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狭界の夢  作者: 千羽鶴
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9話

 階段で夜未に追いつき二人で下に降りると丁度コミヤマさんは周囲のクリアリングをしていた。何度も確認して薄暗い中でも妄念の影を探す。

 少しして安全だと判断したようで俺らの方を向き外に出るぞと親指で合図する。


 「それじゃあ行くぞ、目的地はとりあえず中心の時計塔、細心の注意を払ってもし妄念に見つかったらあの巨体なら屋内まで入れないと仮定してすぐに逃げ込む。いいな?」


 俺も夜未もコクリと頷く。


 「よし、それじゃあ行くぞ」


 まだ完全に復活していない夜未の代わりコミヤマさんが号令をとる。夜未は俺の腕を服にシワが出来るほどギュッと強く掴んで一歩後ろを着いてきている。

 さっきは唐突な妄念の登場で動けなかった俺を引っ張ってくれた。次は俺が助ける番だろう、全神経を尖らせる。無論出会うこと無く中心まで着くに越したことはないが。

 静寂が包み込む町を三人の足音だけがコツコツと響く。さっきまでここが化け物パレードの地獄絵図だったとは誰も思うことは出来ないだろう。唯一の証拠として喰われた人の血液がタイルに吸い込まれそこだけ赤黒くなっている。

 唐突に道が二手に別れる。コミヤマさんが俺らにここに残るよう指示しゆっくりと道の向こうをうかがう。


 「こっちだ」


 そのまま行けば時計塔へ直結しているであろう左手の道へ来るよう手招きする。


 「走れるか?」

 「うん、大丈夫だよ」


 夜未が無理をして笑う。俺が出たいなんて言わなければ彼女はこんな表情をすることは無かったのにと心が痛くなるがここまで来て撤退するのは逆に夜未に失礼だろう。

 夜未の手を強く引いてかつ彼女が下駄である事も考慮して走る。先程あれだけ機敏に動けていたから無駄な気遣いだったかもしれないが。


 「よし。ここからはどうやら直線みたいだし一気に行くぞ」


 見るとあれだけ遠く感じた時計塔が目の前、直線上に鎮座していた。後はこの道を超えれば時計塔の足元まで行ける訳だ。歩き出したコミヤマさんの後ろを離れないように着いて歩く。時折後ろを見て妄念が来ていないかの確認も怠らない、折角すぐ近くなのにヘマするわけにはいかないしな。

 時計塔が近くに見えるに連れ空気が重くなり呻き声のようなものまで漂ってくるようになってきた。妄念が近くにいるのだろうか、後ろを見てもいないので前方だろう。コミヤマさんも気付いているようで壁にピッタリとくっつきいつでも屋内に入れるようちしていた。

 もうすぐ、もう少しで時計塔の足元まで着く、そこまで行けばとりあえず安心だろう。そう思っていた希望は次の瞬間には絶望へと変わる。


 「おいおい……冗談だろうよ」


 余りの光景にコミヤマさんが口を零す。俺も夜未も恐怖で身体が動かない、二人ともガクガクと震えているのに手が白くなるほど強く握り締めていた。

 確かに時計塔の足元まで辿り着いた。だけど……なんで()()()()()()()()()()()()()

 例えるならショッピングモールに逃げ込んだ主人公達を狙うゾンビ、だろうか。

 時計塔の数メートルは軽くある塀にビッシリと妄念がへばりついている。

 ここまで来ているかいないかも分からない人を探さなきゃならないのにこれじゃあ危険すぎて迂闊に近付けない。時計塔の反対側はまだ全く手を付けていないのに……くそ、一度戻って辺境から反対側まで回ってもう一度突入するか?

 それにここじゃあ会話もできない、コミヤマさんので見つからなかったのも奇跡に近いだろう。それに数百にもなる呻き声がビルに反響して一つの巨大な叫び声となり聞いているだけで精神がおかしくなりそうだ。


 「とりあえず、戻りましょう」


 小声でコミヤマさんの肩を叩き伝える。少ししてコミヤマさんはハッと意識を戻し頷くと刀を抜きゆっくりと後ずさりする。草履からズリズリと音がするがその程度の音でさえいつバレるかと怖くなる。

 俺もゆっくりと後ろに下がろうとしたら震える夜未の手が加減なく強く握られ骨が軋みをあげる。思わず声が出そうになるがぐっと堪えて夜未の方を振り向く。夜未の目からは涙が流れ出ていてその顔は恐怖一色で染められていた。そして、彼女の目線は一箇所に縛り付けられていた。

 まさか……彼女の視線を追うとそこには先程の化け物が、遅れて気づいたコミヤマさんも建物に逃げるのを忘れ目が離せなくなっていた。

 このままだと皆食べられて死んでしまう。それだけは、俺に付き合わせておいて皆を巻き込んで殺すのはダメだ!

 俺が……しっかりしないと!

 夜未の手を引っ張り建物内に投げ込む。華奢な体は彼女の力に反して楽に扉の中へ吸い込まれていった。変わりに俺が道の真ん中に飛び出す羽目になったけど。

 作用反作用の法則忘れてた……な。

 数歩よろめき何とか転ぶ無様は晒さなかったけどもうアイツは十メートル程先まで迫っている。完全に捕捉されただろうなぁ。今から戻っても多分アイツも追ってくる。なら出来るだけ逃げて時間稼ぎに徹するのが最善だろう。それにアイツは動きが機敏とは言えない、運が良ければ十分逃げれる。なのに、なんで足が動かないんだよ!

 その間にもヤツは迫ってきておりその距離は五メートルを切っていた。あぁ、もう、ダメなのか。


 「あんたは馬鹿なのかい?」


 目の前に何かがふわりと舞い降りる。その瞬間俺はコミヤマさん達のいる建物内に移動していた。そして、抱きかかえられている?


 「はぁ、命知らずも程々にしなよ。若いのの仕事は命は大切にすることだろうに」


 そしてゆっくりと降ろされる。事情が分からず困惑している俺の背中にアイツの通り過ぎる足音が響く。


 「優くん!」


 夜未が抱きついてくる。涙が制服に滲み染みが広がっていく。悪いと頭を撫でるとグリグリとその存在を確かめるように強く押し付けてくる。

 するとコホンと小さく誰かが咳払いをする。


 「いちゃついているところ申し訳ないけど自己紹介だけは今の内にしておこうかね、私は梅原、梅原とし子。ただのしがない占い師さ」

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