勘違い駆け出しの初依頼達成
魔法師ギルドを出たセインは空を仰いだ。
日がかなり昇ってきている。
太陽の位置から見るに、魔法師ギルドにいたのは2,3時間といったところか。
「そろそろ狩りに行かなきゃなぁ」
セインには金が無い。毎日狩りに行かなければ生活も出来ないのだ。
街を出る前に行くべきところがないか考えてみたが、依頼は既に受けているため冒険者ギルドには用がない。
道具もしばらくはこのままでも行けそうなため、これ以上は必要ない。
「んー、あ、そういえばお昼ごはん持ってなかったんだ」
昨日の狩りの時、空腹で断念した事をセインは思い出した。
こういう時の食糧は携帯食と呼ばれるものを持っていくのが常識だ。
冒険者は何日も泊まり込みで狩りをする事も珍しくない。
そのため、狩りの時は日持ちする食糧をある程度持っていくのだ。
セインのように、日帰りで帰る場合は必要ないかもしれないが、狩りの途中で不祥事が発生した場合、その日のうちに帰れなくなる事もある。
念に念を入れるならやはり、携帯食は必要だろう。
セインは近くを歩いていた男性に声をかけ、携帯食を買える場所をたずねる。
「携帯食?さてはあんた、冒険者成り立てだな。そういう旅の必需品は全部ギルド前の道具屋で揃うはずだよ」
結局は道具屋に行く必要があるらしい。
男性に礼を言い、セインは道具屋へ向かった。
「いらっしゃいませ。今度は冒険者セットを買われていきますか?」
セインが店に入るや否や店員が声をかけてきた。
どうやらセインのことを覚えていたらしく、昨日と同じものを勧めてくる。
「今日は携帯食を買いに来ました。どんなものが置いてありますか?」
「携帯食でしたら、こちらに並べてあります」
店員が指し示したところには数種類の携帯食が並んでいた。
「干し肉に黒パン、ドライフルーツなどが置いてあります。それから変わり種ですと、こちらの砂糖菓子がおすすめでしょうか。少々高いですが、寝起きに一つ食べるとその日1日元気が出ると評判なんですよ」
ここぞとばかりにセールストークをしてくる店員にセインは苦笑して答える。
「え、えーっと、砂糖菓子は良いので、安いもので3日分ほど用意していただけますか?」
「安いものですと、干し肉とパンのみになりますがよろしいですか?」
何かあった時のために3日分頼んだが、携帯食のみ食べるわけでもない。
特に問題ないと判断したセインはコクリと頷いた。
「ではこちらの品をお買い上げですね」
そう言って店員がカウンターに食糧を乗せていく。
「お、多くないですか?」
次々と積み上げられていく食糧にセインは思わず声を上げてしまった。
「3日分となりますとこれくらいは必要かと思いますよ」
最終的にカウンターの上に乗っていた携帯食の量は布袋2つ分ほどの量だった。
とてもじゃないが今のセインが持ち運べる量ではない。
そんなセインのように気が付いた店員が解決案を提示する。
「持ちきれないということでしたら、新しく布袋を買うか、こちらのバックパックなどはいかがでしょうか」
店員が取り出したのは、登山の時に使うような大きめのバックパックだ。これなら食糧を入れてもまだ余裕が残りそうだ。
基本は布で出来ており、外側の部分は革で補強されていた。
左右と背面に大きめの収納スペースが付いている。これがあればスペースによる使い分けもしやすいだろう。
「このバッグパックですと肩で支えるため負担が少なくなりますし、両手が空くので不便にはなりません。
サイズも大きく、ポケットも多いため、色々なものを入れるのに役立ちます。いかがでしょう?」
「これは良いですね。いくらですか?」
「携帯食と合わせて1500ルニとなります」
「せん……!?いや、でもそんなものか……」
(全て手作りだと考えればこれも仕方ないのかな。それに冒険者ギルドの前にあるような店がぼったくるとは思えないし……よし)
日本では考えられないバックパックの高さに驚いたセインだったが、自分なりに納得して買うことに決めた。
これが無駄な買い物にならないことを祈るばかりである。
「買います」
「お買い上げありがとうございます」
会計を終え、セインは店員からバックパックを受け取る。食糧はセインが悩んでいる間にバックパックに入れてくれたそうだ。
セインが買うと確信していたらしい。
なんともしてやられた気分になりながらセインは店を後にして狩りに向かった。
――――――――
いつも通り角ウサギの森で狩りを終えて帰ってきたセイン。帰ってきたのは空が紅くなる頃だった。
今日は食糧も荷物入れも増えたため、長く狩りを続けられたのだ。
門を出るとき、初日に会った門番に出会いイシコンさんと弄られはしたが、それ以外は順調だった。
今日の収穫は、角ウサギが8匹にホーンラビットが5匹。長く狩りを続けられたとはいえ、魔法師ギルドにいた時間もあり、収穫は昨日とあまり変わらなかった。
今日のことを振り返りながらセインは冒険者ギルドに入った。
「こんばんは、リーンさん。買い取りと依頼達成の手続きをお願いします」
布袋やバックパックからウサギを取り出すセイン。
「お疲れ様ですセイン様。今日も大量ですね、流石です。では、手続きをして参りますので少々お待ち下さい」
セインはウサギを抱えて奥に入っていくリーンの後ろ姿を眺める。いつの間にか、この光景も見慣れたものになってしまった。
リーンはすぐに帰ってきた。
「角ウサギが8匹にホーンラビットが5匹ですね。こちらが2900ルニ。それから依頼も達成されましたので、1000ルニと4匹多めに狩ったということで追加報酬の800ルニ。合わせて4700ルニとなります」
「おぉ、急に大金持ちだ」
1日で47000円。日本だと高校生でこれほど稼ぐ人はそうそういないだろう。
命の危険があるとはいえ、フェインラミナスの恩恵もあってか、それほど大変というわけでもない。
休みたい時に休めるし、休憩はいつでも取れる。
そう考えれば冒険者はかなりホワイトな仕事なのではないか。
「ふふ。そうですね。ところで依頼は達成しましたが、あと6匹分の追加報酬は残っておりますので、8日以内に狩って来ていただければお支払いします。それから、新しく依頼を受けるつもりはございませんか?狩り以外にも、角ウサギの森でなら薬草も採取出来るかと思います」
「薬草採取か……うーん、申し訳ないんですけど、どんな薬草が取れるか教えてもらっても良いですか?」
ひと口に薬草といっても色々ある。それにセインは薬草の見た目も採取方法も知らないのだ。
「もちろんです!こちらをご覧ください。この近くで採れる薬草の見た目と採取方法、主な生息地を記した図鑑でございます」
そう言いながらカウンターの下からリーンが羊皮紙の束を取り出した。図鑑には薬草の絵が描かれており、特徴や採取方法の説明も丁寧に書かれていた。
「角ウサギで採れる薬草ですと、ユメガ草などがオススメですね。必要部位が葉なので採取も簡単ですし、あちこちに生えていて見つけやすいのです」
リーンが開いたページを見てみると小さな葉が集まって一つの葉を作っているような見た目の薬草が描かれていた。
(なんか日本でも似たような草見た気がするなぁ、なんだっけあれ。んー……あ、ヨモギだ)
道端によく生えているあの草にそっくりだった。
なかなか特徴的な見た目をしているため、見つけやすいかもしれない。
「分かりました。明日、狩りの時に採取してみます。依頼は今受けなくても素材があれば良いんですよね?」
「それはそうなのですが、帰ってきたときに依頼が無くなっていた場合は報酬をお支払い出来ませんがよろしいのですか?」
「そうでしたね。うーん……でもやっぱり絶対に採れると言い切れないので、依頼は受けないことにします」
少し悩んだが、初めての採取だ。上手く見つけられるとも限らないため、依頼は断念した。
「それじゃあ俺はこの辺で失礼します」
「ありがとうございました」
冒険者ギルドを後にしたセインは宿屋に向かう。
(今日は食糧やバックパックを買ったからなぁ、これを盗まれたらかなり困る。お金には多少余裕があるし、今日から個室にしよう。)
宿屋に着いたセインは女将を呼ぶ。
「今日から個室で食事付きを5日間お願い出来ますか?」
「あいよ。部屋は二階の6番の部屋を使いな。鍵はこれだ。無くすんじゃないよ」
女将から渡された鍵には木札が付いており、この世界の文字で「6」と書かれていた。
場所の説明はされなかったが、おそらく見れば分かるということだろう。
二階に上がり、部屋を探す。個室の扉には数字が書かれていた。
セインは「6」と書かれた部屋を見つけ、中に入る。
中は8畳ほどの部屋でベッドと机、棚が置いてあった。
明かりになるようなものは置いておらず、夜は真っ暗になりそうだ。
「日本のホテルの下位互換みたいな感じだな。300ルニって考えればむしろお得かな」
とは言ってもここ以外の宿を知らないためそれ以上の評価は出来なかった。
荷物を部屋の隅に置き、ベッドに腰掛ける。
スプリングがないのか硬い素材で出来ており、寝心地はあまり良くなさそうだ。しかし、雑魚寝部屋は木の床に布団を敷いただけだったのでそれに比べればかなりマシだった。
「しばらくはずっとここで過ごすかな」
可能であればマンションのように部屋を借りたいが、街並みを見る限り、マンションやアパートのような物件は見当たらなかった。
かと言って家を借りるには金がかかり過ぎるため、この宿で住んだ方が安く済むと判断したのだ。
それに、セインは冒険者だ。この街を離れることもあるだろう。そう考えれば宿暮らしの方が都合が良かった。
―――――――
翌朝。朝食を済ませたセインは魔法師ギルドに向かう。
昨日、魔法師ギルドの受付嬢であるロンタンに魔法について教えてもらう約束をした為だ。
「おはようございます。ロンタンさん」
「おはようございます。セイン様。では早速始めましょうか」
セインに声をかけられ、帽子をズラしてセインの姿を確認したロンタンはニコリと微笑んで席を立つ。
そしてカウンターの下からいくつか冊子を取り出すと、カウンターを出てギルドに備えつけられたテーブルに向かう。
「では、ここで教えようと思います」
「よろしくおねがいします!」
ロンタンは一番端にあるテーブルに座ると帽子を脱いで空いている椅子に置いた。
大きなとんがり帽子に隠され、今まで見えていなかった部分が露わになる。
肩まで伸びた紫色の髪から飛び出したソレ。
ピョコピョコと動き、少し落ち着きがない印象を与える。
一部の人が見れば狂喜乱舞し、泣いて喜ぶであろうソレは、紛れもない猫耳だった。
少し幼さを残した顔に明るい碧色の瞳が映えており、紫の髪と猫耳に良く合っていた。
「……ロンタンさんって、獣人だったんですか!?」
「はい、猫族の獣人です。この街じゃ珍しくないです、よね?」
何を驚いているのか?と言いたげな表情を浮かべるロンタン。
「そ、それもそうですね。俺の知り合いに獣人の人がいないので、少し驚いてしまいました」
「そういうことでしたか。なら私が獣人の知り合い第一号ですね」
そう言ってクスリと笑うロンタン。
その愛らしい姿にセインは一瞬、目を奪われてしまった。
「それはそうとセイン様」
「は、はい!」
突然声をかけられ慌てるセイン。やましいことは無いはずだが、見惚れていたためか、冷や汗が頬を流れる。
「ずっと敬語というのも息苦しいでしょう。もっと楽にしていただいて構いませんよ」
「それなら、ロンタンさんも様付けなんていらないですし、普通に話してください」
「ふふ。これは、一本取られましたね。なら普通にするのです。セインさんもいつもどおりでお願いするです」
「分かった。ロンタンさんはあんまり変わってないような気もするけど、それが普通ってことで、良いのか?」
「変な敬語だって前に指摘を受けたのです。でも普段はこの方が話しやすいです。やっぱり変、ですか?」
「敬語としては変かもしれないけど、話しやすいならそれで良いと思う。じゃあそろそろ、魔法について教えてもらっても良いか?」
それから数時間。セインが狩りに行くことを思い出すまで魔法の授業は続いた。
こうして、ロンタンによる魔法授業の毎日が始まった。
ちなみにロンタンはすごく可愛いです。
なお、狂喜乱舞して泣いて喜ぶ一部の人とは主に私のことです。




