75 魚の争奪戦に、異世界へ
「いやー、大漁大漁!」
蓮人とポチが2人で陸にあげた魚が小さいが山になっていた。11人なら満足して食べられる量である。
「美味しそうな魚ですね」
「うん!」
リーの言葉にポチはヨダレをジュルリと垂らしながら元気よく答える。
「早速アンの所へ持って行って料理してもらわない? なんだかんだでもう夕暮れよ?」
オリビアにそう言われて空を見上げるともうオレンジ色に染まり、端は夜が覆い始めていた。
「本当だ、早く渡さないと夜ご飯が出来てしまう」
「急げー!」
蓮人の言葉を聞いた瞬間、ポチは抱えられるだけの魚を抱えて料理をしているアンの元へ駆け出す。
あっという間にアンの元へ着いたポチはアンに魚を渡して料理してくれと頼み込んでいるのが遠くからでも見えた。
アンは1匹ずつ毒がないか確認し終えた後でポチの頭を撫でている。
蓮人の尋常ではない視力ではアンの唇が「ありがとう」と動いているのが見えた。
「お、いけたみたいだな」
ポチも飛び跳ねて喜んでいる。そこへ残りの魚を持っていってやると、アンが驚いた顔をしていた。
「この魚もよろしくお願いします」
蓮人も頭を下げて頼む。
「お任せ下さい。それにしてもよく捕まりましたね。川の魚はすばしっこく素手では捕まえにくいと言われいてるのですが。さすがBランク冒険者とだけ言っておきましょうか」
そう言ってアンは料理へ戻る。表情こそ変わらないもののやる気に溢れていることは後ろ姿からでも分かった。
どうやら今日も美味しいご飯が食べられそうだ。
そうしてまた1時間ほど経った頃、周囲は暗くなり、そして美味しそうなご飯の匂いが漂っていた。ポチはもうヨダレを隠さずにお腹もギュルギュル鳴らしている。
もう待てをされている犬そのままだ。
「食事の用意が出来ましたのでお集まりください」
その言葉には蓮人もリーもオリビアも、例外はなく一瞬で全員が集まる。皆ヨダレを垂らすのは耐えていたものの心情的にはポチと一緒だったのだ。
そうして全員にお皿が行き渡り各々食事を始める。
1番にお皿を受け取ったポチは1口食べたあと一瞬固まり、その後は一心不乱にかき込んでいる。
それを見ていると否が応でも期待が高まっていく。そして1口、魚の煮付けを食べた。
「うまい!」
思わず声を上げてしまった。
「美味しいです!」
それに続いてリーも声を上げている。
他の面々も一心不乱に食事を進めていることから美味しいのだろうと言うことは分かる。
オリビアだけは満足そうに、そして上品に食べている。さすが王女様といったところだ。
それでもまだ残っている魚もある。それらの魚を1本1本串へ刺し、スープを作るために焚いた火の周りへ立てていく。
火に炙られている所からジワジワと焼けていき、皮の破れたところからたっぷり乗っている脂が垂れている。
いつしかそれぞれ食べている手を止め、香ばしい匂いと共に焼けていく魚を眺めている。
ポチはまたヨダレをダラダラと垂らしている。
そしてひっくり返された魚はジューシーに焼けている姿を蓮人達に見せつけてくる。それに蓮人達は例外なく唾を飲み込み、静かに焼き上がるのを待つ。
「上手に焼けました」
アンがボソッとそう呟く。蓮人はその言葉に思うことがないわけでもないが、そんなことはどうでもいい。
美味しそうな匂いを漂わせている魚を手に取り、かぶりつく。
その瞬間、ふわっとした感触と共に魚特有の脂の味が広がった。かなり脂が乗っているのだが全くしつこくなく、口の中から身が溶けてなくなっていくと同時に脂も消えさりサッパリとしているのだ。
蓮人はもう1度かぶりつく。そしてもう1度、もう1度、と食べ進めていくとすぐに無くなってしまった。
「うまかった……」
蓮人は喪失感と共にボソッと呟く。
「まだありますよ」
アンも魚を食べながら火に炙られている魚を指差す。
残りは4匹だ。現在魚を食べ終わっているのは蓮人、ポチ、リアム、ギルドマスター、オリビアだ。
全員獲物を狙う鷹の目付きをしてお互いを牽制している。
「ここは王女として、依頼主として私は頂きますわね」
そう言ってオリビアは魚に手を伸ばすが、それを蓮人が止める。
「いや、待つんだ。オリビアは俺達には気楽に接しろといったからそんなことで許すわけにはいかない。
ここは公平にジャンケンだ!」
「……っ!! いいでしょう! 勝てばいいんですもの!」
「じゃあいくぞ、ジャンケン…………ポン!」
そこには指をくわえてポチ達が食べている魚を見ている蓮人の姿があるのだった。
言い出しっぺが負けるジンクスは異世界でも健在のようで、蓮人はガックリ肩を落としていた。
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