81 リーのピンチに、異世界へ
「ムサシ、大丈夫か?」
「蓮人こそだ。今こそ受けた恩を返すべき時である」
「そうか、じゃあさっさと倒さないとな」
2人はそれぞれ武器を構える。
それに合わせるようにモンスターも起き上がってきた。大したダメージを受けているようには思えないがイライラしているようだ。そのまま拳を構えて飛びかかってくる。
その拳にムサシが刀の腹を合わせることで後ろへ受け流す。
更に一瞬の隙をついて蓮人が刀の突きを放つ。
しかしモンスターはその突きを手の甲にある一際硬い殻で弾き、そのまま距離をとるために地面を蹴るのだが、それを見計らったかのようにリーの無数のバブルショットがその足元へと着弾する。
泡が弾けると共に地面はぬかるみ、踏ん張りが効かなくなる。
体勢を崩し、大した距離もとることができなかったモンスター目掛け、今度は蓮人とムサシが同時に突きを放つ。
その突きは殻と殻の間にある隙間に見事に刺さりこみ、緑色の血を吹き出させることに成功するが、モンスターは刺さる瞬間に身を後ろへ傾けたことで深手にはならなかった。
そのまま後方へ大きくジャンプして蓮人達から距離をとる。
浅いとはいえ傷をつけられたことに変わりはなく、モンスターは怒りで体を震わせて奇声を上げる。
「……これはやばいか?」
「……かもしれんな」
蓮人とムサシはモンスターが奇声を上げると共に発せられた圧力に体が震えてしまうが、膝が崩れ落ちそうになるのを必死に耐える。
モンスターの目は怒り狂っており、次の攻撃の標的を蓮人へと固定しているように思える。
「ムサシ、俺と2人のどちらかが攻撃されたとき、攻撃された方は回避と防御に専念する。
狙われていない方とリーは隙をついてモンスターを攻撃してくれ」
「分かりました、私もフォローはしますが気をつけてくださいね」
リーのその言葉に蓮人は頷きを返した。
そして震える膝を叱咤し、刀を構え直し、気合いを入れ直す。
それを待っていたかのようにモンスターはもう一度大きい声で奇声を上げると鋭い爪を伸ばし、爪を振り上げて蓮人へと襲いかかる。
一瞬で距離を詰められた蓮人は慌てて刀を持ち上げて振り下ろされる爪を受ける。
そのまま力の流れに逆らわずバックステップをすることによって勢いを殺す。
モンスターはそのまま後方へ飛んだ蓮人へ追い討ちをかけようとするのだが、それは簡単には許して貰えない。
モンスターの足元にはリーのウインドアローが放たれ、そして蓮人に夢中になっていたことで警戒が薄れていた背中にムサシが袈裟斬りに大太刀を振り下ろした。
背中の殻は前ほど固くはないのか刃がすんなりと通り、そして緑色の血飛沫が舞う。
それらの攻撃を受けてモンスターの動きは止まった。そして今度はムサシの方へ向き直り攻撃を仕掛ける。
「ムサシ!」
蓮人のその声が届く前に既にモンスターはムサシに攻撃が届く所まで近づいており、今度は爪を正拳突きの要領で突き出し、串刺しにしようとしている。
ムサシは後ろへ大きくジャンプして距離をとったが、モンスターはそれについてくる。
だが、今度は蓮人がそれを後ろから突きを放つことで防ぐが、死角とはいえ流石に2度目の後ろからの奇襲は失敗に終わり、かわされてしまい、むしろ蓮人がカウンターのパンチを食らってしまった。
拳が当たるタイミングに自分で後方へジャンプしたため勢いは殺すことが出来たとはいえそれ相応の拳にダメージを受け吹き飛ばされる。
モンスターはそんな蓮人に追い打ちをかける。
しかし、リーはその動きを少しでも邪魔するためにウインドアローを、バブルショットを、ホーリーアローを手当り次第放つ。
かなりの数が放たれたことにより避けきることが出来ず、モンスターは少なくないダメージを受けたようだ。少し疲れが見えてきており、希望が見えてきた。
そこまでは良かったのだ。
しかし、何事も上手くいき続けるということはそうそうない。
モンスターの標的がリーに向かってしまったのだ。
リーは魔法使いであり、蓮人やムサシのように近接で戦うことは出来ない。そんなリーに標的が向いてしまったのだ。
これは非常にまずい事態である。
蓮人とムサシはリーから少し離れており、どれだけ頑張ってもモンスターの攻撃を代わりに受けることは出来ない。
そして蓮人とムサシがリーの盾になるための時間をモンスターがくれるわけもない。
すぐに鋭い爪を出して地面を蹴り、リーへと肉薄する。
「リー! 逃げろ!」
蓮人はそう声を上げて走り出すが間に合わず、動くことのできていないリーの前でモンスターが爪を振り上げているのが見える。
「リー!!!」
蓮人は大声をあげる。
しかし、無常にもギラリと光っている爪は振り下ろされる。
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