74 ガサラを立って、異世界へ
ガサラを立つまでに出来た3日間で蓮人達はオリビアを含め、久しぶりの休息をめいいっぱい楽しんだ。
1日目は物資の調達で潰れてしまったが、2日目はオリビアの街をお忍びで見て回りたいという要望もあり、ポチのようにフードを目深に被って変装して朝市などを見て回った。それには普通は止めるはずのアンもついてきた。表情は変わらないがどこか気分は上がっていたように蓮人は感じられた。朝市に出かけたはずなのに、宿へ戻った頃にはもう日も暮れかけていたがオリビアが満足そうな顔をしていたのでまあ良しとした。
そうして3日後、ガサラを立つ日である。
今回も同じように日が昇る前に起き出し、簡単な朝ご飯を済ませた。肝心の宿だが、王女様を泊まらせるための宿というだけあってソファもベッドもフカフカで非の打ち所が無かった。そのことを手紙にお礼と共に書いてベッドに置いておく。最後に装備の点検を済ませて宿を出る。
目の前にはまた馬車が待っており、それに乗って門へ急ぐ。簡単な手続きを済ませて街の外へ出ると、そこにはギルドマスターやギルドの職員が馬車などの準備をして待っていた。
そしてこちらの馬車に気づいたギルドマスターはこちらに近寄ってくる。
「おはようございます、王女様」
ギルドマスターはそう言って頭を下げてくる。オリビアはそれに軽く一礼を返す。
「それで護衛の方の依頼はどうなりましたか?」
「護衛対象は王女様と侍女1人と使者4人とのことなので、ギルドからは2人派遣することになりました。
1人がリアム、もう1人が私でございます」
ギルドマスターは淡々と言っているが、普通は考えられないことだと思う。ギルドマスターがギルドを空けることになるにも関わらず同行することと、何よりも一国の王女の護衛にも関わらず護衛の人数が少なすぎる気がする。
そう思ったところで今更どうこうできるものでもないので蓮人は口には出さないが。
「それなら安心ですわね、よろしくお願いします」
オリビアも淡々と返事を返して会話が終わり、ギルドマスターはまた馬車の準備の方へ戻る。
そんなこんなで辺りも日が昇り明るくなってきて出発の時間となった。
今回は馬車は2台だ。1台には蓮人、リー、ポチ、オリビア、アンが、もう1台にはギルドマスター、リアムと使者4人が別れて乗り込み、出発する。
また変わり映えのない景色がひたすら続いていく。
結局、馬車の揺れと早起きしたことによって寝てしまっている間に嘆きの森の前へ到着した。
護衛としてそれでいいのかと思わんでもないが何事もなかったようなので結果オーライと思っている蓮人である。
一先ずこれで馬車の旅は終わりだ。また2週間後の正午にここに迎えに来てもらう予定である。
「よし、今日は少し早いがここで野営の準備をしよう」
ギルドマスターが皆に声をかける。
まだ進むことも出来るのだが今森の中へ入っても日暮れまでには村へ辿り着くことは出来ないと思われるため、賢明な判断だ。
そうしてテキパキと野営の準備を始める。
今回は人数も少ないため、ポチとオリビア以外全員でテントを立てたりしている。
9人でやればテントの1つや2つなどすぐにたて終わる。アンはすぐに料理の下準備を始めるがそれ以外は暇な時間だ。モンスターの出る気配もなく、近くに水が綺麗で澄んでいる川が流れているのが見えている。
こうなれば蓮人が次にすることは決まっている。
(川遊び一択だろ!)
リーとポチ、オリビアを誘って川へと向かう。ギルドマスターに何か言われるかと思ったが大声を出せば通じる距離なので特に咎められることもなかった。
「綺麗な川ですね。この前来た時は夕暮れで水を汲むくらいしか出来なかったですもんね」
リーは最初に嘆きの森へ行ったことを思い出していた。あの日はガサラから歩きでここまで来たのだが、今回馬車ということでかなり早く着いたので余裕がある。
「お、魚もいっぱい泳いでるな。素手で取れるかな?」
蓮人はそう言って靴を脱ぎすて川へと入る。魚の背後からそろーっと近づき、両手で一息に掴む。
「とれた!」
全長20センチメートルほどの大きな鮎らしき魚だった。
「すごいです!」
「すごい! オイラもやりたい!」
リーは目をキラキラさせて拍手しているし、ポチは早速靴を脱いで川に入っていた。オリビアはそれを微笑ましい笑いを浮かべながら見ている。
「よし、今日はこの魚も夜ご飯に焼いてもらおう! ポチ、どっちの方が多くとれるか競争な!」
「負けないぞー!」
「2人とも頑張って!」
傍から見れば家族のようなやりとりにオリビアはニヤけるのだった。
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