87 蓮人の過去に、異世界へ
「で、でも知り合いかもしれないって、そんなのいつ分かったんですか。顔を確認する時間もなかったですし、そもそも見えるような距離じゃなかったじゃないですか」
リーは驚きながらも、冷静に疑問に思ったことを尋ねてくる。
「顔を見る時間はたしかにあったよ。黒いローブの男が影の中に沈みこんでいく瞬間、一瞬だけフードがふわりと浮いたんだ。その時に見えた。
距離は、言ってなかったかもしれないが、俺はどうやら普通の人よりも相当目がいいらしくてな、あの距離なら顔くらいは見えるんだよ」
「な、なるほど……」
あまりの視力の良さに驚いてはいるがひとまずは納得して貰えたようだ。
「それで、黒いローブの男とはどういう関係なのよ?」
オリビアからキツイ視線を浴びせられた。しかし、問いかけられた声はそれとは対照的に小さく平坦な声であった。
「そうだな……俺の親友で命の恩人、だな」
蓮人はオリビアから目を逸らさずに言い切った。そのまま睨み合いが続く。
いきなり、オリビアはふぅっと息を吐くと蓮人から目を逸らした。そうして緊張していた空気が緩む。
リーも横で小さくため息をついていた。
「それで、その子はどんな子だったの? あなたがそんな風に言うってことは、元々はあんな風にモンスターをどうにかしたりするような子じゃないんでしょ?」
黒いローブの男がどのような人物であったのかを確認するために問いかけられた。
「ああ……俺が知ってる黒いローブの男は、いや、健吾はたとえどれだけ小さな虫であろうと殺すことは出来ないし、困ってるやつがいたら絶対に手を差しのべられるやつだったんだ。
そして、そんな健吾に俺は救われたことがある」
そう言って蓮人は過去を語り出す。
あれは確か俺が12歳になる前のときだったかな? そこら辺の記憶は曖昧だけどそこそこ前の話だよ。
ある記録的な大雨の日だったのは覚えてる。
その日、俺の大好きだった両親はとある事故にあってな、もう俺の元に帰ってくることが出来なくなってしまった。そして俺だけが取り残されてしまった。
もちろんそんなガキの頃じゃ1人で暮らしていくことなんて出来るわけなく、たまたま近くに暮らしていた親戚の家に俺は引き取られたんだ。
でも両親の亡くなった事実を俺は受け入れられなく、何日も泣き続けて、荒れてな。優しく接して引き取ってくれた親戚の人達にも顔を合わせず、1歩も家を出られない引きこもりになっちまった。
それでも、俺の事を心配して毎日毎日家に会いに来てくれるやつがいたんだ。それが健吾だった。
初めのうち、俺は自分の部屋にも入れずドア越しの声を聞くのも嫌で、来たって分かるとすぐにわめいて帰らしてた。
態度悪いよな、折角気にして来てくれてたのにさ。
それでもめげず、ただひたすらに毎日毎日俺のとこに来てくれた。
それがずっと続いているうちに、なんかいつまでも凹んでいる俺が自分自身に馬鹿らしくなってな。いつしか健吾を部屋に入れて2人で話すようになったんだ。
そうしているうちに、いつしか俺は両親が亡くなってから無くしていた笑顔を取り戻すことが出来たんだ。
そしてある日、俺は健吾を連れて両親のお墓へ行ったんだ。
そのとき、横にいて一緒に手を合わせてくれていた健吾に1発頬を殴られちまった。
あんときはいきなりだったなぁ。そんで理由を聞いてみたらなんでも、俺の親父から、蓮人を1発殴ってやってくれって声が聞こえたらしい。
そんなこと有り得るわけないのにな。
でも、俺がまた墓に向き直った時、確かに聞こえたんだ。
いつまでクヨクヨしてんだこの野郎! ちゃっちゃと前を向いて歩き出せ、蓮人! お前の横にはそんないい友達がいるんだからよ! って声と、いつまでも落ち込んでいたらダメよ、私達はいつでもあなたを見守っているから、頑張りなさい! って声がさ。そんでニッコリ笑いながらこっちへ手を振ってたな。あれは絶対親父と母さんだったよ。
それから俺は前だけを向いて健吾と一緒に歩き出したんだ。
もちろん、大好きな両親のことを忘れたわけじゃないけど、それでも両親をいい思い出に変えて、歩き出せるようになったんだ。
俺をそう変えてくれたのたのが、健吾だったんだ。
「これが俺と健吾の話だよ」
全員蓮人の話を静かに聞いてくれており、話し終わっても口を開く者はいなかった。
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