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雨についての二考察

雨は、嫌いだ。


雨が降ると頭が痛くなるし、憂鬱な気分になるし、出かけるのすら億劫で、ああもう、やってらんないよって部屋に引きこもって余計鬱になる。



雨が好きだ。


出かける理由がなくなるし、家にいたって子供の年齢をわかってないような親から外で遊びなさいなんて言う催促がなくなるし。この年齢になると外で遊ぶのにはお金がかかるんだ、ばーか。貴重なお金は趣味にしか使いたくないんだから。だいたい親の望む頻度で出かけられるほどのお小遣いももらってないし。



「うえぇ、きもちわる」

「なに? どしたの」

「いやバス停から歩いたら靴と靴下びちゃびちゃになっちゃって」

「替え持ってくればよかったじゃん朝から雨降ってたし」

「うー、失敗したぁ」

「教科書とか大丈夫?」

「あ、大丈夫そー」


よかったよかったとかおりが笑う。靴下を脱いでリュックの上に置いた。


「あ、頭痛い」



「あ、おはよう」

「おはよー」

「雨だねー、ユウウツ」

「そー? わたし雨好きだよ」

「へー、なんで」

「自転車で来なくていいからね」

「あー、自転車通学大変そうだよねぇいつも」

「まぁそんなでもないんだけどね、へへ。バスだと音楽とか聞けるし。あ、あと……体育が中になるし! 日焼けしないし」

「あー……」

「ん?」

「でもわたしはそんなに好きじゃないんだよなぁ」

「ふーん……」


サー………………と静かな音を立てる窓の外に目をやる。


「そんでさ-」


一際大きい声がして目をやると、西本さんと山野さんが二人で座って談笑していた。濡れたのか山野さんは裸足で。


「てか、湿気やばい」

「髪うねるよね」

「最悪ー」


髪ね。下ろしてないからあんまり関係ない。

雨はみんな好きなわけじゃないのかなぁ。



ちらりと松井さんの方に目をやるとその綺麗な顔を窓の方に向けていた。

どういう顔をしているんだろうと少しだけ気になる。


「でさ」


かおりが薄いアイラインの引いた目で見てきて、顔をかおりに戻す。


「彼氏がほんともう気遣えなくてさぁ」

「あー、それはウザい」

「でしょ?!」


……なんでそんな上から目線なんだろう。あー、あの子ならきっと彼氏の文句とか言わないんだろうなぁ。……そもそも彼氏とかいなさそう。



「松井」

「あ、はい……」

「ノート集めといて」



「山野さん」

「ん?」


ふと声がして見上げると松井さんがわたしを見ていた。重そうに大量のノートを抱えている。こんなになるまで友達も誰も手伝わなかったのか。


「数Ⅱのノート、今日提出だから出してください」

「あー…………まって」


違うでしょ、誰か手伝ってって、あんたが言わなきゃ。

…………イライラする。


「半分持つよ。みんなノート出したー? もってきて」

「えっ、あっ」

「あ、ちょっと待って後こんだけ書かせて!」

「はーやーく」

「まってってえ」


かおりがばたばたとノートを書き写す。ほかにもちらほらとノートを提出するクラスメイトがいて、さいごにかおりがノートをセーフ! っていいながら滑り込ませてセーフじゃねえよと軽く小突いた。



急に半分ノートを奪われて、びっくりした。いや、重かったからまぁ助かったっちゃ助かったんだけど。でも山野さんにそんな不機嫌な顔されたらわたしはビクビクするしかないわけで。


「松井さんはさぁ」

「はっ、はい」

「彼氏いんの?」

「はっ? いやいやいや、いませんよ」

「ふーん……」


ん? これを聞くために手伝ってくれてるの? ていうかいるわけなくないか。


「雨、ウザ…………頭痛い」


山野さんが少し窓を見やって露骨に嫌そうな顔をして、少しはぁ、と息を吐く。


「ね」


同意を求める一音を発しておきながらこっちは見なかった。なんとなくわかる、これは壁だ。

山野さんなりの、距離。


「わたしは雨好きなんだよね」



ふーん、と気のない返事をした。雨、好きなんだ。ごめん、その感覚わたしにはわからないな。

頭痛いし、っていうか、頭痛いのが雨嫌いな理由の大半を占めている。


「なんで」


なんとなく気になって続きを促すと、ちいさくへへ、と松井さんが笑う。


「…………出かけなくていい理由になるからかな」

「出かけんの嫌いなの?」

「っていうか、親がわたしのこと嫌いって言うか、あっ、まあたいしたことないんだけど」

「えー、なら余計家に居づらくない?」

「根本にはインドアなんだよねわたし、だからできれば家に居たくて」

「ふうん、晴れの日は外行って何すんの?」

「大体図書館か本屋かな……、どっちも自転車で行けるくらいの距離だから歩きだと厳しいから行かないの」

「あー、本好きそう」

「……すきだよ」


ちょっと重い理由だったけど、そういう友達ならわたしの周りにもいくらでもいるから大して驚かなかった。わたしは、いくら考えたってその気持ちなんてわかんないけど。わたしの頭はいつも足りないってわかっている。


「わたし文字読むの嫌いだからな」

「おもしろいのに」



ノートを運び終わって、珍しい組み合わせだなと先生に笑われて、山野さんが少し機嫌悪そうに「そもそも今初めて喋ったくらいっすよ」と吐き捨てた。


「……ありがとう」

「助けてほしいときはちゃんと言った方がいいよ」

「ん?」

「みんな困ってるって気づかないから」

「……山野さんは気づいたじゃん」

「あーわたしなんか余計なとこ視野広いんだよね」

「全然余計じゃないと思う、わたし助かったし」


あれ、わたしなんか恥ずかしいこと言ってる気がしてきた。


「人が困ってるの気づくってあんま気持ちいもんじゃないからね、ゆっとくけど」


それでも助けてくれるんだからいい人じゃんか、と思ったけどなんかそれを望んでるわけじゃなさそうだから押し黙った。


「あ……」

「ん?」

「止んだ」


心なしか明るい声色で山野さんが歩き出した。

なんとなく窓の外を見ると薄く虹が架かっていた。

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