79 ムサシのピンチに、異世界へ
モンスターが現れたとだけ言って男は意識を手放したようだ。まだ息はある。
「リー、この傷水属性魔法で治せるか?」
リーはその蓮人の言葉に頷いた。そして周りにいる獣人族を掻き分けて怪我をしている男に近づく。
腹の部分を何か鋭利なもので攻撃されたようで血がドクドクと流れている。
リーは1度深呼吸して気持ちを落ち着け、魔法を発動する。
「アクアヒール」
聖なる光を放っている水が空中に現れ、そして腹部の傷へと向かっていく。
その水が腹部を覆い尽くすと共に1度光が強くなったと思うと傷口が見る見るうちに治っていく。
完全に治り、元通りになった。その瞬間に傷を受けていた男は目を覚ました。
「あれ、もう痛くない……おお、治ってるぞ!」
傷口があったところを擦っている。
しかし今はそれを待っていてあげる時間はない。蓮人はその男に何があったのかを尋ねる。
「おい、何があったのか説明してくれ!」
「お、おう。今日の夜ご飯の分の狩りをしに行ってたんだ。
そしたら何かでっかいモンスターがどこからか急に現れていきなり攻撃されたんだ。一撃でこのザマだったよ。
それから全力で逃げようとしたんだがモンスターはかなり速く、怪我をした状態じゃやられるのも時間の問題だった。そこでもうやばいってなったときだ。大太刀を持った人族っぽい人が現れたのは。
その人は俺の代わりに今そいつと戦ってくれている。
その間に俺は必死に逃げ出してきたんだ」
蓮人は大太刀を持った人族っぽい人という所に心当たりがある。
「なあ、リー。大太刀を持ったやつって、ムサシだと思うか?」
「はい、そうとしか思えませんね」
「だよな。だったら速く助けに行ってやらないと。装備を取りに戻ってすぐ向かうぞ!」
蓮人とリーは獣人族の男からその場所を聞き出し、急いで装備を取りに戻った。
その間オリビアは少し離れた所から話を聞いていた。
「はあ……。仕方ないわね……」
オリビアは1人で門の方へ歩いて行くのだった。
一方、装備を取りに戻った蓮人とリーである。装備するやいなや走ってその場所へ向かう。
話を聞いていたとおり、血の跡が点々と続いていたので迷うことはなく、全力で走ること5分少々で到着することが出来た。
「やっぱりムサシだ」
目の前には大太刀を正眼に構えているムサシの後ろ姿と、それに対するモンスターがいた。
そのモンスターは蓮人より一回りより大きいムサシよりも更に一回り以上大きい。武器は持っておらず、全身が硬いウロコのようなもので覆われており簡単には刃が通りそうにない。
2人はとりあえず木の陰に隠れて様子を伺うことにする。
ムサシは大太刀を、モンスターは拳を構えて同時に飛び掛かり、大太刀が先に振り下ろされた。その攻撃を避けることなくモンスターはそれに真っ向から拳を打ち付ける。
その瞬間、拳がぶつかったとは思えないキンっと甲高い金属同士がぶつかったような音が鳴り響くと共に、ムサシの方が押し込まれていた。
ムサシは危険と感じたのか力の向きに逆らわずバックステップで退避する。その一瞬後、モンスターの拳がムサシのいた所を風を切る音共に薙がれていた。
お互いもう一度距離を取って睨み合う。
今度はモンスターがムサシへと拳を突き出して飛び掛かる。
その速さはあのムサシをも凌駕しており、少し離れている蓮人にはほとんど感知することすら出来なかった。
ムサシは大太刀の腹でその拳を受け止めそのまま後ろへ流す。
そのまま無防備になっているモンスターの腹めがけて大太刀を振り下ろした。しかし、またもキンっという甲高い音と共に大太刀が弾かれてしまった。
そのせいで今度はムサシの体勢が崩されてしまい、腹がガラ空きになる。その腹めがけて体勢を整えたモンスターの拳がムサシの鎧を物ともせずにめり込み、そして吹き飛ばす。
モンスターはその吹き飛んでいるムサシに追いついてもう一度腹へ地面に叩きつけるような一撃を加えた。そしてムサシを中心として大きなクレーターが出来る。ダメージが相当だったのかは起き上がってこない。
モンスターは倒れているムサシの横でギラリと光る爪を出して頭上へ掲げる。
「やばい!」
蓮人はモンスターに向かって駆け出した。
読んで頂きありがとうございます!
よろしければブックマーク、評価、感想お願いします!




