80 ムサシを助けて、異世界へ
(間に合え……!)
気を失っているムサシに鋭い爪が振り下ろされようとしている。
それを阻止するために蓮人は無属性魔法を全開にして間に割り込もうとする。
そして爪が振り下ろされてしまった。その風圧で辺りには砂煙が巻き上がり、中の様子を伺うことが出来ない。
「うおおおおおおお!」
蓮人の雄叫びが周囲に響き渡ると共にその中へ突っ込んでいく。
蓮人の後ろについて走っていたリーはその砂煙の前で立ち尽くす。無言で、どこか不安な表情をしているが、そっと杖を構える。
リーは蓮人がこんな所でやられるとは思っていない。だから、砂煙が晴れて攻撃のチャンスが生まれると思って杖を構え、魔法を唱える準備をするのだ。
そして砂煙が晴れて中の様子が見えるようになってくる。
そこには白い光を体から立ち昇らせている蓮人が振り下ろされていた爪を刀で受けていた。
モンスターはいきなり現れ、かつ自分の攻撃を受けた蓮人を警戒する。
しかし、警戒すべきは蓮人だけではない。
杖を構えていたリーから5本のウインドアローが発射された。それも正確に2本の足と頭と胴体が狙われている。
モンスターは慌ててバックステップで距離をとる。
蓮人とリーは追撃することなくムサシの元へ集まる。
「ほんと、無茶しないでくださいね」
「悪い悪い、でもリーもナイスだったよ」
そう言って笑いあった。
そして気を入れ替え、蓮人はモンスターに、リーはムサシに向き合う。
「おい、モンスター。今度は俺が相手だ!」
蓮人は刀にも魔力を流し込み、本気だ。モンスターもそれに構えをとって戦う気満々だ。
「行くぞ!」
蓮人は一気にモンスターとの距離を詰めて斬りかかった。
その間にリーはムサシの怪我を治療する。
お腹の傷は酷く血がドクドクと流れており、中の臓器まで見えそうなレベルである。リーは気分が悪くなり吐きそうになって、目を逸らしたくなるのを必死に我慢する。
(蓮人さんが引き付けてくれている間に出来たこの時間を無駄にする訳にはいかない……しっかりするのよ、リー!)
両頬を勢いよく叩いて気をしっかり持つ。
「アクアヒール!」
リーは魔法を唱える。
聖なる光を持った水球が空中に生み出され、それがムサシの傷を覆い尽くし、傷を癒していく。見る見るうちに傷が塞がっていき、血も止まる。
傷が完治すると共にムサシは目を覚まして体を起こした。
「なぜ傷が……。お主は蓮人の……そうか、かたじけない」
一瞬で状況を判断したムサシはリーに礼を述べた。
「いえ、お礼はいいんです。ただ蓮人さんを助けに行ってあげてください!」
「無論だ。受けた恩は返さなければならん」
落ちている大太刀を拾い上げてそう言うと蓮人の方へ駆けていく。
(こいつ、速い上に1発1発の攻撃も重い。これはまずいかも……)
蓮人は攻撃をするのを諦めて回避行動に専念していた。
しかし、攻撃をしないことには勝つことは出来ず、ジリ貧で負けるのは蓮人だ。
(さあ、どうする……?)
考えながらモンスターから繰り出される拳を刀でいなし続けていたのだが、その均衡が崩れるのは一瞬である。
モンスターが正拳突きを放った。それを避けることは出来ずやむなく刀の腹で受けたのだが、その強さは蓮人の想像をはるかに凌駕しており、その刀ごと蓮人の腹にめりこみ、そのまま後方へ3メートル以上も殴り飛ばされてしまう。
なんとか空中で体勢を整えることが出来たおかげで着地は出来たのだが、ダメージが重くすぐに立ち上がることは出来ず、膝をついて口から血を吐き出した。
(うう、やべえ、足が……)
ダメージが足にきたのか立ち上がることが出来ない。
そんな蓮人を待ってくれるわけもなく、モンスターはまたも爪を出してこちらへ向かってくる。
そんなとき、蓮人の横から何が飛び出してきた。そしてまたも甲高い金属がぶつかった音が鳴り響く。
その正体はムサシの大太刀だ。
勢いよく振られた大太刀が爪で受けたモンスターをそのまま大きく吹き飛ばしている。
ムサシは追撃することなく、油断なく構えている。
その間、リーは立ち上がることの出来ない蓮人のそばでまた水属性魔法を唱える。
「アクアヒール!」
蓮人の外傷のない傷にも効いたが、膝が震えて立ち上がることが出来ない。
「さあ、蓮人さん。早く倒して村に戻りましょう。今日も美味しいご飯が待ってるはずですからね」
「……そうだな、頑張らないとな」
少しだけ折れかけていた蓮人の気持ちをリーは繋ぎ止める。
そして今度は蓮人とリーとムサシの3人でモンスターに立ち向かう。
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