67 王女が出てきて、異世界へ
「えっと、あの、あなたは……?」
蓮人とリーはポチをなすがままにしている女の人に誰なのか尋ねる。
「そんなことはどうでもいいじゃないの! それよりもこの子はなんなのよ!」
ポチへの頬ずりをやめて胸に抱え直して逆に尋ね返してくる。
そのときにやっと顔を見ることが出来たのだが、かなり整っている顔だった。目もパッチリとしてシュッとしており、ウェーブがかった豪奢なプラチナブランドの髪を腰まで伸ばしている。
ハリウッド女優にも負けず劣らずの美貌の持ち主だ。
「その子はポチですよ! 可愛いのは分かりますが苦しそうなので離して上げてください」
「え?」
リーからそう言われた女の人は自分が抱き抱えているポチを見下ろした。驚くほどの力がこもっていたようで、ポチは泡を吹いて倒れる寸前のように見える。
「あら、ごめんなさい!」
慌ててポチを抱く手を緩め、その代わりにポチの頭を撫で始めたかと思うといきなりポチの頭のケモノミミをいじり始めた。
「いやー、本当に可愛いわねこの子。癒しだわぁ」
完全に自分の世界に入ってしまっている。
しかし、いつまでもポチを放って置くわけにはいかない。
「えーっと、そろそろ離してもらっていいですか……?」
蓮人が下手に出ながら頼んでみるのだが
「嫌よ! 私の癒しをとらないで!」
簡単に断られてしまった。ポチも助けを求める目でこちらを見ている。
「とはいっても、ポチはうちのパーティーだし、3日後には依頼もあるからそんな暇はないんだよ。分かってくれないか?
あと、あんた誰なんだ?」
そう蓮人に言われた女の人はポチの耳をいじる手を止めて下ろし、蓮人とリーの方へ向き直り、姿勢を正した。
その瞬間、今までにはなかった威厳のようなものが感じられた。先程謁見していた王様と似た雰囲気を放っている。
「失礼しましたわ。私はウェスナ王国第1王女、オリビア・ウェスナですわ、以後お見知りおきを」
そう言って着ているドレスのスカートの裾をつまみ上げて軽く礼をしてくる。
「「「え?」」」
蓮人達3人の声が揃い、間抜けな顔をして固まっている。しかしそれも第1王女と言われれば仕方ないだろう。3人は慌ててオリビアに向かって片膝をついて伏せる。
「失礼致しました。王都に来たのは初めてで王女様のお顔を拝見したことがなく分かりませんでした。どうか御無礼をお許しください」
蓮人は日本にいた頃にラノベに出てくる王族への言葉遣いを思い出しながら必死に謝った。
「いいよいいよ、堅苦しいの嫌いだしね。ただのプライベートな時間だから問題にしないから安心して」
先程感じられた威厳は全て消え去ってラフな口調に戻る。
「は、はあ。そうですか」
助かったと思いながらも態度は変えない。
「それよりも早く立って、さっき言ってた依頼について教えてくれない?」
「いえ、でも……」
「じゃあ命令よ! 3人とも立ってその依頼について私に話しなさい!」
オリビアが頬を膨らませながら、少し怒ったようにそう言った。そんな表情も様になっているので、蓮人は少し頬を赤らめて見惚れながらも命令通りに立ち上がった。
「えーっと、見ての通り、ポチは獣人族です。それで今回、獣人族の村へ使者を送ることになったんですよ。それの護衛と道案内の依頼ですね」
一応機密情報なので話してもいいか迷ったのだが、第1王女だしいいかという考えの元全部話してしまった。
「はい!? ちょっと待ってくださいな、獣人族ですって? これって飾りの耳じゃないんですか?」
またポチを抱き上げ、今度はケモノミミが本当に取れないか確認している。
「まさか、本当に存在していたなんて……」
信じられないものを見たといったような感じだ。
「獣人族は嘆きの森の奥で村を作って集団で暮らしていますよ。僕らはこれからそこへ行く訳ですし、なんならそこから来た訳ですか――――」
「そこにはこの子、ポチちゃんと言ったかしら? それくらいの子達もいっぱいいるのかしら?」
オリビアは蓮人の話を遮る。
「まあそうですね」
実際に話したりした訳では無いが、パーティーのときや街を歩いている時に小さな子供は何人か見たので肯定の返事を返した。
「なら、私も使者として同行しますわ!」
いきなり爆弾発言をするオリビア。
「あの、それは私達に言われてもどうにも出来ないのですが……」
リーは遠回しに辞めるように言うのだが、オリビアは聞く耳を持っていない。
「ならば至急お父様にお伝えしなければ! ではまた!」
そう言ってオリビアはどこかへ走り去って行った。
「……なんか面倒くさいことになりそうだな」
「そうですね……」
蓮人とリーはため息をつく。ポチはいそいそとフードを深く被るのだった。
読んで頂きありがとうございます!
よろしければブックマーク、評価、感想お願いします!