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「そろそろ来る頃かな?」
床も黒。壁も天井も全てが黒い、禍々しささえある空間には似つかわしくない人物が座っていた。15歳くらいの銀髪の姿でどこか浮世離れした印象を受ける少年。
そして彼が発する気配も、禍々しさとは程遠いものだった。
言うなれば…神聖。何者も侵すことのできない絶対者の気配。
それもそのはず、彼は人間ではない。
神。
彼はこの世界の最高神にしてただ一柱の至高神。
創造神"アルティア"その人なのだ。
「君の魂を見極めさせてもらうよ」
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「っつ…う…」
ふわふわ浮くような感覚と共に私は目が覚めた。
「ここは?」
えっ。黒過ぎない?距離感が掴めないんだけど。
私がそう思っていると、
「起きたかい?」
少年の声が聞こえてきた。
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アルティア視点
ふうん?この子があいつからの依頼の子か。…………………まぁ、下界で僕の依頼を受けてくれれば問題ないんだけどね。
え?あいつからの依頼って?あぁ、三カ月くらい前に異界の文明神"マクディス"に、
「こいつあまりにも不憫すぎるからお前の世界に転生させてやってくれ。お前の世界もやばいんだろう?互いにいい話じゃん」って頼まれたのさ。
あのマクディスがねぇ…というか、あいつの世界もかなり荒れていると思うんだけど…
それに、冷酷で知られてるあいつがあぁいうほどだ。相当やばいんだろうな。ナニが、とは言わないけど。
というか、不憫だと思うんだったらなんで僕に頼んだんだ?奴の力もかなり強い。
その気になれば人一人『幸せ』にするくらい、造作もない筈なのにね。
閑話休題。
それにしても、幸せとはなんだろうね。美味しいものを食べられること?沢山の財宝を手に入れること?はたまた"生きていられる"ことそのものが幸せなのか?
神たる僕やマクディスにはわからないだろうけど……あぁ、だから僕に頼んだのかもしれない。無駄だったけどね。この子には解るはずさ。なんせ人の魂を持っているのだから。少しは神性の気配を感じるけど。
この子は前世で精神崩壊寸前で命を落としたらしい。そんな子だけれど、自分が何をすれば、何をされれば幸せなのかってのは解ると思う。
そういえば…マクディスがこの子の魂が少しいじられた、なんて話をしていたな。ふん、馬鹿馬鹿しい。魂や記憶の領域なんて神性や超越者の領分じゃないか。それも、魔法が無い世界で精神を弄れる訳がない。だが…マクディスが嘘を言うとも思えないから…まぁ、気をつけておくか。
おっと。そろそろ起きるみたいだね。さて、自己紹介といくか。
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少女視点
はい。ってことで只今真っ黒な空間に来ております。どうしてこうなった。
軍服さんに連行された→なんか殺られた→なんか真っ黒異空間にきた。
うん。ミステリー小説もびっくりの謎展開だね。
それは今はいいんですよ。良くないけど。なんか私の前に座ってる男の子。あれ絶対人間じゃないでしょ。
人間には出せないような気配をしているし。
そんな考察をしていたら、男の子が口を開く。
「僕はアルティア。この世界を創り、統べる者だ。」
は?厨二の人かな?
んと、北欧神話とかだと創造神はヴィリって人(?)とヴェーって人(?)と主神だし、アルティアなんて神様の名前は聞いたことがない。私が知らないだけかもしれないけど。
もし『アルティア』なんて神様が私の世界に存在しないなら、この人(?)は異世界の神様ということになる。
…………………うん。痛いですね。
「おいおい、僕はそんなに痛い奴じゃあないぜ?正真正銘、この世界、君達の言う『異世界』の神性だ。」
え。なんで声出してないのに考えてることわかったの?
「あぁ、それは君の魂を守る…謂わば防壁がないからさ。けど、詳しい話は今はいいだろう?一応、思考が漏れないように空間設定は弄っておくけど…うん。これでいいか。」
おぅふ…妄想とかしてなくてよかった…
「助かるよ。プライバシーも何もあったもんじゃないからね。」
内心ではそんなことを思いつつ、一応お礼は言っておく。
「まぁ、僕くらいになるとやろうと思えば他人の思考くらい読み取れるんだけどね。やらないけど。」
……おい
「はぁ…というか、君は僕が神だと知っても全く態度を変えなかったけど、なんか理由はあるのかい?」
「いや?特にはないけど?」
うーん、最初から砕けた態度でやってたから、今更変えるのもなぁ…っていう、単純なことなんだけどね。 あと、なんか他人の感じがしないというか?
「それこそ今更だけどさ。これって転生なの?神の手違いか何か?もし手違いだったらぶん殴る。」
酷くないですかねぇ?私の妹が通り魔に襲われそうになって庇って刺されたんだが。ん?どっかで聞いたことが…
それはそうと、悲しんでるんだろうな…あいつ、かなりシスコンだったからな…自殺してでもおかしくない。やばい。
「え?まじで?それはごめ「……」ぐはっ!」
「痛い…」
「手違いか否か。沈黙は肯定とみなす。」
ほんとに手違いだったら呪詛吐きまくって自害するよ?まじで。
「いや、手違いじゃない。君が亡くなったのは正真正銘、人間の行いさ。一応、あの世界にも神はいるけど、そいつも僕はなんもしてないよ?
それと君の妹さんの精神、というか体もだけど無事だよ。きちんと立ち直ってる。」
おおっ!それはよかった。私も、そして妹も。
「そいで、さっきの質問に答えるとこれは『転生』ってことになるね。僕の統べる世界の住人になってもらうよ。」
おおっと、これは聞き捨てならんな。私も神話マニアとはいえ、日本人さ。サブカルが氾濫しすぎて遂には素人の優秀作品が書籍化するなんてカオスな世界だからね。この手の話はごまんと聞いたことがある。
「あー、住人ってなるとチート的なのは貰えない感じかー。」
「あげるよー。いらないならあげな「くれ」
……………最後まで言わせてよ…」
「あっ、すません」
「はぁ…で、どんなチートがいいの?」
「虚実変換ののうり「駄目。」おう…」
……………言葉とともに私の希望まで断ち切られた…
「いや、それは転生者とはいえ、一般人には手に余ると思うよ。使徒や天使、神徒クラスには与えること…もない。自分で頑張ってどうぞ。
え?僕?いやぁ、創造神だよ?物質創造くらいできなくてどうするのさ。」
「じゃあなんでもいいです…」
はぁ…
「え。なんか…ごめん。その代わり割と優遇してあげるからさ。」
「あざーす…」
それから5分くらいして、私は立ち直れた(未練)
思ったけどさ。割と優遇って文法的におかしくない?
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「意外と立ち直り早かったね。」
「まーね。このくらいできなきゃ、人類社会では生きていけないさ。」
私がポジティブムードで言うと、何故かアルティアがなんとも言えない表情をしていた。げせぬ
「とりあえず、知識を送っとくよ。勉強、面倒でしょ?」
「…………うん。」
こいつ、俗世的過ぎんか?私の知ってる神様像をことごとく破壊していくんだけど。
ちなみに、そこに慈悲は無かった模様。
いや、カチカチよりはいいんだけどさ。
「あっちでやってほしいことを説明するよ。」
神様直々のお願いが来ましたよ。これは半強制だね。まぁ、やるけど。
「ん。で、何すればいいの?」
「この世界の害悪になりそうな物、或いは者を消すことだ。あ、魔獣は躊躇わず殺っちゃっていい。あとは勇者も!こいつ悪神の勇者で、小説とかで言う完全悪役魔王と同じ感じだから!
10年後に召喚されるらしい!」
結構な早口で捲し立てるアルティアさん。
えーっと、ちょっと待ってね……
おい。勇者殺っていいってなんやねん。それよりも…悪神っていう単語。なんか、私の中の何かが反応してるんだよね。なんでだろ。
「やることは大体分かった。それよかチートよ。チート。どんなやつか教えてよ。」
正直、めちゃくちゃ気になる。
「いや、それはあっちに着いてからのお楽しみさ。まぁ、チートというより成長補正だから、強くなろうとすれば強くなれるって感じかな?」
うー。気になって夜しか眠れなさそう。
「まぁ、了解したよ。頑張ってくるわ」
「了解。一応最終確認だ。君は僕の世界に転生するかい?もしするんだったら…よっこいせ。この石版の上に乗ってくれ。
まぁ、しないっていっても強制的にするんだけどね。」
なんやそれ。するって言うしかないやん。
ま、もともと転生するつもりだったんだけどね。
てか、今の石版どっから出したし。
「了解。乗ったよ。」
「分かった。じゃあ、転生の儀式を始めようか。
開門せよ、顕現せよ、我、創造の神の一柱が命ずる。」
え?これガチのやつじゃん。へぇ……?
「まだ終わらないよ?」
マジすか。でも、青白い光が舞ってて幻想的なんだよね…このままずっと見ていたい気もする。
「其は誓約に従い、汝を導かん。創生の時はいま。全て呪縛から解放し、全ての邪なる因果を裁ち切る時。世界よ、我に従え。
創生・輪廻の天秤」
瞬間、凄まじい光が弾け、それが収まった頃には…そこに、少女の姿は跡形も無く消えていた。
読んでいただきありがとうございます