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勘違い転生者の無自覚冒険譚  作者: ルーニャ
第1章 異世界からの来訪者
17/18

勘違い先導者達との顔合わせ

「ザキのパーティに、俺が?」


「おう!ちょうどパーティメンバー募集してたとこでよ。そこにあるだろ?荷物持ち1人募集のやつ」



 ザキが指差した貼り紙は、確かに先程セインが見たものだった。



「これザキのパーティのやつだったのか。だけど良いのか?俺は冒険者なりたてだし、多分足引っ張ると思うぞ?」


「ハハッ!元々荷物持ち募集してんだ。戦力なんて気にしてねえよ。それより俺たちの横で学んで、早く一人前になればこっちも助かるってもんだ」


「そういうことなら、俺としてもありがたい話だ。ザキ、俺をパーティに入れてもらってもいいか?」


「そうこなくっちゃな!これからよろしく頼むぜ、セイン!」



 よし来た!と言わんばかりの笑顔でザキはセインの肩を叩く。



「改めてよろしく。ザキ」



 セインの初めてのパーティが結成した。






「さて、無事荷物持ち要員も確保出来たし、こいつはもう要らねえな」



 ザキはそう言いながら掲示板の貼り紙を()がす。


 セインは後で聞いた話なのだが、ザキ曰く、パーティの募集や結成は冒険者同士の問題の為、ギルドは特に管理していないということだった。


 つまり貼り紙も貼るも剥がすも本人の自由ということだ。



「ところで、ザキのパーティメンバーって誰なんだ?確かずっとコンビでやってるって言ってたよな」


「おぉ、そうだな。紹介してやりてえんだが、あいつ今忙しくてなぁ。まあ、そのこともあってこんな時間に俺はブラついてるわけなんだが」



 ザキの言う通り、今は冒険者が街に帰ってくるには少し早い時間帯であった。



「明日からならあいつも時間あるから、朝のピーク過ぎた辺りに冒険者ギルドで落ち合うってのでどうだ?」


「そうだな、俺も色々やらなきゃいけないことがあるからちょうどいい。明日の朝、ギルドな」



 折れた武器の修理に血で汚れた革袋の清掃、他にもセインにはやるべきことがたくさんある。



「んじゃ、俺はまたブラつくとするか!またな、セイン」


「おう!また明日!」



 セインはザキと別れた後、ロンタンに明日の魔法の勉強が出来ないことを伝える為、魔法師ギルドに向かった。


 要件をロンタンに伝え、魔法師ギルドを後にしたセインは道具屋で必要なものを買い揃えた後、宿に帰ったのだった。




 ―――――――




 翌朝、セインは折れた石棍棒の修復などをしながら時間を潰し、いつもより少し遅い時間に宿を出る。


 セインが冒険者ギルドに到着した頃には、既にザキ達が来ていたようだ。


 ギルドに入ったセインにテーブル席から声がかけられた。



「セイン!こっちだぜ!」



 セインが声のする方に目を向けると、セイン向かって手を振るザキとその隣の席に座る筋肉質の男がいた。



「ごめん、待たせたな。隣にいるのがもう1人の仲間か?」


「おうそうだぜ!ミヌスってんだ」


「ミヌスだ。てめえがセインか、ザキから話は聞いてる、足引っ張りやがったらぶっ殺す」



 いきなりの暴力的な発言に、パーティを組んだのは失敗だったのではないかと早々に後悔しながらもセインは挨拶を返す。


「あ、ああ。努力するよ。よろしく頼む」

(こっわ!!!何この人超恐い!!!マジで殺されそうなくらいガチの目つきなんだけど!もう既にこのパーティでやって行ける気がしないよ!)


「すまねえなセイン。こいつ短気だし口も(わり)ぃから、よく誤解されるんだがよ、腕は確かだし、根はいい奴なんだ。仲良くしてくれると助かる」


「あぁ大丈夫、気にしてないよ」

(本当に?本当に大丈夫?信じるよ?ザキ頼むよ?マジで)



 内心のことなど全く表情に出さず、にっこりと微笑みながらセインは頷いた。



「それなら良かった!じゃあ早速今回受ける依頼の相談なんだがよ。セインは北西の方にある山は知ってるか?」


「山っていうとあれか?角ウサギの森に向かう街道を向かう時に右手の方に見えるやつ」


「そうそう!その山だ!角ウサギの森に比べるとかなり遠いんだが、その分あそこは実入りが多いんだよ」



 ザキの言う山は、カールンの街から北西に15キロほど離れた位置にあり、安定して稼げる狩場として中堅の冒険者から人気のある場所だ。



「ただなぁ、最近山の魔獣達が(ふもと)の草原まで出て来てるみたいでよ。ギルド曰く魔獣が増え過ぎて溢れ出てるんじゃねえかってことで、間引きの依頼が出されたんだわ」


「つまり今回はそこで魔獣狩りをして、俺は荷物持ちとして参加ってことでいいのか?」


「おう!そういうこった!余裕がありそうなら戦い方とかも教えるからよ、いい経験にはなると思うぜ」


「願ったり叶ったりだな。それで、山には今から行くってことでいいのか?」


「いや、明日行くつもりだ。なんせもうピークが過ぎちまって依頼が残ってないからな。だが、知り合いの冒険者から聞いた話によると(ふもと)の魔獣が想定よりも多いみたいでな。多分明日も同じように依頼が出るだろうって予想だよ」


「ザキと違って俺は今日もやることがある。元々今日は顔合わせのためだけにここに来てやったんだよ」


「そういうこった。ミヌスがそろそろ行かなきゃやべえから、俺たちはもう出るぜ。依頼は俺が受けてくるから、明日はピークの時間にギルド前で待っててくれ。じゃあなセイン、また明日!」



 最後はセインが返事をする間も無く嵐のように話して、2人は出て行った。


 ザキの言っていたミヌスの用事がよっぽどギリギリの時間だったということだろうか。



「って俺今日の予定無くなったんだけど!?」



 セインは今日狩り行くつもりで準備して来たのだ。それがまさか明日になるとは思ってもいなかった。



「今からどうしようかな……昨日は行けないって言ったけど、ロンタンの所に行ってみるか」



 せっかく時間が出来たのだ。ただ無為(むい)に過ごすのは勿体(もったい)無いと、セインは今日の予定をすぐに決めて、魔法師ギルドへと向かっていった。




 ―――――――




 魔法師ギルドはいつもと変わらず、ほとんど人がいなかった。


 セインがカウンターに向かうと、これまたいつもと変わらず小さなローブ姿の少女がとんがり帽子をズラしながら顔を上げる。



「おや、セインさんじゃないですか。今日は来られないと言っていたのに、何かあったのですか?」


「おはようロンタンさん。実はパーティで狩りに行くつもりだったんだけど、明日になってな。せっかくだし、魔法の勉強をしようと思って来たんだよ」


「そういうことでしたか。それならちょうど良かったです」



 しかし、今日はいつもと違うことが一つだけあった。



「昨日の時点で第七種魔法資格試験の内容はほとんど教えてしまったのです。なので、今日は試験を受けてみてはどうです?」



 数日に渡ってロンタンに教えて貰いながら、魔法の勉強をしてきたセイン。


 ロンタン曰く、もう試験を受けても受かるだろうと判断したらしいのだ。



「もちろん、強制ではないのですが、セインさんは記憶力も良いですし、早くいろんな魔法が使えるようになれたら良いのではっと思ったわけなのです」


「まあ、そういうことなら受けてみようかな。正直あんまり自信は無いんだけどな」


「大丈夫なのです。セインさんなら受かるのです。私が太鼓判を押すのです」


「ふふっ、ありがとうロンタンさん。俺頑張るよ」


「その意気なのです!」



 ロンタンの後押しにより、自信がついたセインは絶対受かってみせると意気込んだ。



「それでは早速試験に移ります。セイン様着いてきてください」



 普段の砕けた口調から受付嬢モードへとスイッチを切り替えたロンタンに案内され、前回の筆記試験の時と同じ部屋にセインは連れられた。



「では試験官が来るまで席に座って少しお待ちください」



 前回は全くの無知の状態から試験を受けることになってしまっていた。しかし今回はしっかりと勉強してきた為、セインは落ち着いた様子で席に座った。


 それからすぐに試験官が部屋に入ってきた。



「それでは、私は失礼します。扉が閉まると同時に試験を始めてください。制限時間はありませんので落ち着いて解いてください」



 前回の試験の時と同じ台詞(セリフ)を言った後、ロンタンは部屋を出ていった。



 セインは、いつのまにか机に用意されていた試験用紙をめくり、問題に目を通す。



(すごい!解ける!これも、この問題も、進研○ミでやったとこだ!!!)



 ふざける余裕すら持ちながらスラスラと問題を解いて行くセイン。


 ほんの数分で全て解き終えてしまった。


 最後に一通りチェックして、ミスが無いことを確認したセインはペンを机に置いた。



「今回は速やかに解けたようだな。ここ数日、受付嬢と勉強しているのを見かけた。受かっていると良いな。ひとまず試験用紙は回収する。確か君は技術試験は受かっていたな。それならカウンターの方に戻って、採点結果を待っていてくれ。失礼する」



 セインは話しかけられてようやく気がついたが、どうやら前回の時と同じ試験官だったようだ。


 彼は手早く試験用紙を回収すると部屋から出て行った。


 セインもすぐに試験部屋を出て、カウンターに戻る。



「お疲れ様なのですセインさん。これで学力試験が合格なら、あとは性格試験だけなのです」


「そういえばそんなのあるって言ってたな。何をするんだ?」


「いくつかの質問に答えてもらうだけなのです。ここ数日話した感じだと、セインが第七種の性格試験に落ちることはないと思うのです」



 またしてもセインの不安を払拭(ふっしょく)するように話すロンタンの優しさに、セインは感動の涙を流していた。心の中で。



(何この子ほんとに優しい……勉強だってボランティアで教えてくれたし、今度お礼しなきゃなぁ)



 セインがどう恩返しすべきかとしばらく悩んでいる間に、筆記試験の採点が終わったようだ。



「セインさん採点結果が出たのです」


「おお!どうだった?」


「おめでとうございます!満点なのです!教えた甲斐があったのです!」


「やった!ロンタンさんのおかげだ!ありがとう!」



 満点での合格通知に、2人は喜びを分かち合った。



「それではセイン様、性格試験に移りたいと思います。こちらへどうぞ」



 そう言いながら、ロンタンは紙を数枚持って、いつも勉強の時に使っているテーブル席へと歩いていく。



「ここでするのか」


「はい。それでは質問を始めます。正直にお答えください」



 セインが席に座ると性格試験が始まった。


 その質問内容はどれも「人助けは良いことか否か」「盗みを働くことは良いことか否か」など、道徳を問うような質問ばかりだった。


 質問をするときにジッとセインを見つめるロンタンに、少し緊張を覚えつつも、(おおむ)ね問題無く質問は進み、性格試験は終了に向かっていった。



 ―――



「最後の質問です。セイン様は何のために魔法を使いますか?」



 最後の質問に少し悩むセイン。


 なんとなく、カッコいいイメージだから、物語やゲームの中で憧れていたから。


 そんな答えが頭の中に浮かんでは消えていく中、一つ、コレだと確信を持って言える答えが浮かんできた。



「家族と、幼馴染に会いたいんです」



 転生したセインの事情を知らない者が聞けば、質問の答えになってないと思う者が全てであろう答え。



「そう、ですか。なら、早く第一級魔法師にならないとダメですね。頑張りましょう!」



 ロンタンは、そんな突拍子もないセインの答えに対して、否定も、侮蔑も、野暮な問いかけもしなかった。


 ただ、ニコリと微笑んで、応援の言葉をセインに投げかけた。



 ――――――



 性格試験も終わり、全ての試験が終了した。


 カウンター前まで戻ってきたセインは現在、性格試験の結果待ちをしている。



「お待たせしましたセイン様。結果を発表いたします」



 受付嬢モードのロンタンがカウンターの奥からやって来る。



「おめでとうございます!合格です!」



 本当に嬉しそうに手を握りしめて、ロンタンは合格通知を口にする。



「やった!ありがとうございます!これで第七種の魔法も使っていいんですよね?」



 喜びのあまりか何故か、ロンタンに対して敬語に戻るセイン。



「はい。大丈夫ですよ。これより、セイン様は第七級魔法師として、魔法師ギルドに登録いたします。よろしいですか?」


「はい!お願いします!」



 しかし、これでセインが得たのは第七種魔法資格だ。


 まだ、攻撃魔法も使えないし強力な強化魔法も使うことが出来ない。


 それでも、これからの狩りに役立つ魔法がいくつも使えるようになったことは確かだ。






 着実に、一歩、目標へと進んだことを、セインは実感した。




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