88 王都帰ってきて、異世界へ
オリビアは沈黙を破るようにはあっと深く大きなため息をつき、そして口を開く。
「分かったわよ! あなたには特別にその黒いローブの男、健吾くんだったかしら? の情報が届いたら伝えるようにしてあげるわ!
ギルドにもそういうように手配しといてあげるわ!」
蓮人はそんな返事が貰えるとは思ってもおらず、混乱している。
「でもいいのか? それこそ権力の乱用みたいなもんじゃないのか?」
「そうね、確かにそれで健吾くんが私達や、領民、この国に危害をくわえるならば問題かもね。
だから、まだ問題が公になっていないどうにかなる今のうち何とかして捕まえて、そんな馬鹿みたいなことはやめさせなさい! いくら私でも犯罪者を庇うことは出来ないからね、分かったかしら?」
蓮人は返事をすることが出来ない。
「お返事はないのかしら?」
「いえ、頑張ります! ありがとうございます、オリビア様!」
「うんうん、これからはもう少し私を敬いなさい!」
オリビアは少し胸を張って、自慢げだ。
「蓮人さん、私も手伝うので一緒に頑張りましょうね!」
「おいらも手伝うぞ!」
「ああ、2人ともありがとな!」
蓮人の顔は今まで暗かったのに対し、今は決意に満ち溢れた顔をしている。
(よし、健吾待ってろよ。今度は俺が助けてやるからな……!)
そうした事があったあと、宿に着いてその日は解散して各自休息をとることになった。
「さっきはあんなこといったけど、約束通り王都までは私の護衛の方よろしく頼むわよ?」
「それは依頼だからな、きちんとやるから安心してくれ」
「そう、それが分かっているならいいわ。明後日、日が昇ると共にに王都へ出発するから遅れないようにね。じゃあまた明後日ね」
オリビアはそう言って自分の部屋へと入っていった。
「俺達はどうするか」
「おいらお腹空いた!」
ポチからそう言われて窓の外を見るともう暗くなっており夜ご飯の時間であった。
「よし、じゃあ夜ご飯でも食べに行こうか」
「やったー、ご飯ご飯!」
ポチのテンションがいきなり上がって飛び跳ねている。
その日、蓮人とリーは匂いに釣られているポチに手を引かれて少しお高いご飯に連れていかれるのだった。
間の一日は各々必要なものを買い出しに行くことで終わってしまい、場面は王都へ出発する当日の朝である。
オリビアと一緒に馬車に乗って門へと集合する。
そこには王都からガサラへ来た時と全く同じメンツが揃っており、既に出発の準備は整っていた。見送りに来たギルドマスターの姿もあり、蓮人を見つけるやいなやこちらへ近づいてきた。
「蓮人、王女様に言われた通り、黒いローブの男の情報は全てお前に回すようにする。ただし、相手はどんな手をくるのか分からないんだ、絶対に気を付けろよ」
いつになく真面目に語られた。蓮人はそれに真面目な顔で頷きを返す。
「分かってるならいいさ、まあまずは護衛の依頼をさっさと済ませてこい」
「ああ、ありがとう」
礼を言われたギルドマスターは少し照れくさそうに後ろ手を振りながら他の人の所へ行った。案外可愛いところもあるものである。
「蓮人さん、もう出発するみたいですよ! 馬車に乗ってください!」
既に馬車に乗っているリーから声をかけられたので、さっさと馬車へ乗り込む。また王都へ出発だ。
そうして出発した一行は王都へと無事到着した。
結論から言うと、道中は何も起こらなかった。いや、起こらなさすぎた。一体たりともモンスターが現れることすらなかったのだ。
獣人族の村へ行っていない人や護衛の人々は楽ができて良かったと口々に言っているが、蓮人達はゴブリンの黒い瘴気などのような異常事態を直接見た後なので何かあったのではないかと考えてしまう。
そして何より蓮人を含め事実を知っている全員がどこか嫌な予感を感じ取っていた。
とはいっても何か起こる確信はなくどうにかすることも出来ない。
ひとまず王都に到着したことによってオリビアからの護衛の依頼は達成となり、翌日正午に王城へ来るようにだけ言われて解散することになった。
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