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勘違い転生者の無自覚冒険譚  作者: ルーニャ
第1章 異世界からの来訪者
18/18

勘違い魔物狩りの冒険生活術

飯テロ注意報発令

 セインが転生したこの世界では、1年が1000日ある。

 具体的には、24時間で1日、10日で1週間、10週間で1ヶ月、10ヶ月で1年といった様に日付を数えていくのだ。


 これらの知識は常識としてセインも知っていた。


 しかし、知識で知っているのと身を持って体感するのとでは大きな違いがやはり大きな違いがあった。



「カレンダーが立方体(キューブ)状だ……」



 ―――――――



 魔法師ギルドにて無事に魔法師としての登録を済ませたセインは、時間を持て余していた。


 朝早くからザキに呼び出されたこともあり、魔法師ギルドを出た時にはまだ日が上がりきっておらず、半日以上時間が空いてしまっていた。



(狩りに行っても良いけど、この世界に来てから毎日だからなぁ……(たま)には休みたい)



 1週間近く、慣れない環境で慣れない仕事を続けていたのだ。本人は自覚していなかったが、それなりの疲れが溜まっていた。



(ギルドと道具屋しか行ったことないし、街の散策でもしようかな。それで満足したらいっぱい寝る!うん、そうしよう!)



 そうして、カールンの街に繰り出したセインが街の雑貨屋で見つけた物は、10センチ四方の木製の立方体(キューブ)だった。

 それは、1センチ四方の立方体を1列10個の10列10段に並べ接着剤で1つの立方体にしたものであった。


 店主曰く、日付が変わるたびに角から一つずつ順番に外していき、日数を数えるのだとか。

 要は日めくりカレンダーだ。


 世界が変われば(こよみ)もカレンダーも変わるのかとセインは衝撃を覚えた。


 他にも砂時計がここでは水時計であったり、何かの動物の毛がアロマになっていたりと、セインが見たこともない様な品物でいっぱいだった。


 街の中を色々見て周るつもりが、余りに夢中になって雑貨を見ていたため、セインが雑貨屋を出た時には日が(なか)ば程まで落ちてきていた。



(いやぁ、面白かった。初めて見るものばかりで飽きなかったなぁ、また来よう)



 充分過ぎるほどに満喫(まんきつ)し、意気(いき)揚々(ようよう)と街中を歩いていたセインは、腹の音で自分が空腹だということに気がつく。



(そういえば朝ごはんの後からなにも食べてないんだった。出店(でみせ)で何か買って食べながら帰ろっと)



 どこかに出店は無いかとセインが辺りを見渡すと、少し離れたところに串焼き屋があることに気が付いた。


 店の前には数人の客が並んでおり、店主は1人で切り盛りしているようで、忙しなく働いているのが見て取れた。

 繁盛しているようで、味にも期待が持てた。


 セインも列の後ろに並んで待つこと数分、列は進み、すぐにセインが先頭になった。



「らっしゃい。何本にします?」



 メニューは1種類しか無いらしく、セインは店主から本数のみ問われた。



「3本ください」



 串には、切り分けられた肉が刺さっており、その一片々々(いっぺんいっぺん)(かろ)うじて一口サイズと言えるほどに大振りであった。


 お金を払いすぐに、焼き立ての串焼きが手渡される。

 何の肉かは分からないが、肉汁が(あふ)れ出しており、非常に食欲を(そそ)られる。


 手元から漂う香ばしい匂いはその肉本来の匂いか否か、今すぐにでも(かぶ)り付きたくなる衝動に駆られるほど、脳を刺激する。


 迫り来る衝動を抑え店から離れたセインは、通行の邪魔にならないよう道の端に寄り、腰を据えて串焼き肉を口にする。



「いただきます」



 一口、口に入れた瞬間に香りと肉汁が口内を埋め尽くし暴れ回る。

 野性的でありながらも完成された旨みは、セインが日本にいた頃ですら味わったことのないほどに極上だった。


 力強く弾力のある噛み心地の肉は、それでいて固過ぎず、噛めば噛むほどほぐれて柔らかくなる。



(なんだこれ……めちゃくちゃ美味しい……!)



 1つ、1つと食べるにつれ満たされていく空腹感。

 食えど食えど飽きが来ない味わいに舌鼓を打ちながら、気が付くと手にする串の肉は全て胃袋に収まっていた。


 食べ切ってからも、数分程余韻に浸る。

 肉の味、噛んだ時の食感、口に入れた時の香り、嗅いだ時の匂い、その全てが脳裏に残り、セインの満足感を満たしてくれた。



(こんな美味しいもの毎日食べてたらダメになりそう……)


 そうして、腹を満たしたセインは宿に戻り、幸福感に満ち溢れたまま眠りに落ちたのだった。



 ―――――――――



 翌朝、快眠から目覚めたセインはザキ達との約束の時間に合わせてギルドへ向かった。


 いつもセインが利用している時よりも早い時間のギルドは、多くの冒険者が掲示板に押し寄せており、肝心の掲示板が見えないほど人が密集していた。



「この街の冒険者ってこんなにいたのか。知らなかった」


「だろ?どうせ見たことないだろうって思ってよ。この時間に呼び出したんだ」



 セインが声のする方を振り返ると、そこにはイタズラを成功させた子供のようにニヤつきながら、依頼書をひらつかせているザキの姿があった。



「ああおはよう。ザキ、ミヌス。びっくりしたよ、ピークって言ってももっと落ち着いたモノかと思ってた」


「この人混みから狙った依頼書取るのは結構むずいんだぜ?」



 ザキは何かを催促するかのように依頼書をちらつかせる。



「あぁ、そう思うよ。見ただけで分かる。ありがとな、ザキ」


「良いってことよ!」



 ザキは嬉しそうに鼻を(すす)る。どうやらセインの返事は正解だったらしい。



「そろそろ行くぞ。獲物も早い者勝ちだからな」



 ミヌスの言葉を皮切りに、各々はすぐに支度を終えてギルドを出た。



 ―――――――――



 北西の山へと向かう道中、セイン達は各々の装備と役割のすり合わせを行いながら歩いていた。


 ザキの武器は刃渡り1メートルのロングソード。

 ミヌスの装備は身の丈程の大楯と短剣であった。



「ってことで俺が基本的にアタッカー。ミヌスにはタンクやスカウトの役割を担って貰ってんだ。ミヌスは頼りになるぜ」



 そう言って自信満々に笑うザキの笑顔には、ミヌスへの信頼が見て取れる。



「フンッ!セインてめえ足は引っ張るんじゃねえぞ!だがまあ、危なくなったら守ってやる」



 セインに釘を刺しながらも、ミヌスは満更でも無さそうな表情をしていた。




 その後、セイン達3人が北西の山へ向けて歩くこと数時間。

 太陽は遥か頭上へ昇り、目的地はすぐ目の前まで来ていた。


 山の(ふもと)には、他の冒険者が建てたであろうテントらしきものがいくつも立ち並んでいた。



「やっと着いたか!早速だが山に入るぞ!」


「ちょっと待てザキ、俺たちはテントとか張らなくて良いのか?」


「寝る時以外は要らねえよ。テント張って放置してみろ、山に入ってる間に荷物もテントも全部盗られちまうぜ」



 ザキの言葉を聞きセインはすぐに納得した。考えてみれば当たり前だ。


 日本ですら置き引きなどが多発しているのだ。日本に比べて圧倒的に治安が悪いであろうこの世界で、放置した荷物が盗られない道理はなかった。


 そうして、セイン達一行は野営地を後にして山に入った。



 ――――――――



 山の木々は角ウサギの森に比べ、背は高くなく、木々の隙間から日が差し込んで来ており、見方によっては幻想的でもある風景が広がっていた。


 やはり森に比べると生物は多いようで、セインはそこかしこから生き物の気配を感じ取っていた。


 そんな山の中を勝手知ったる足取りで悠々と突き進むザキの後ろを、息を切らしながら着いていくセイン。

 慣れぬ山歩きで足は草臥(くたび)れ、周りを気にする余裕も無くなったセインは着いていくことで精一杯だった。


 果たしてどこまで進んだのか、四半刻ほど歩いた時には、木漏れ日は細くなり、セイン達を囲む小動物の気配は(ふもと)に比べ多くなっていた。



「さて……と、セイン。お前魔法師の資格は持ってるか?」


「おう!つっても昨日取ったばっかだけど」


「ならちょうど良いな!今から新米魔法師に、先輩から素晴らしい冒険術を教えてやるぜ!」



 演技混じりの大袈裟(おおげさ)な仕草で、ザキはセインを指差した。



「おぉ!よろしくお願いします、先輩!」



 セインはここぞとばかりにザキのノリに合わせていく。



「今回は【探査(サーチ)】の魔法を教えてやる」


「楽しみです、先輩!」

(【探査(サーチ)】の魔法かぁ。効果は知ってるから、魔法陣を一から作ろうと思えば作れるけど、教えてもらうに越したことはないよね!)



 セインはこのノリをずっと続けていくつもりらしい。

 ザキも(きょう)が乗って来たのか、次第にハイテンションになっていく。


 そんな二人を一瞥(いちべつ)すらすることなく、ミヌスは無言で歩を進めていた。



「しかもだ!今回はなんと魔法陣を使わない【探査(サーチ)】だ!」


「えぇ!?そんなことが出来るんですか!?物知りですね!流石です先輩!」

(詠唱魔法とかそういう系かなぁ?)


「ふっふっふ、先輩だからな!で、だ。セインは魔力の操作は出来るだろ?」


「はい!出来ます!」


「なら自分の魔力を薄い膜状にして周囲に広げてみろ。魔獣がいたら違和感を感じるはずだ」


「は、はい!」

(詠唱も魔法陣も何も使わないの!?そんな魔法あるなんて知らなかった……)



 セインがフェインラミナスから受け取った魔法の知識は、魔法を作るための知識である。

 そのため、魔力操作のみで効果のある魔法に関しては、全くの無知であった。


 ひとまず、ザキに言われたように魔力を操作する。

 3メートル、5メートル、10メートルと少しずつその範囲を広げていき、15メートルに達した段階でセインは

 違和感を覚えた。



「あっちの方!なにかいる!」



 セインはすぐさま反応のあった方向を指差し、ザキ達に伝える。



「1発で覚えるとは筋が良いじゃねえか!いっちょ狩りと行くか!」



 威勢の良い声と共にセインが指差した方向へと走っていくザキ。

 置いていかれまいとセインとミヌスも後へと続いていった。


 木々の隙間を抜け、向かった先では既に臨戦態勢に入っているイノシシの魔獣がいた。


 イノシシの魔獣はセイン達を視認した瞬間セイン達に向けて突進を始めた。



「やべぇシールドボアだ!セイン、ミヌス!横に避けろ!」


「お、おう!」



 ザキの掛け声に反応してセインも避けようとするが、間に合わない。

 このままではセインが動き出す間もなくシールドボアと衝突するだろう。



「チィっ!」



 間一髪、反応の遅れたセインを引っ張って、ミヌスは大きく横に移動した。


 先程までセインが立っていた場所をシールドボアが勢いよく駆け抜けて行く。

 ミヌスの手助けが無ければ無事では済まなかっただろう。



「セインてめえ!足引っ張るなって言っただろうが!」


「悪い!ミヌスが助けてくれなかったらやばかった」


「ッチィ!」



 腹立たしげに舌打ちをしながら、ミヌスは大楯を構える。


 突進に失敗したシールドボアはもう一度狙いを定めるようにセイン達の方向を向く。

 その時、ザキはいつの間にかセイン達の側から離れて身を潜めていた。


 そのことに気付かないまま、シールドボアはセイン達に向けて突進する。

 どうやら大楯ごとミヌスを吹き飛ばすつもりらしい。


 ミヌスの大楯とシールドボアが衝突する。

 けたたましい金属音が周囲に響く。


 激しい衝撃により1メートル程後方に押し出されながらも、シールドボアの突進をミヌスは危なげなく受け切っていた。



「セイン!こいつの横っ面をぶん殴れ!」


「おらぁっ!」



 すぐにミヌスから指示が飛ぶ。

 セインはミヌスの後ろから飛び出し、隙だらけのシールドボアに向けて棍棒を振り上げる。


 衝突による衝撃と、連なるセインの殴打により脳が揺れたシールドボアは、立っているのがやっとな程フラついていた。


 それでもまだ戦意は衰えないのか、またもや突進の体勢を取る。



「させねえよ!」



 その時、木陰に潜んでいたザキがシールドボアの死角へと飛び出す。

 飛び出した勢いのまま走ったザキはシールドボアの首へと剣を突き刺した。


 死角から出てきたことによりザキに気付くこともなく、シールドボアはザキの剣によって(たお)れたのだった。



「よし!解体して袋に詰めるか!」


「待ってザキ!」



 シールドボアを倒した喜びに湧く間もなく、セインが声を上げる。


 戦闘中もずっと【探査(サーチ)】の魔法を切らす事なく使っていたセインは、とある異常事態に気付いていた。


 セイン達の周囲から徐々に近づいてくる魔力反応。

 強弱様々なそれらの数は、軽く10を超えていた。



「魔獣に……囲まれてる」



 1匹ですら本気で向かわねばならない相手だ。


 その報告は、彼らにとって絶望に等しかった。




 やっとホーンラビット以外の魔獣がまともに登場しました。


 せっかくなので魔獣の詳細情報でも載せておきます!



シールドボア

 魔獣化した盾イノシシ

 盾イノシシは額の骨が盾の様に硬く広く平べったい形状に発達したイノシシである。その頭蓋骨は鉄を思わせるほど硬く、剣で切り裂くのは困難を極めるだろう。

 盾イノシシの雄は頭蓋骨の前面が平らに発達している一方、雌は頭蓋骨の上面が平らに発達している。また、雄の牙は非常に短く小さいのに対して、雌の牙は非常に長く太い。

 これらの性別による違いは群れが襲撃された際に役割の違いとして顕著に現れる。雄が盾として襲撃を抑え、その隙に雌が牙を用いて機動力の無い子供を頭上に乗せて逃げるのだ。


 魔獣化した盾イノシシはシールドボアと呼ばれ、本来群れを守るために使用していた額や牙を武器として用いるようになる。また、雄の場合は額が、雌の場合は牙が硬質化し、鉄をも凌駕する硬度を誇るようになる。

 これらの素材は冒険者の間で盾や矛の材料として非常に重宝されており、その狩猟難度の高さからも高値で取引されている。

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