朝起きて歯磨きしてたら、鎖骨のあたりから入水管と出水管が生えているのに気がついてしまいました
家紋 武範様の「あやしい企画」参加作品
タイトルは檸檬絵郎様から。
その前の夜、俺はしこたまアサリの味噌汁を飲んだ。美味かった。
ああ、アサリ浅利アサリよ、君はどうしてそんなに美味しいのか。
芳しき海のミネラルがお味噌に絡み、芳醇な液体となりすする俺の体内を満たす。
ああ、アサリ浅利アサリよ、君はどうしてそんなに美味しいのか。
そしていつも通り風呂に入り、ゴロゴロしてから、眠りについた。何処か鼻孔に残る海の香りに思いを馳せて……。夢を見ていた。
ゴソゴソと、潜る、潜る、じっとそこに閉じこもっていた。そしてときに、ピュ!ヒュ!と何かを吐き出し入れる事に、再び吐き出す、その事によるやり遂げた達成感、やったぜ!みたいなのが、なんとなく過ぎていく日々を送っている俺の心を夢の中とはいえ満たした。
それは不可思議な何か、モゾリと身体の中を這う、怪しげな感覚、むず痒いような、そういう身体的な気持ち悪さを伴っていたけど………。
ピピピピ!ピピピ!ピピピー!携帯のアラームが時を知らせた。
ん……朝が来たのか、しじみのお味噌汁が飲みたいな、あの小さい烏色の貝に閉じ込められた、栄養成分たっぷりのエキス……それに思いを馳せる。
はまぐりを網で焼いて食べるのもいいな、ジュワッと、口を開けたら醤油をひとたらし、エア香ばしさを感じてしまった。次の休みには食べに行こうかな、と、起き上がる。
「……、それにしても変な夢みた、何だ?ありゃ、あ!ヤベ!遅刻する」
洗面所に行き、顔を洗い寝ぼけた頭をはっきりさせている……ヒュ!ぴゅ!ぴくん!ぴくん!と胸筋が動いた。なんだ?なんかおかしい、夢の中のむず痒さを思い出した。俺は鏡を見る、鎖骨のあたりがへんか?歯を磨きつつと手をそこにやったとき。
目がテンになった。何かある、何かあやしい感覚、このぴょんぴょんしたの何!ティーシャツの下になにか……恐る恐る首元をびょーんと伸ばして中を見てみると……、
「は?な!なんだこれ?」
鎖骨のあたりに管がヒョコヒョコと、出ていたのだ!それはさしずめ貝の『入水管と出水管』に見える。いや!それそのもの!
入水管、出水管……、それは貝のさしずめお口、呼吸をする、食事を取る、吐き出す代物……。は?アサリの呪い?食べすぎたか、慌てて口をゆすいだ。
「どうしよう、何これ、ググって……ふぇっ!なんか記事がアップされてる」
困ったときのウェブ検索、スマホを取り出し『鎖骨、貝、呪い』で検索すれば……呪いはなんとなくつけたキーワードだったのだが………。ヒットした!
――、これであなたは『浄化』の民になった。君こそはヒーロー!byアサリ星人、気になる方はアサリの味噌汁をタップしてね!ボンゴレビアンコぉぉ!
「は?何それ」
怪しげな文書とともに、旨そうな『アサリの味噌汁の画像』、ドキドキしながら俺は迷うこと無くそれをタップした。どっかのコマーシャルの曲がのんびりと流れる。お味噌汁は…、思わず口ずさみそうになる、いやいや!それよりも鎖骨、鎖骨の………藁にもすがる思いでそれを読み込めば……。
――ワレワレハ!地球の水資源ヲ浄化するタメ、大いなる意志にシタガイ、ハルカ彼方『シャコガイ星雲』カラヤッテキタ、シカシ、この星ハ、大気からヨゴレテイル、ナノデ『大気浄化装置』をこの星の『陸上セイブツ』に投入スル事にシタ、コレデ、イス管ダル迄イカなくても、大気は浄化サレルノだ!デワ、ケントウヲイノル、ボンゴレビアンコぉぉ♡
「ふおごご?何それ、な、なに………あっ、でも、この記事結構見られてる、え?どういうこと?仕事行きたくない、仕事………」
俺は数分後には、独り暮らしのワンルームマンションをいつもの様に出ていた。
いつもの様に、マスクをつけている人々の波にのり、歩いている。今朝は漂うかのように感じるのは、俺が『入水管、出水管』を埋め込まれたせいかもしれない……。
ガタンガタン、電車に揺られる、ため息が出る。どうしよう、病院、いやいやこんな妖しいの生えてるってヤバいって、はぁとため息をつく、今朝はマスクを忘れていた俺。思わず鎖骨のそれに手を当てた。
胸筋がぴくんぴくんしている、そこで気がついた。満員電車なのでムッとしている空気が、妙に涼やかで気持ち良い。その時俺の右隣のおっさんが、ため息を上げた。
「はぁぁ、どうしよう」
そう言うと鎖骨のあたりをさすっていた、俺はまさかと思い……
「俺は……『アサリ』なんッスよ」
そう呟いた。正々堂々聞きたかったのだが、どう考えても怪しい質問になってしまう。ドキドキしていると……、
「ほ!き!君もか、俺は『はまぐり』なんだ、ハマグリがそれはもう好きで……」
そうおっさんが答えたとき、俺の左隣から
「きゃっ!ホントなの?私は、『シジミ』なの!毎日シジミサプリメント飲んでて……」
そうかわいい声が上がる!俺とおっさんはそっちをガン見した。吊り輪に捕まっている美女、タートルネックのセーターをきて、薄手のコートを羽織っている。そして!朝からラッキースケベに成り果てる、俺とおっさん。
「もう!何なのでしょうかね!病院にも行けないし、でも空気がきれいになるって、私達の周りだけ、インフルエンザとかウィルス対策バッチリになるのかな」
そう話す彼女のおっぷぁいが、軽く揺れているのを俺とおっさんが、でれっとした、アヤシイ笑みを浮かべながら見ていたというのは、当然といえば当然なのだった。
――ワレワレハ!地球の水資源ヲ浄化するタメ、大いなる意志にシタガイ、ハルカ彼方『シャコガイ星雲』カラヤッテキタ、シカシ、この星ハ、大気からヨゴレテイル、ナノデ『大気浄化装置』をこの星の『陸上セイブツ』に投入スル事にシタ、コレデ、イス管ダル迄イカなくても、大気は浄化サレルノだ!デワ、ケントウヲイノル、ボンゴレビアンコぉぉ♡
お、わ、り。
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