68 3日後に出発して、異世界へ
謁見した日から3日後の朝、日も出ていない時間である。この時間では宿の食堂も空いていないので、蓮人達は前日買っておいたパンで簡単な朝ご飯を済ませ、出発前の最後の確認として自分たちの装備についてしっかりと点検した。
「よし、じゃあ行くか」
「はい!」
「うん!」
リーとポチもかなり早い時間にも関わらず元気な声を上げた。
「しー!」
蓮人は立てた人差し指を唇に当てて静かにするようにジェスチャーで伝える。2人はそれを見てはっとしたように口を押さえ、コクコクと頷いている。
それを確認した蓮人はそーっと宿を出ていく。料金は前払いで払っているのでそのまま出ていっても問題は無いのだが、一応お礼の手紙を書いてベッドに置いてきた。
まだまだ暗く、ほとんど人通りのいない道を門を目指して歩いていく。道中何人か道路で寝ている酔っ払いもいたのだが、この季節では外で寝ても凍死する事はないので自業自得ということで放っておいた。
そんなこんなで特に何も起こらず、門に着いた。そこで衛兵に声をかけられる。
「お前達がホワイトストライプスの蓮人、リー、ポチであってるか?」
「はい、あってますよ」
「そうか、疑う訳じゃないが一応身分証を確認させてくれ。悪いな、これも仕事なんだよ」
「いえいえ、気にしないでください」
ホワイトストライプスはそれぞれ持っているギルドカードを衛兵に渡した。
衛兵はそれにざっと目を通して確認したあと、すぐにそれを返す。
「よし、通っていいぞ。外では国王陛下達がお待ちだぞ」
そう言って衛兵は大きな門の横にある小さな扉を開けてくれた。どうやらこちらも門の外へ繋がっているようだ。
蓮人達はお礼を言って外に出ていく。
出ていった瞬間、見覚えのある何かがまた走って近づいてきた。
「きゃぁぁぁぁぁ、やっぱり可愛いですわ!」
正体はオリビアだった。早速ポチを抱き上げて強く抱きしめ、頬ずりしている。
「ぐるじぃぃぃ」
あまりの力強さにポチは苦しんで巻き付いている腕を叩いてギブアップをしている。
「あら、ごめんなさい!」
慌てて抱きしめる強さを弱める。
王様はそんなオリビアを見ながら苦笑いをしているが、いきなりハッとして蓮人達に近づいてくる。
それに気づいた蓮人達は慌てて片膝をつけて伏せる。
「ああ、そんな気を遣わんで構わん。立っていて良い」
「いえ、しかし……」
「いいから立つんじゃ。わしが構わんと言っておるからよいのだよ」
「はい、ありがとうございます」
3人は立ち上がり、王様に向き合う。その様子を見た王様は満足そうだ。
「今日は依頼を受けてくれて助かったぞ、改めて礼を言おう。
それでこれからの話なのだが、お主達ホワイトストライプスには娘のオリビアの護衛を主に頼みたい。我が行こうと思っておったのだがどうしてもと言われてそうなったのだ。構わんか?」
「ええ、それで構いません」
蓮人はポチが少し嫌そうな顔をしているのを無視して即答した。こんな所で王様に反抗なんて出来るわけがない。
「うむ、娘のこと頼んだぞ」
王様の口元は笑っているのだが、目は全く笑っておらず、それに蓮人達は背筋を凍らせる。
そんな中もなんとか「はい」という言葉を絞り出して返事をする。
それに満足した様子の王様はその場を離れ、皆が集まっている場所の前に立ち、激励を飛ばす。
「ではそろそろ出発だ。
これから起こることはおそらく、歴史を動かすことになるだろう。そのための仕事をお主らに託す。頼んだぞ!」
簡単な挨拶だが、使者の士気を上げるには充分過ぎるものだった。一人ひとりの顔つきが凛としたものに変わっている。
そうして馬車を操る者、馬車に乗る者、馬車の周りを警戒しながら歩く護衛の者、それぞれが自分の立ち位置へと向かう。
「……俺たちはどうしたらいいんだ?」
「さあ……」
ホワイトストライプスとしてはオリビアの護衛を頼まれており、馬車の護衛を依頼されている訳では無いのでどうするべきか分からない。
そんなとき、後ろから声をかけられた。
「ホワイトストライプスの皆さんはこちらにおいでくださいませ」
メイド服を着た侍女らしき人から声をかけられた。その後ろについていくと、1台の豪華な馬車に乗るように言われる。
中に入ったとき、またも何かがすごい勢いで近づいてきた。
「やっぱり、私の癒しですわ。使者として行くことになって良かったですわ」
そこにはやっぱりポチを抱きしめているオリビアの姿があるのだった。
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