91 発表して、異世界へ
装備の手入れもきちんと終わらせ、いよいよ発表の日の朝である。
今から広場で行われるちょっとしたリハーサルのために、蓮人達はオリビアと共に王城から馬車に乗せて貰っていた。
「ちょっと緊張してきたなぁ」
蓮人がそう呟くとポチがそれに全力で首を縦に振る。
それを見たオリビアはポチを抱き上げて膝の上に乗せて頭を撫でた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、ただ舞台に上がるだけだしね」
「それはそうなんだけど、おいら獣人族が受け入れてもらえるのかなって思うと不安で……」
「それも大丈夫よ、獣人族だからって差別するようなやつがいるならこのオリビアが成敗してくれるわ!」
鼻息を荒くしながら力こぶを作っている。ポチはそれを見て笑い声を上げた。
「うん! ありがとう!」
ポチからお礼を言われたオリビアはフリーズして動かなくなったと思うといきなりポチを強く抱き締め始めた。
「ああ、もう! 可愛いわね!」
結局広場へ着くまで愛でられ続けるのだった。
その後はスムーズに事が運びリハーサルも着々と終了していく。
そして最後に蓮人達ホワイトストライプスが第1発見者として、そしてパーティーに獣人族がいる者として、舞台へ上がることになる。
「本番では国王陛下にお名前を呼ばれた後、ここまで出てきてください。そしておそらく誰か一人で良いので挨拶を促されるので何か考えておいてくださいね」
司会の進行をする予定である女性にそう言われた。
「は!?」
いきなりそんなことを言われても何も考えていないし何を言えばいいかも分からない。
「蓮人さん、お願いしますね」
「おいら応援してる!」
「おおい! ちょっと待て! ここは平等にジャンケンをだな……」
その言葉に応じてくれることはなく、理不尽だが蓮人が挨拶を行うことになった。
挨拶の件以外は無事にリハーサルも終わり、関係者以外立ち入り禁止とされていた広場も解放され、発表を聞こうと沢山の人が集まり始めていた。
その様子を裏から見ていた蓮人の緊張はマックスだ。
「おおい、マジで俺がやるのかよ、変わってくれよ……」
蓮人のその呟きに返事をしてくれる人はいなかった。
そしていよいよ正午の鐘が鳴り、発表が始まる。
着々と進んでいき、そして王様も舞台へと上がった。
「よくぞ集まってくれた。今日は重大な話がある。
単刀直入に言うぞ、1度しか言わんからよく聞くのだ」
そうして王様は1度会話を止めて人々の顔を見回す。
誰一人として話している者はおらず、王様の話を聞き逃さないように必死に耳を傾けている。
その様子に王様は1度大きく頷き、そして口を開く。
「我々は皆もよく知っているおとぎ話に出てくるあの伝説の神人族である獣人族の村が存在することを発券し、接触することに成功した!
そしてウェスナ王国はその村を国として認め、国交を結ぶことになった!」
これだけを言ってまた話を止めて人々の反応を見ているが、反応という反応はない。
言い伝えでしか聞いた事のなかった獣人族が存在して且つ国交を結ぶと言われても、はいそうですかと簡単に信じることは出来ないだろう。
民からは何とも言えないという空気が流れてくる。それを感じとったのかまた王様が口を開く。
「もちろん簡単に信じて貰えるとは思っておらぬ。
だから今日は獣人族の村の第1発見者であるBランク冒険者パーティーのホワイトストライプスに来てもらっておる。
そしてそのパーティーの1人は獣人族だ。
しかとその目で見届けよ! ホワイトストライプスよ、来てくれ!」
王様からかなりハードルが高いお呼びがかかってしまったが、ここは腹を括るしかない。
1度深呼吸して落ち着ける。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
「うん!」
そして3人は舞台を上がる。
その瞬間視線が王様からフードを深く被っているポチへと集まった。
「こ、こんにちは! ホワイトストライプスの蓮人です!
このフードを被っているのが皆さん御察しの通り、ポチっていう獣人族の子です。
どうか温かく迎えてやってください!」
蓮人はポチへと向いて1度大きく頷く。ポチは緊張した面持ちで頷き返し、そしてフードを脱ぐ。
そしてぴょこぴょこ動くケモノミミが太陽の元に晒された。
そしておおおという声が聞こえてくると共に、こっちを向いてという声がそこかしこからかけられる。
ポチはそれに顔を赤くして照れながらも手を振っていた。
どうやらポチの愛らしさで受けいられたようだ。一安心である。
しかし、そのまま平和的に終わることは出来なかった。
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