勘違い丁寧語を先輩は訂正す
「いやぁ、まさか本人が気付いてないとは思ってなかったぜ」
ひとしきり声を上げて笑った冒険者は、まだ笑いが溢れてくるのか、クツクツと笑いながらそう言った。
「未だに意味が分からないんですが……何故俺がイシコンなんですか?」
「そりゃああんたの武器が石棍棒だからだよ。そんなもんどうやって用意したか知らねえが、そんな使いづらいだけの武器を使ってるやつなんて他にいねえからな」
冒険者の話を聞いてセインは理解した。
(あぁ……目立ってたのかぁ……)
確かに言われて見ればこんな武器を持っている人など誰もいなかった。
セインからすれば、お金が無いため魔法で代用しただけだったが、普通の冒険者からすれば異様な出で立ちだったのだろう。
「俺、目立ってたんですね……」
「そりゃあもう、ばっちりとな。でもその様子じゃあイシコンさんの他の噂も知らねえだろ?」
「えぇ、まあ」
「なら教えてやるよ。こっち来な」
冒険者はギルド内に設置されたテーブルに向かい、セインに手招きをする。
自分の噂話。そんなものを聞くことなど早々ない。
セインはゴクリと唾を飲み込むと、冒険者の座ったテーブルに向かい、冒険者の真正面の席に座った。
セインが席についたのを確認すると、冒険者は口を開いた。
「でな、イシコンさんってのは――」
――――――――
冒険者はセインの噂にかなり詳しかった。
それほど色々なところで噂されていたのだろう。
彼の話を要約するとこうだった。
イシコンさんとは、奇人。
変わった装いに変わった武器。
そして強い。
棍棒を片手で持つ腕力に、ソロで魔獣を倒す。
かつ非常識。
動物と魔獣の違いも知らず、宿の泊まり方も知らない。
彼の話を聞き終えたセインはしばらく言葉を失った。
(まさかこんなに噂になってたなんて……しかも良い噂じゃないし……)
何より噂を聞く限り、セインの今までの行動がほとんど知られている。噂は千里を走るなどと言うがそれにしても早かった。
この世界、個人情報の保護など無いのである。
「ってな感じなわけで、あんたは今この街の冒険者間で時の人ってわけだ。有名人だぜ?良かったじゃねえか」
「あ、はは……そうですね……」
(人気者で有名になれるのなら嬉しいけど……こんな形は望んでなかった……!!!)
冒険者も落ち込んでいるセインの様子に気がついたのだろう。先程までの笑顔から、心配そうな表情に変わった。
「なんだ?こういうのは嬉しくないのか?……なんつうか、すまねえな。有名人ってだけで人気者ってわけじゃねえもんな……悪かった」
「っ!い、いや、気にしないでください!大丈夫です。嫌われるよりは圧倒的にマシですから。確かに嬉しい、とは言えないですけど、嫌ではありませんよ」
セインの言葉に冒険者はほっと胸を撫で下ろす。
「そう言ってもらえると助かるぜ。そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はザキ、第六級冒険者でもう一人同じ第六級冒険者のやつとコンビを組んでる。よろしくな」
「あ、じゃあ改めて、俺はセインです。昨日冒険者になったばかりで第十級冒険者です。よろしくお願いします」
「おう!よろしくな!ところで、ずっと気になってたんだけどよ……」
互いに自己紹介を交わした後、ザキは少し難しい顔をしてセインを見た。
「なんですか?」
「セインよぉ、あんたなんでずっとそんな畏まった喋り方してんだ?ずっとそんなんだから貴族じゃねえかって疑ってる奴もいるんだ。そういう俺も気になって仕方ねえんだよ」
「えーっと、敬語の事ですかね……?俺は貴族なんかじゃありませんよ、普通の小市民です」
「ははっ、セインは普通の小市民ではねえだろ、目立ちまくってんじゃねえか。でもそれならなんでそんな話し方してんだ?」
「なんでと言われましても……普通初対面の人には丁寧に接しませんか?だからずっと敬語なんですよね」
そこでザキは何かに気付いたように手を打つ。
「なるほど!ようやく合点がいったぜ。そういえばセインは冒険者になったばかりだったな」
だが、ザキが何に納得したのか分からず、セインは首を傾げる。
「そうですけど……」
「村民や町民の間では丁寧にするのが普通かもしれねえけどな。冒険者は違う。俺たち冒険者は他人にナメられちゃいけねえ職業だ。それによ、場合によっちゃ冒険者同士で手を組んで戦わなきゃいけねえ時もある。だからよ、俺たち冒険者は、最初からこうやって親しげに話すんだ。そこに年齢も性別も冒険者ランクの上下も、身分だって関係ねえ。俺たち冒険者は出会った時点で平等、友なんだよ」
先程まで浮かべていた表情とは全く違う。真剣な顔だった。
ただの話し方だ。だがそれだけで生活や命に影響が出る職業なのだ。不躾に思われるかもしれないが、大切な事だったのだ。
「じゃあ俺も……」
「ああそうだ。冒険者相手にゃあ畏まったりせずに接した方が良い。少し偉そうなくらいがちょうど良いのさ、俺たちは」
「……分かった。これからは普通に話すことにするよ。っと、こんな感じで良いかな?改めてよろしく、ザキ」
「良いじゃねえか。そうしてると漢らしい顔付きに見えてくらぁ、ずっとそうしてな」
セインが立ち上がって手を差し出すと、ザキはその手を取り、強く握る。
そして二人で、ニッと笑顔を交わした。
「ちょうど良いから先輩冒険者に相談に乗ってもらいたいんだけど、いいか?」
「あぁいいぜ、先輩として素晴らしいアドバイスをしてやるよ!」
ドンっと胸を叩き、嬉しそうにザキは応えた。
「ははっ、頼もしいな。それで相談なんだけど、武器を変えようと思ってるんだ。どんな武器が俺に合うと思う?」
だが、セインが言った言葉に胸を叩いた仕草のままザキは固まった。
数秒間フリーズしたかと思うとプルプルと震えだした。
そして、
「ちょ、ちょ、ちょ、セインあんた武器を変えるってのか!?正気か!?イシコンさんのアイデンティティを自ら捨てるってのか!?」
酷い慌てっぷりだった。だがそれもそうだ。ザキからすればセインに話しかけたのも、元々はセインがイシコンさんだったからだ。
つまりセインがイシコンさんで無くなれば、セインの交友の幅は広がらない。
交友が狭い冒険者というのはそれだけで不利なのだ。
セインは今自分で自分の首を絞めようとしているのだ。
だがセインはそんな冒険者事情を理解していなかった。
「別にイシコンさんになりたくてなったわけじゃないんだけどな。この棍棒重いし、使い続けたいとは思えないんだけど」
「とにかく今はやめとけ!その武器でちゃんと戦えてるんだろ?ならまだ変えるべきじゃない」
少し口調が荒くなったザキの様子に、セインは考えを改めることにした。
「そこまで言うなら、しばらくはこのまま行くことにするよ。でも重いのは確かだし、使い勝手が良いとは言えないから、いつかは変えると思うぞ?」
「それで良い。変えるにしてももう少し知り合いを増やしてからにしな。武器が石棍棒ってのは良い話の種になるからな」
「それもそうだよな。じゃあ武器はこのままで良いとして、次の相談、良いか?」
「まだあんのかよ。まあいくらでも聞いてこい、なんだって答えてやるよ」
またもや自信満々に胸を叩くザキ。
「魔法の資格を取りたいんだけど、どうすれば取れる?」
「それなら簡単だ。魔法師ギルドに行けば良い」
「魔法師ギルド……?」
「知らねえのか?冒険者が冒険者ギルドに所属するように、魔法師も魔法師ギルドに所属しなきゃなんねえ。そこで試験に合格すれば晴れて魔法師の資格を手に入れられるってわけだ」
「それってつまり冒険者を辞めなきゃ行けないってことか!?」
ガタリと音を立てて立ち上がるセイン。
そんなセインの様子が面白かったのか、ザキは声を上げて笑った。
「はははっ!違え違え。複数のギルドに所属するのは特に禁止されてねえから、別に辞める必要はねえよ。というかそうじゃなきゃ魔法を使える冒険者がいなくなっちまう」
「それも、そうだな。ごめん。ちょっと慌てた」
「ありゃあ、ちょっとってレベルじゃなかったけどな。はぁ〜、思い出したら笑えてきた」
「ちょ、やめてくれ。別に普通だろ、せっかく冒険者になれたのに辞めなきゃいけないってなればあれくらいの反応もするだろ」
「すまんすまん、それもそうだよな。俺が悪かった!」
「絶対反省してないな……」
ともあれ魔法資格の取得方法は知ることが出来た。
窓を見れば日が沈み始めており、ギルド内の冒険者も増えてきていた。
セインはまだ今日の宿を取っていないためいつまでも話しているわけにはいかなかった。
「じゃあ俺はそろそろ行くよ。相談に乗ってくれてありがとな。ザキ」
「良いってことよ。俺も面白い奴と知り合えたからな。ああでも最後に一つだけ、情報は金だ。覚えときな」
「タダじゃないってのかよ。仕方ないな、ほら50ルニで許してくれ」
ザキの言葉の意味を察したセインが大銅貨5枚を取り出してザキに渡す。
「まいど!普通は先に渡すもんだから、今回はサービスしようかと思ってたんだが、貰えるなら貰っとくぜ!」
そう言って席を立ち手を振りながら去っていくザキ。
「なっ!?渡さなくて良かったのかよ!……まあ、正当な対価を払ったって考えれば良いか」
優しいのか狡賢いのかよく分からないザキにセインは溜め息を吐く。
そして宿を取るため、冒険者ギルドを後にした。
初めてセインに冒険者の知り合いが出来ました。
優しそうな人ですね




