71 ガサラ目前で、異世界へ
そうして王都を出発して6日目のお昼頃となった。行きの倍ほど日数がかかると思っていたのだが、予想よりも移動スピードが速く、後数時間でガサラに到着するという所までやって来ることが出来た使者団一行である。
道中は特にモンスターに襲われることも無く、ただひたすらに代わり映えのない景色が続くだけだった。しかし、初日のご飯前の会話から蓮人達とオリビアとの距離がぐっと縮まったことで、道中の暇な時間も様々な会話をすることで苦ではなかったのだった。
「もう少しでガサラに到着するわね、今回の移動時間は短かったとはいえ、全く退屈しなくて本当に良かったわ」
膝の上にポチを乗せたオリビアがそう言う。
「まあガサラまでの道のりはまだまだ序の口で、これからが本番だよ?」
「そうだけど、もうガサラに着いたようなもので一区切りつくわけだし、それに嘆きの森までもあなた達がいるんだし退屈しないで済みそうだしね」
「それはフラグを立ててしまうような気がするからやめておこうか」
「フラグってなに?」
オリビアの頭に?が浮いているのが見えるようだ。
そんなとき、「モンスターが現れたぞ!」という護衛からの声が聞こえたのだった。
「まあこういうことだな。フラグ回収乙とだけ言っておこう」
オリビアは分かったような分かっていないような顔をしているが、とりあえず放置だ。
「ポチはここで引き続き王女様の護衛をしてくれ。俺とリーはモンスター退治の方へ行ってくるよ」
「分かった! 頑張れ!」
「お気をつけて」
ポチとオリビアから応援の言葉を貰って馬車を下りていく。その時、アンからもよろしくお願いしますの意味が込められているであろうお辞儀もされる。
「よし、じゃあ早く終わらせようか」
「ええ、今日中にガサラに着きたいですしね」
2人はちょっと買い物に行くようなノリでモンスター退治へ出向く。そこにいたのはゴブリンが十数体とオーク3体だった。
護衛の数は蓮人とリーを含め10人だが特に問題はないだろう。
蓮人は無属性魔法を2割程度の力で発動させ、早速近くにいたオークへと向かって斬り掛かる。
目にも止まらぬ速さで抜剣し、無造作に横へ一閃する。ほとんど力を込めていないにも関わらず、滑らかな線で上半身と下半身が切断された。おそらくオークは自身がどう攻撃されたのかも分からないまま絶命しただろう。
そんな蓮人の圧倒的な強さに周りでゴブリン達の相手をしていた護衛は驚いている。
それもそのはず、オークはCランクモンスターに分類されているのだが、実際のその力はBランクに近しい。そんなモンスターを蓮人は刀を1振りするだけで倒してしまったのだ。驚くの無理はないだろう。
そして、蓮人すらも自分の力に驚いている。
「え? 俺2割くらいしか無属性魔法も発動してないぞ?」
蓮人は気づいていなかったのだが、ガンズローゼズのボスとの死力を尽くした戦いやムサシとの全力の戦いの中で蓮人の実力はかなり底上げされていたのだ。もはやオーク程度では足止めにもならず、無属性魔法なしでも余裕とは言わないが勝つことが出来るだろう。
そんな風に考え込んでしまい、戦いの最中にも関わらず立ち止まってしまった蓮人である。
そして後ろからはオークが錆びた大剣を振り上げて迫ってきているがそれには気づかない。
「蓮人さん、危ないです! ウインドアロー!」
リーは焦って大声を上げ、ウインドアローを発動する。何も考えず適当に生み出した風の矢は8本である。そしてその威力も今までの比ではない。一直線に飛んでいった風の矢は全てオークに命中して体を貫通して穴をあけた。
そしてオークは声を上げることなく絶命する。
それをした本人のリーは自分の魔法の威力に驚いていた。リーもこれまでの戦いで力をつけ、実力を上げていたのだ。それに気づいた瞬間である。
そんな蓮人とリーにはオークやゴブリンなど敵になるわけもなく、一瞬で片がつくのだった。
「なんか、俺達めっちゃ強くなってない……?」
「そうですね……」
あまり状況を飲み込めていない2人だが、周りの人にはそんなことは関係ない。
「いやー、あんたらのおかげで早く終わって助かったよ。本当に強いんだなぁ、王女様の護衛に選ばれるくらいはあるな」
他の護衛達はそれぞれそんなことを言いながらお礼を言ってくる。
「後始末はこっちでしとくから2人は王女様のとこに戻りな」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
蓮人も後始末を手伝おうとしていたのだが、お言葉に甘えて戻ることにした。
馬車の中にはキラキラした顔の王女様が待っていた。
「ここから見てたけど、凄いわね! 聞いていた話以上だったわよ!」
「ありがとう、でもオークだったしな」
少し調子に乗り、満更でもなさそうにそう言う。
「調子に乗ったらダメです! またリアムさんに怒られますよ!」
リーに背中を思い切り叩かれた蓮人は思わず咳き込んでしまう。
そんな蓮人にまたひと笑い起きるのだった。
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