勘違い女神は少年に期待する
初異世界。彼はこれから何を思い何をするのか。
「よし。これであなたは異世界でも問題なく生きていける力を手にしたわよ」
フェインラミナスがそういうのと同時に星矢は頭が割れるような激しい頭痛に襲われる。
「っっ!!あぁぁ!!」
言葉にならない声を上げ、苦しそうに呻く星矢。
「大丈夫!?……一気に大量の知識を与えたから、それなりに頭痛が起こるとは思ってたけど、これほど苦しむなんて……」
星矢の予想以上の反応に慌てるフェインラミナス。
だが、そうこうしている間に頭痛が引いたのか、星矢が落ち着きを取り戻し始めた。
「はぁ……はぁ……頭痛が起こるって知っていたのなら……先に教えてくださいよ……」
「ごめんなさい。少しくらいなら問題ないと思って、イタズラしちゃったわ。私としてもここまで痛がると思ってなかったもの。知ってたら言っていたわ。本当にごめんなさい」
酷い目にあったと抗議する星矢にフェインラミナスは謝罪した。
もうすでに頭痛は引いており、その申し訳なさそうな表情を見て星矢の溜飲も下がった。
「もう大丈夫です。気にしないでください」
「そういってもらえると助かるわ。でも、本当にごめんなさいね」
「それにしても、これが異世界の知識ですか……」
「えぇ、ポイントを振る価値はあるでしょう?」
「そうですね。知らないとかなり困っていたかもしれません」
「それから、今はまだ分からないと思うけど、能力や才能もちゃんと与えているから、筋力は上がっている筈だし、魔法も使えると思うわ」
「そういえばそうでしたね……魔法、使えるようになったんですね。ありがとうございます!」
フェインラミナスの言葉に星矢は喜びがこみ上げる。
正直チートじみている気がしなくもないが、強いことに問題があるはずもない。星矢は素直に喜ぶことにした。
「これで俺も異世界に行けるんですね」
「まだよ。まさかあなた異世界でも星矢って名乗るつもり?名前だけで目立つわよ。それに武器もお金もないじゃない」
「うっ」
(全然考えてなかった……そりゃそうだよね)
図星を突かれた星矢は少し悩んで声を出す。
「セインなんてどうでしょう?元の名前とそれほど変わらないので俺としても呼ばれることに違和感が湧きませんし」
「それなら良いと思うわ。セインね。私の名前にも似ているし、気に入ったわ」
「似てる……」
そこでセインは思い出した。元の世界に置いてきた自分と名前が似ている幼馴染の事を。それと同時に家族や友人の事を思い出し、もう彼らに会えないのだという事を理解する。
そんなセインの様子を見てフェインラミナスは反省した。
「ごめんなさい。少し配慮が足りなかったわね。元の世界の人たちの事を思い出したのでしょう?」
「はい……俺は、みんなとはもう会えないんですよね」
「そうね……無理だわ。でもどうしても会いたいというのなら、手が無いわけではないわ」
「本当ですか!?また父さんや母さん、聖奈に会うことが出来るんですか!?」
「無条件ってわけでもないけどね。まず、今生きている彼らを殺して異世界に連れて行くことなんて出来ないから、不謹慎だけれど彼らが死ぬのを待つことになるわ」
「さすがに俺も殺してまで会いたいとは思っていませんよ」
「そして死んだ彼らの魂をあなたと同じようにここに連れてきて、そこで本人が転生を望んだ場合、あなたと同じ世界に転生させることにするわ。死んだときの年齢によっては若い体に移ってもらうことになるけどね」
「条件は、それだけですか?」
「いいえ、さすがの私も1人の人間のためにここまで世界に干渉する権限は無いわ。本来は迷ってきた魂を導くのが私の仕事だもの」
フェインラミナスの言葉を聞き逃さないよう、セインは静かに話を聞くことにした。
「だから、あなたが世界の役に立つ存在だと証明する必要があるわ」
「証明……」
「要は世直しね。具体的には、滅びかけている村や街、時には国を救うために力を振るえば、可能性はあるわ。そのためにドラゴンや魔王と戦ったり、戦争に介入する必要も出てくるわ。その覚悟はある?」
「そうすれば、会えるんですか?」
「ええ、あなたが功績を挙げれば挙げるほど私はあなたのために動くことが出来るわ」
「分かりました。やります。やってみせます!」
「あと定期的に神殿や教会に顔を出しなさい。そうすれば神託という形であなたに指示を出せるわ」
「分かりました」
「じゃあ、詳細な指示は後から出すわ。まずは異世界で強くなりなさい。力のない正義に意味はないのよ」
「分かりました。全力で強くなれるよう努力します」
「あなたの努力を神はいつでも見ているわ。覚えておきなさい。努力と神は裏切らないのよ」
「分かりました」
家族や幼馴染に会いたいがあまり、イエスマンの如く返事をするセインにフェインラミナスは少し心配になった。
「何よりもまず、あなた自身が異世界を楽しみなさい。あなたが楽しめない世界にあなたの大切な人を連れて行くわけにはいかないわ」
「……!すいません。ありがとうございます」
フェインラミナスの声にセインは我に返った。そして彼女の気遣いに感謝する。
「じゃあこれからのことについて話し合いましょうか。まず、私があなたを転生させるのはシンフィア王国というところよ。ここは比較的魔獣も弱くて、気候も穏やかなの。人種差別も無いから人間以外にも獣人やエルフみたいなのもいるわよ」
「獣人やエルフ……いよいよファンタジーですね」
「それから、いきなり街の中には転生させないわ。さすがに人がいきなり現れたら目立って仕方がないもの。だから街から10キロほど離れた草原にあなたの体を作るわね」
「街の外ですか……じゃあ街に向かう間に魔獣に襲われることも……」
「充分あり得るわね」
「武器ってどうすれば良いんでしょうか?今覚えた魔法の中に攻撃魔法らしきものがないんですけど」
「あなたに覚えさせたのは簡単な魔法だけだからね。でもそれらの魔法を駆使すれば簡易的な武器は作れると思うわ」
「じゃあ異世界に行ったらまずは武器を作らなきゃダメですね……」
「そうね。それから町に入る時に入市税がかけられるから気を付けなさい」
「分かりました。それじゃあ早速、異世界に送ってください」
「遊びじゃないのよ?死ぬかもしれないんだから、気を引き締めなさい」
異世界に行けることに心が踊っているのか、急かすように頼んだセインに、フェインラミナスは少し呆れたように注意した。
呆れつつも魔法の使い方等を丁寧に教えてくれるフェインラミナスに、今度は焦らないように心を落ち着けて、セインは静かに説明を聞くのであった。
――――――
「こんなところかしら、それじゃあ、心の準備は出来た?」
「はい。いつでも大丈夫です」
「じゃあ最後にひとつだけ、これだけは覚えていてちょうだい。『努力に勝る天才なし』 私はあなたに多大な才能を与えたわ。でもその才能に溺れて努力を怠ることのないようにしなさい」
真剣な表情で彼女はそう言った。
「新しい異世界ライフを楽しんでね。じゃあ、さっき話した通り、シンフィア王国領に飛ばすわよ!えいっ!」
フェインラミナスの気の抜ける掛け声と共にセインの周囲が光に包まれる。
――――――
しばらくの時間が経ち、セインを包んでいた光が霧散する。
ゆっくりと、目を開ける。
そこには果てしなく続く草原。遠くに山が見える。
雲ひとつない壮大な空に、巨大な何かが飛んでいた。あれは飛竜だろうか。
飛竜の更に上、ちょうどセインの直上に真っ赤な太陽が輝いていた。
異世界であっても自然というのは変わらないらしい。
辺りを見渡すと山とは反対側、3キロ程先に森がある。
見た限り、目に映る範囲に街は無いようだ。
だが、森を迂回する様に街道が伸びているのを見つけた。
この道に従って進んでいけば、いずれは街に辿り着けるだろう。
「俺、異世界に来たんだな……」
セインは異世界に来たことによる高揚感と、上手く生きていけるのかという不安がない混ぜになったなんとも言えない感情に襲われる。
とにかく立ち止まっていても仕方がない。
(街に行きたいけど、確か通行料が欲しいんだよね……この世界の金なんて持ってないし、ひとまずお金になりそうなものでも調達しよう。森の中で動物を何匹か狩れば、通行料分にはなるかもしれない)
初めからグダグダなことに、不安が大きくなるセイン。
「とりあえず武器だよね」
先程、フェインラミナスに教えられた魔法を思い出す。
「まず、土魔法で石を出す」
セインが自分の体内に意識を向け、身体の中を流れるモノに集中する。
すると、自身の心臓付近からナニカが湧き上がってきていることに気がつく。
(これが、魔力)
それを少しずつ動かすように意識する。
すると身体の中に溜まっていた魔力が意識した通りに動くのが分かった。
(すげぇ、動く。でもなんか、身体の中のものを動かすって変な感じだなぁ)
初めての試みに少し手間取ったがセインは流れるように魔力を動かすことが出来るようになった。
(これを集めて、掌から外に出す!)
すると、セインの脳内に魔法陣のような、いくつかの円と三角が合わさった図形が映し出された。
(もしかして魔力でこの図形を作れってこと?こんなの最初に魔法使えるようにして貰ってなかったら分かんなかったよ。フェインラミナスさまさまだね)
掌から出した魔力を操作して掌サイズの魔法陣を描く。
すると使った魔力と魔法陣がパッと消え、セインの掌には拳程の大きさの石が乗っていた。
「おぉ……!」
初めての魔法。石を作るだけだが日本では絶対にあり得ない現象にセインの心は弾んだ。
それと同時にセインは認識する。
自分は魔法を使えるようになったのだと。フェインラミナスが与えてくれた力は本物だと。
つまり、自分が戦争を止められるほどの力を手にすることが出来るのだということを。
「すげぇ。すげぇ……すげぇ!!!」
それから、セインが心を落ち着かせるのに10分程の時間を要した。
だが実際に魔法を使うことが出来たのだ。無理もない。
「とにかく続きだな。この大きさじゃ、武器としては小さすぎるよな。もっと大きくするには……魔力をもっと込めれば良いのか」
魔法のことで分からない事はフェインラミナスが与えてくれた魔法の知識が教えてくれる。
セインはその知識に従って魔力を込めた。
(どうせなら、魔法名とか叫んでみよう)
「土魔法、クリエイトブロック!!!」
使用した魔力量に応じて魔法陣も大きくなり、直径20センチほどの魔法陣が空中に描き出される。
そしてセインの掌から魔法陣とほぼ同じ大きさの岩が作りだされた。
「やばい楽しいなこれ」
だが遊んでいる場合でもない。早速次の作業に取り掛かる。
「武器にするなら、形を変えないとな」
セインが岩に魔力を通すと、またもや脳内に先程のものとは違う魔法陣が映し出された。
それに従い岩に通した魔力で魔法陣を描く。
だが何も起こらない。
(あれ?なんでだ?……あぁ、どんな形にしたいか思い浮かべる必要があるのか)
またもやフェインラミナスが与えてくれた知識が教えてくれる。
「じゃあ木刀みたいな感じに細長くしてっと」
セインが形を思い浮かべた瞬間、岩の形が変わり始める。
変化が終わり、セインが手元にあった石を見るとそこには、長さ約1メートルの石で出来た刀があった。
「おぉ!出来た!でもなんか、すぐ折れそうだなこれ」
石をただ細長くしただけである。耐久性も推して知るべしだろう。
「これは使えないな。もう少し太くして棍棒みたいにするか」
それからセインは直径30センチの石を作り出し、先程作った石刀と合わせて形を変えていく。
するとセインの手の中には直径15センチ、長さ約1メートルの棍棒が出来ていた。
「これなら多少は戦えるかな。それにしても、こんなでかい岩、普通動かすので精一杯なのに、普通に持てるんだな」
(これもフェインラミナスが与えてくれた力の恩恵かな……)
ともかくこれで武器は手に入った。
「それじゃあ、早速狩りだな。近くに動物はいなさそうだし、森に行くか」
そして、セインは先程見つけた森に向かって歩き出した。
という事でまたもや広告詐欺のようなことをしました。
と言っても今回は元々異世界に来て終わるつもりだったので予定調和です。
お伝えしていなかっただけです。
作者のお茶目なイタズラだと思ってください。
次回をお楽しみに!!!