69 1日目の移動が終わって、異世界へ
「ホワイトストライプスの皆さんは、オリビア様の護衛が依頼ですから、同じ馬車の乗って頂くことになります」
ポチを抱きしめながら頬ずりをしているオリビアを横目に見ながら侍女がそう言ってくる。
「外で見張ってなくても大丈夫なのですか?」
蓮人は疑問を口にして尋ねる。
「はい。他にも護衛を雇っているので問題ありません」
その返事に納得した蓮人は頷きと礼を返した。
「申し遅れましたが、私はオリビア様の侍女をさせていただいております、アンと申します。この旅の間はホワイトストライプスの皆様のお世話も承っておりますので、なんなりとお申し付けください」
蓮人の拙い礼とは違って、様になっている綺麗なお辞儀をしてきた。
「こちらこそお願いします。俺たちの自己紹介はいらない、ですよね?」
「はい、存じ上げております」
そんな会話をしていると、この馬車の御者の人から声をかけられた。
「まもなく出発致します。初めは揺れますのでお座り下さい」
その声に従ってオリビアはポチを膝の上に乗せてもう座っている。
「お二人もそちらへお座り下さい」
オリビアの前に座るように促される。アンは少し離れた所へ座るようだ。御者は全員座ったのを確認して馬車を動かし始める。
久しぶりという感じが全くしないが、ガサラへ出発だ。
「暇だなぁ」
「そうですね」
行きに見た景色と同じ景色をまた何時間も見せられては暇になる。行きと違うことといえば、ポチがオリビアに抱かれながら膝の上で眠っていることくらいだ。
まあオリビアも幸せそうな顔でポチの寝顔を見ているので何も問題はないだろう。
その光景があと何時間も続き、日が暮れることで今日の移動は終わり、野営の準備に入る。
蓮人は伸びをしながら馬車から降りていく。それに続いてリーも降りてきた。
「人数も多いし、歩きの人もいるから行きの倍近く時間がかかりそうだなぁ」
「そうですね。行きで3日もかかったのですから、倍の6日かかると思うと嫌になってきますね……」
「王女様の馬車ってだけあってあまり揺れなくてお尻が痛くならないのが救いだよ」
それにはリーも同意なのか首を縦に振っている。
「すいません、火を起こすのを手伝って頂けないでしょうか」
アンに頼まれた。
どうやら馬車ごとにテントを建てたり火をおこしたりするのだが、今回この馬車担当の人には火属性魔法の適正を持つ人はいないらしい。
「はい、大丈夫ですよ」
焚き火の形に組まれている木に向けて、魔力を限界まで絞った小さなファイアボールを放つ。
ちょうどライターの火ほどの大きさの火球が木に着弾し、勢いよく木を燃やし始めた。
「ありがとうございます、助かりま した」
「いえいえ、それより他に何か手伝うことありますか?」
「後は私どもで出来ますので大丈夫です。是非オリビア様のお側で護衛の方をよろしくお願い致します。野営の準備をしている際が1番警備が手薄になってしまいますので」
アンはそういうとお鍋や食材を持ち出して料理を始めた。
テキパキと下準備を始める様子は見ていても気持ち良いものだったのだが、2人は言われた通りまだ馬車の中にいるオリビアの元へと向かう。
「王女様、開けてもよろしいでしょうか?」
扉の閉まっている馬車のドアをノックして中に入ってよいのか尋ねる。
「よろしいですわ」
返事が返って来たので失礼しますと一声かけて2人は中に入ると、そこには馬車が動いていた時と変わらず眠っているポチを抱えているオリビアだけがいた。
蓮人とリーは何も言わず先程と同じ席へ座ったのだが、聞こえるのはポチの寝息だけで何とも気まずい間がある。
「そういえば、あなた達の名前聞いていなかったわね、聞いてもいいかしら?」
「はい、俺は蓮人って言います」
「私はリーです」
名乗った後、座りながらだが軽くお辞儀をする。
「蓮人にリーね、覚えたわ」
「ありがとうございます」
とりあえず何に対してかは分からないがお礼を言っておく。そんな態度が気に食わなかったのか、オリビアははあっとため息をついた。
「今は他に誰もいないし、そんなに言葉遣いとか気にしなくていいわよ。初めて会った時みたいに気楽に接しなさい」
気に食わなかったのではなく、どこか疲れた様子だ。
「私と接する人は皆、あなた達みたいな態度をとるのだけど、それにウンザリしてるのよ。だから楽に友達の感覚で接してくれていいわよ」
「……本当に?」
「ええ、嘘はつかないわよ」
その返答に蓮人は俯き少し考え込んだのだが、すぐに前を向き直す。
「じゃあお言葉に甘えて。俺敬語とかあんまり得意じゃなかったから疲れるんだよなぁ」
肩を揉みほぐしながらそう言う。もう礼儀もクソもない言葉遣いだ。
オリビアはそんな蓮人の様子に驚いた顔をするが、すぐに笑い出した。
「ははは、蓮人は面白いやつだな。私がこう言って本当に態度が変わったやつは初めてだよ」
「ええええ!」
普通に考えてそう簡単に接し方を変えられるわけないのだが、日本では身分の差はないのでそんな考えに至らず、言われた通りにしてしまった。蓮人の間抜けな驚く声が馬車の中に響くのだった。
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