来た!」


「俺は旅人です。旅の途中で立ち寄りました」


「旅人……?にしては荷物が少ないようだが?」



 門番がそういうのも無理はないだろう。

 なんせセインはこの世界の一般的な普段着に石の棍棒と謎の石籠を持っているだけなのだ。

 もはや荷物が少ない以前の話だろう。不審者極まりない。



「先に立ち寄った街で宿屋荒しに遭いまして、武器も荷物も金も、全部取られたんですよ。情けない限りです」



 異世界の常識の範囲内で考えうる状況を道中走りながら練っていたのである。



「それは……災難だったな。だが街に入るには入市税がかかる。旅人ということは住人証も持ってないだろう?」


「そこで、お手数ですが換金をお願い出来ないかと思いまして。途中の森で角ウサギを狩って来たんですよ」



 セインはそう言って石籠を門番の前に置く。



「森というと、角ウサギの森か。そしてこれは、5匹も狩ったのか。見た限り損傷も少ないし、これなら入市税に充分届くだろう。少し待っていろ」



 門番はそう言うと後ろで待機していた仲間に声をかけに行った。

 そして一言二言会話すると、仲間を連れて戻ってきた。



「では私はこの角ウサギを換金してくる。代わりはコイツに任せるから戻ってくるまで大人しく待っていろ」


「分かりました。お願いします」



 そう言うや否や門番は槍を置き、角ウサギの耳を掴んで走っていった。



「それにしてもあんた、遠くから見ても分かるくらい変な格好だな」



 換金しに行った門番が帰ってくるのを待っていると、代わりに待機していた門番が声をかけてきた。



「そんなに変ですか?」


「そりゃあそうさ、子供の身の丈ほどの太い石の棍棒に、やけに重そうな籠。おまけに防具も何も付けてないんだ。近付いて来た時はやばい奴が来たって騒ぎになってたよ」


「そんなに……俺としては手持ちの荷物も金もないから魔法で道具を作るしか無かっただけなんですけれど」


「それ魔法で作ったってのか!?ますます変わってんなあんた……」



 セインは何に驚かれているのかいまいち分からず微妙な表情になる。


 だがもしここに鏡があれば気付いただろう。

 いかに自分の格好が珍妙なものなのか、ということを。



 しばらくそんな会話を続けていると換金に向かった門番が帰って来た。



「ほら、しっかり換金出来たぞ、なんか見た目のわりに内臓ぐちゃぐちゃだったみたいで凄い嫌な顔されたんだが、何したんだ?」


「この棍棒で殴りました」


「そんなもん持ってるからまさかとは思ったが……本当にそれで仕留めたのか?すばしっこい角ウサギをその重そうな棍棒で?」


「えぇまあ、こう見えて力はありますから」



 そう言いながらセインは棍棒を片手で振り回した。



「ちょ!?危ねえ!!!んなもん人の近くで振り回すんじゃねえ!すっぽ抜けたらどうするつもりだ!?」


「そうだよ!あんたが力持ちなのは分かったからその物騒なもん下ろしてくれ!」



 セインの唐突な行動に門番2人は慌てて声を上げる。

 いくら門番として鍛えているとはいえ、石の棍棒で殴られたらたまったものではない。



「す、すみません。気をつけます……」


「分かれば良いんだ。それでほら、これが換金額の700ルニだ。なんでも魔獣のホーンラビットが1匹居たらしくてな。そいつだけ500ルニで他は50ルニで買い取って貰えた。受け取れ」


「えぇ!?魔獣が混じってたんですか!?」


「お前気付いて無かったのか……」


「あははははは!!魔獣を倒したことに気付かない奴なんて初めて見たよ!あんた本当に変わってるんだな!」



 セインが倒した角ウサギの中に魔獣のホーンラビットが混じっていたらしい。

 それに気付いていなかったセインに、2人の門番はそれぞれの反応を示した。


 セインとしてはどのウサギも一撃で倒したので見分けが付くわけがないと言いたいのだが、一つ、思い当たる節があった。



「そういえば、1匹だけ逃げずに攻撃してきたのがいました」


「それだ。魔獣はまず逃げないからな」



 まさかのフェインラミナスから受け取った一般常識に含まれていない知識に、セインは驚いた。


 戦いを専門としていない門番でも知っているのだ。充分一般常識ではないのだろうか。



「とりあえずそこから入市税の100ルニと手数料の50ルニを回収する。合わせて150ルニだ」


「えぇっと、200ルニです。どうぞ」



 セインが門番から受け取ったのは小さな銀貨7枚だった。この銀貨1枚で100ルニなのだろう。



「ふむ。ではおつりの50ルニだ。受け取れ」


「ありがとうございます」



 それからセインは5枚の大きな銅貨を受け取った。



(っていうことは大きな銅貨が10ルニなのか。じゃあこの小さい銀貨が100ルニの小銀貨で、1ルニの小さい銅貨とか1000ルニの大きい銀貨もあるんだよね。確か)


「それでは、ようこそカールンの街へ。この街はお前を歓迎する」



 考え事をしていたセインに、門番は早く行けと言わんばかりに歓迎の言葉を口にした。


 門番に急かされながらもセインは街に入る。



 異世界に来て初めての街。

 そこでセインにどんな出会いがあるのか。


 セインは期待を胸に、大きな門をくぐった。




ちなみに本編で挟むタイミングを失ったので後書きにて補足させていただきます。

通貨の単位はルニ。貨幣です。

小銅貨=1ルニ=10円

大銅貨=10ルニ=100円

小銀貨=100ルニ=1000円

大銀貨=1000ルニ=1万円

小金貨=1万ルニ=10万円

大金貨=10万ルニ=100万円

白金貨=100万ルニ

魔石貨=1000万ルニ


主人公は大銀貨までの知識をフェインラミナスから貰った一般常識で把握しています。

一般人は10万円をぽんぽん使うほどお金持ちじゃないので金貨の存在すら知らない人がほとんどです。


ちなみに日本円にすると大体10倍ですが、異世界は日本と物の価値が違うのでところどころ日本円と一致しない部分が出てきます。

ご理解の程よろしくお願いします。



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