90 武器の手入れに、異世界へ
謁見を終えた翌日、蓮人達はある用事を済ませるために城下町を歩いていたところ、大きな広場に御触れが出されているのが見えた。
そこにはある6日後の正午にある重大発表をするとだけ書かれており、市民の人達は何の発表なのか噂しながら楽しみにしている。
中にはオリビアの婚約発表なのではと言っている人もいて蓮人は吹き出しそうになるのを我慢するが、オリビアは実際にはかなりスタイルもよく美女でありその上第1王女である。婚約発表でもおかしくないと蓮人は1人で納得するのだった。
「あ、あそこですね!」
リーからそう言われて前を見るとそこには万事屋と書かれた看板が上がっていた。
そう、今回の目的は装備の手入れである。
蓮人達も自分で装備を手入れしているとはいえ、今着ている装備はモンスターの殻を使っているものなのでその手入れ方法が実際に正しいのかは分からない。
なのでせっかくの空いた時間なので本職に手入れを依頼するためにやって来たのだ。
カランカランと音のなるドアを開けて中に入る。
そこには珍しく人がおらず、気難しそうな店員が1人カウンターの奥で座っているだけだった。
「あの、装備の手入れをお願いしたいんですけど……」
「……さっさと出しやがれ」
腕を組んでこちらを値踏みするように見ながらそう言ってきたので、蓮人達は着ている装備と武器を外してカウンターに並べる。
その瞬間、その店員の目の色が変わった。
「おい、この装備達はなんだ、どこで手に入れた?」
「ガサラの街にたまにいる露天商からですけど、それがどうかしたんですか?」
「なんだと!? どうかしたも何もこいつらは超1級の武具達だ。職人として出処が気にならんわけがないだろう! それで名前はなんて言うんだ!」
「いえ、聞きそびれて分からないです……」
それを聞いた店員はちっと舌打ちをしてまた装備に視線を戻す。
「まあいい、こいつらの手入れは俺がやってやる。3日後に取りに来い」
そう言って裏に下がってしまった。
少し不安が残るが、職人というのはああいうような癖が強いほど腕がいいというのがセオリーである。
そのセオリーを信じてその店を後にするのだった。
そして3日後である。
「遅かったじゃねえかお前ら、ちゃんと出来てあるぞ」
カウンターの上に既に装備が並べられていた。
それらを手に取って見てみると。
「うわ、すごい! ついてた傷が全部無くなって綺麗になってる! 新品みたいだ!」
蓮人はあまりの出来の良さに驚いている。リーもポチもそれぞれ自分の装備を確認しているが綻んでいる顔から満足度が伝わってきた。
どうやらセオリー通りに相当の腕前だったようだ。
「ところで1つ聞きたいんだが、その刀の刀身はなんの素材で出来ているんだ?」
「いや、分かんないですね。すいません」
「そうか……。その刀の手入れをしようとして抜いた時、砥石で研ぐ必要もない程鋭くてな。でも柄の部分を見る限りかなり使い込んでいることが分かったからな、これだけ使っても手入れのいらないこの刀身の素材が気になったんだ。
分からないんなら仕方ねえ」
確かに、蓮人も自分で刀の手入れだけは1度もしたことがなかったが刀の斬れ味が落ちることは全くなかった。
今までは無属性魔法のおかげだとばかり思い込んでいたのだが、実際はこの刀の素材のおかげだったのかもしれない。
「今度その露天商に会った時に聞いておきますね」
「ああ、よろしく頼む」
「それでお代はいくらですか?」
「そうだな、まあいい仕事させて貰ったってことも含め全部で10万ゴールドにまで負けといてやるよ」
ゴブリンキングだったり今回の護衛依頼であったりの報酬でかなり儲けている蓮人達の財布は最早10万ゴールド程度では痛まない。
蓮人はさっと皮袋から10万ゴールドを取り出し素早く払った。
「毎度あり、また何かあったら持ってきな」
「はい、そうします。ありがとうございました!」
そうして3人はその店を後にする。
「いやー、いいお店でしたね。杖の性能が上がってる気がします」
「そうだな、俺も胸当ての防御力が上がってる気がするよ」
2人ともかなり満足している。
「おいらはお腹空いたなぁ」
ポチはそんな装備という装備を持っていないこともあり、上の空で通常運転だ。
「じゃあお昼ご飯にするか!」
「やったー、ご飯ご飯!」
そうして3人はまたご飯を食べに行くのだった。
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