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勘違い転生者の無自覚冒険譚  作者: ルーニャ
第1章 異世界からの来訪者
16/18

勘違い失敗者へ冒険の豆知識

今回から物語が加速します。

楽しんでください。

 ロンタンによるセインのための魔法講座が始まってから3日が経った。


 その間セインは、朝は魔法講座、日が昇ってからは森でウサギ狩りと薬草採りという生活を繰り返し、その間いくつかの依頼をこなしながら順調に稼いでいた。


 人とは素晴らしいもので、セインがこの世界に来てからもうすぐ1週間ほど経つが、既にこの生活に慣れ始めていた。


 とは言っても、今でもホーンラビット相手に怪我をすることもたまにあるのだが。



 そんなある日のこと、セインはいつも通り角ウサギの森を歩いていた。

 余談ではあるが、角ウサギの森で毎日狩りをしているのは現在セインのみだ。


 理由としては単純。稼ぎにならないからである。

 角ウサギの森に生息しているのは名前の通り角ウサギとホーンラビットのみだ。これには色々と理由があるのだが、今は割愛しよう。


 この2種類は非常に素早く、そして小さいのだ。木々が生い茂る森の中、大きくても人の脛ほどの大きさしかない生き物だ。見つけるのにもそれ相応の時間がかかる。


 更に、相対したとしても攻撃があたらず逃げられるか一方的に殴られることが多い。

 それだけではない。


 角ウサギとホーンラビット。この2種類は安価で取り引きされるのだ。

 小さな身体のため、取れる肉が少なく、他に利用できるのは額に生えた角のみ。それもあまり頑丈とは言えない代物だった。


 これらのことから、角ウサギとホーンラビットは狩るための苦労の割に実入りが少ないこととして有名なのだ。角ウサギの森に他の冒険者が来ないのも納得である。



 そんな角ウサギの森で、確実に稼いでくる冒険者がいる。

 そう、セインだ。

 セインが何故、この森で稼ぐことが出来ているのか。


 セインには、フェインラミナスから与えられた恩恵がある。

 ウサギの速さに追いつき、一撃で倒せるほどの筋力。

 ウサギの動きを見切り、正確に攻撃を当てる動体視力。

 そしてなによりも重要なものは、深い森の中、視認しなくても動物を発見できる気配感知能力だ。


 これらの特異な力を持っていたからこそ、セインは角ウサギの森で稼げていると言っても過言ではなかった。



 その能力を駆使して、セインは今日もまた、深い森の中で角ウサギの群れを発見した。



(3匹か……上手くいけば全部仕留められるかも)



 セインの現在地から約100メートル先に3つの生物の気配があった。


 セインは慣れた足取りで群れに近づく。


 かれこれ1週間近くこの動作を繰り返している。嫌でも慣れるというものだった。

 既に足音をほとんど発生させることなく群れに近づくことが出来ていた。


 木の陰から群れの様子を窺う。まだセインには気付いていないようだ。


 そのことを確認したセインはずっと使って来た愛用の石棍棒を握りしめ、フッと息を吐く。


 息を整えたセインは思いっきり飛び出し、棍棒を振りかぶった。


 棍棒は近くにいた1匹の角ウサギに命中する。



(まずは1匹)



 1匹を打ち倒したセインは残りの2匹に視線を向ける。


 近くにいた1匹が逃げ出そうとしているのが見える。

 もう1匹は怯えているのか、その場から動いていなかった。


 それを確認したセインは逃げようとしている角ウサギを標的に定める。


 セインと角ウサギの距離は約5メートル。



(思いっきり飛び込めば、届く!)



 セインは瞬時にその判断を下し、角ウサギに飛びかかった。

 セインの振り抜いた棍棒が角ウサギに命中しようとしたその時、



(……っ!!)



 全身に電撃が走ったかのような悪寒がセインの身体を支配する。


 セインはすぐに攻撃を中断し、その場から飛び退いた。

 はたして、その判断は正しかったようだ。


 先程までセインがいた地点に()()()が着弾し、地面が弾けて砂埃が巻き起こる。

 セインの狙っていた角ウサギは逃げてしまったが、それどころではない。


 セインはいつでも動けるように体勢を整えながら、砂埃で隠れた着弾地点をジッと見つめる。


 すると、風切り音と共に、砂埃の中から()()()がセインに向かって飛び出してくる。

 セインは棍棒を目の前に構え、それを防ぐ。



 ドガッッ



 鈍い音と共にセインの持っていた棍棒が二つに折れる。

 しかし、見事に攻撃を防ぐことが出来た。それと同時に、棍棒にぶつかった()()()の正体が判明する。



(ホーンラビットっ!?)



 さらに、先ほどまで一歩も動いていなかった角ウサギがいなくなっている事に気が付く。



(つまり……俺が角ウサギだと思って放置していたのはホーンラビットだったってことか……)



 角ウサギの群れにホーンラビットが混じっているなんてことは今までなかった。

 そもそも魔獣は肉食だ。ならば群れの角ウサギは真っ先に襲われているはずではないのか。


 分からない事だらけだが、今は目の前のホーンラビットに集中しなければいけない。


 不幸中の幸いというべきか、不意打ちを取られたがセインはまだ無傷だ。石棍棒は折れてしまったが、二本に分かれた分、手数が増える。


 形勢はまだ不利ではなかった。


 その時、セインの思考を遮るようにホーンラビットが突っ込んできた。


 そこに、セインは勝機を見い出した。



コイツ(ホーンラビット)は今空中にいる。なら攻撃を避けれないはず!)



 セインは結論を出すとすぐに身体を動かし、ホーンラビットの射線から逃れる。

 それと同時に、短くなった石棍棒をホーンラビットの正面から振り抜いた。



 ゴシャッ



 棍棒はホーンラビットの頭蓋(ずがい)を打ち砕き、ホーンラビットと共に崩れ散った。


 辺りに鮮血が飛び散る。

 当然、血はセインにも降りかかる。

 全身から漂う鉄の香り。記憶に焼き付いた、ウサギの頭蓋が割れ脳漿(のうしょう)が飛び散る光景。


 その全てがセインの胃を刺激する。



「オォエエエエッ」

(この森で吐くの何回目だ……)



 今までセインが倒したウサギは全て胴体に攻撃が命中していた。

 それもセインの驚異的な反射神経の賜物(たまもの)であるのだが、今は置いておく。


 ウサギの胴には頭とは違いクッションとなる肉がある。そのため、セインは今までに倒した獲物が血を吹き出すようなことがなかったのだ。


 生きるため、生き物を殺すことに慣れてきてはいたが、血を見るのはまだ無理らしい。

 まあ、今回に関しては慣れが関係ない程グロテスクではあるのだが。




 しばらくその場で息を整え、セインはそれなりに落ち着きを取り戻してきた。



「いつまでもこうしちゃいられないよな……そうだよ、血とかにも、慣れていかなきゃ冒険者なんてやっていけないよな」



 だとしても目の前でウサギの頭蓋がスプラッタになるのはトラウマ級であることに変わりはしない。


 いつも通りの思考が出来る程度には落ち着いたが、セインの精神は確実に疲弊(ひへい)していた。



(棍棒も折れちゃったし、ウサギにも逃げられたし、今日はもう帰ろうかな……)



 先程まで狙っていた角ウサギはとうの昔に逃げてしまっていた。


 セインは最初に倒した角ウサギと頭の無いホーンラビットの死体を革袋に入れ、カールンの街に帰った。




 ――――――




 森に入ってからそれほど探索もせず戻ったため、セインがカールンの街に着いたのは日がまだ頭上にある頃だった。


 先程の光景が頭から離れず、重い足取りのままセインは冒険者ギルドに入る。



「ようこそ冒険者ギルドへ!……あら?セイン様、今日は随分と早くお戻りになられたんですね。いかがなさいましたか?」



 いつもと変わらぬ明るい声でリーンがセインに声をかける。



「リーンさん。実は狩りで少し失敗してしまいまして……」



 革袋からホーンラビットを取り出しながらセインは狩りでの出来事を話す。


 角ウサギの群れの中にホーンラビットが混じっていた事、武器が折れた事、そしてトラウマ。



「あぁ……これもう見たくないです……頭無いんですけど買い取りできますか?」


「角が無い分買い取り額は低くなってしまいますが、肉が食用なので問題ありません。それにしても魔獣が動物の群れの中に、ですか」



 リーンはそう言うと少し顔を伏せて思案気な表情を見せる。


 リーンの答えにセインは安堵し、お願いします、とホーンラビットと角ウサギをカウンターの上に乗せた。



「そうなんです。今までは角ウサギの群れにホーンラビットが混じっていたことはありませんでした。こういったことはよくあるんですか?」


「結論から申しますと、魔獣が元となった動物と共生することはそれなりにあります。魔獣が群れを護衛する役割を果たすわけですね。しかし、草食動物が元となった魔獣が動物と共生することはほぼありません。というのも、魔獣は元の動植物がなんであれ必ず肉食であるという特色を持ちます。つまり、草食動物と共生するには食糧が異なるため共に生きることが難しいのです。セイン様が今回遭遇(そうぐう)した群れはかなり珍しい部類に入ります」


「なるほど……ということはあまり警戒し過ぎる必要もないということですね」


「そう、ですね。しかし、珍しい分不意打ちで魔獣に倒される冒険者が多いのです」



 そう言いながらリーンはセインの手を取り、ギュッと握る。



「セイン様、よくぞ無事に帰って来てくださいました」


「……っ!ありがとう……ございます」



 リーンの心遣いで、セインは自分の失言に気付く。

 珍しいからと言って油断してはいけないのだ。今回自分が遭遇したように、今後も同じような場面に出くわす可能性は十分にある。


 それに、セインのことを心配してくれる人も、ここにはいるのだ。


 自然と気が引き締まった。



「そういえばセイン様、武器も壊れてしまったのですね」



 セインの両手に折れた棍棒が握られている事から、リーンは今日のセインの戦いが厳しいものであったことを察した。



「はい。まあ、元々魔法で作った物なのですぐに直せますよ」


「しかしセイン様、今回のようなことがまたいつ起こるか分かりません。そこで提案なのですが、パーティを組むのはいかがでしょうか?」


「パーティ?っと言うと一緒に冒険をする仲間を見つけろという事ですか?」


「そうです。パーティを組んでいれば不測の事態が起こっても対処して生き残れる可能性がかなり高くなります」



 1人で冒険するより数人で冒険した方が狩りの効率も安全性も向上することは、初心者であるセインから見ても明らかであった。



「そうですね、少し考えてみます」


「もし、パーティを組むのであれば私にお声かけください。また、ギルドの前にパーティ募集用の掲示板がありますので、その中から入りたいパーティを探すのも良いかもしれませんね」



 そんな話をしている間にホーンラビットの査定が終わったようだ。

 角ウサギと合わせて250ルニという、いつもに比べればかなり少ない報酬を受け取り、セインは冒険者ギルドを出た。


 ギルドを出てすぐにセインは先程のリーンとの会話を思い出す。

 セインは気付いていなかったが、どうやらギルドの前にパーティ募集用の掲示板があるらしい。


 セインが辺りを見渡すとそれはすぐに見つかった。

 ギルド入口の真横に横幅2メートルほどの掲示板が立っており、今まで気付いていなかったのがおかしいくらいの存在感だった。



(こんなところに掲示板なんてあったんだ……)



 結構目立つはずなのだが。


 ともかく、パーティを組むのであれば信頼できる人物が良い。命を預ける仲間なのだ、適当に選んでしまってはきっと後悔するだろう。


 セインは掲示板に貼り付けられているパーティメンバー募集の旨が書かれた羊皮紙をじっくりと眺める。



 ――荷物持ち募集!定員1名――


 ――第三級以上の魔法師募集中――


 ――初心者の方に冒険のノウハウ教えます!――



(色んな募集があるなぁ……初心者募集してる人達はボランティアなのかな。どんな人なんだろう)


「おっ、セインじゃねえか、パーティ掲示板なんか見てどうした?もしかして、パーティを組む気になったのか?」



 掲示板を眺めていたセインの後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。


 セインが振り返ると、そこには予想通りの人物が立っていた。



「ん?ああ、ザキか。実は俺、魔獣から不意打ちを受けてな。武器も折れたし、そろそろソロじゃキツイかもしれないって思ってさ」


「なるほど……それでパーティ掲示板見てたのか。だが、そういうことならちょうどいい!どうだ?俺たちとパーティ組まねえか?」




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