64 絡まれて、異世界へ
「……なにこれ」
蓮人は状況を把握出来ていない。
確かにそこそこの力を込めてアッパーを食らわせてやったが、無属性魔法を使ってもいないのにあんなに吹き飛ぶわけがない。
しかも、それだけではない。
近くで様子を伺っていた人達も集まって来ていたのだ。それぞれ良くやってくれただのカッコよかっただの声をかけてくる。
そんなやり取りをしていると爽やかな雰囲気の警備兵らしき人がこちらにやって来た。
「えーと、これやったの君なのかな?」
「……そうですね」
蓮人は一瞬誤魔化して逃げようとしたのだが、この状況で逃げられるわけがない。大人しく認めた。
「事情を聞かないといけないし、ついてきてもらえるかな? そこの奥さんと子供さんも大丈夫?」
奥さんと言われて顔を真っ赤にしてモジモジしている。ポチはこんな騒動があったにも関わらず寝続けている。
そんなこんなで詰所に連れていかれるのだった。
「なるほど、その腰の皮袋を寄越せと言われて断ったら殴りかかってきた、ね。うん、聞きたいことはこれくらいかな。時間取らせて申し訳なかったね」
詰所に連れていかれたあと軽く話を聞かれた後すぐに解放されることになった。あまりに早すぎたため蓮人は拍子抜けしてしまった。
「え、もう終わりですか?」
「そうだよ。周りで見てた人の証言と君の証言は一致していたし、君に非はないことが分かったからね。
それにここだけの話なんだけど、君がコテンパンにした相手ってこの街ではそこそこ名の通ったCランクパーティーのフラットヘッドだったんだ。ただそれにいきがって好き勝手するやつらで問題が絶えなくて困ってたところだったんだよ。正直な話、お灸を据えてくれた君には感謝しているんだ」
どうやらなんのお咎めもないらしい。
「問題にならなくて良かったですね。問題になってたら王様に会う所じゃなかったですよ」
後ろの席に座って蓮人と警備兵の話を聞いていたリーは、終わったと判断してこちらにやってきた。
「ん、王様に会うってどういうことだい?」
警備兵は驚いて尋ねてくる。
「僕らガサラの街から来たんですが、ある依頼を受けて書類を王様に届けに来たんですよ」
「君達は何者なんだい……? ってそういえば名前も聞いてなかったね。尋ねてもいいかい?」
隠す理由もないと考えた蓮人は自分達の自己紹介を始める。
「俺たちはホワイトストライプスって3人組のBランクパーティーです。俺が蓮人でこっちがリー、寝ているのがポチだよ」
「Bランクだって!?」
自己紹介を聞いた警備兵は驚いてこちらへ体を乗り出している。
そんな様子に蓮人とリーは驚いて体を後ろに反らした。
「なるほど、それならフラットヘッドなんて目じゃないはずだよ……。
僕はこの王都で警備隊の隊長をしているダーガだよ。よろしくね」
驚いたのを取り繕うように蓮人に手を差し出して握手を求めてきたので蓮人も握り返す。
「それにしても家族のパーティーって珍しいね、しかもその若さで子供連れでBランクなんて、本当にすごいよ」
詰所に連れてこられるときに奥さんと子供と言われたこととそれを否定することを忘れていて、ダーガは勘違いしたままだった。
横にいるリーは家族と言われたことにまた顔を真っ赤にして俯いている。
「い、いえ、あの、俺たち別に家族って訳じゃないんです」
蓮人はとりあえず否定しない訳にはいかず、真っ赤な顔をしてどもりながらなんとか訂正した。
「なるほど、そうだったのかい。あまりにお似合いだったから勘違いしていたよ」
その言葉に蓮人とリーは更に顔を真っ赤にする。ダーガはニヤケながらそう言ってくるので、確実に悪ノリしている。
「も、もう、悪ノリしないでくださいよ! 蓮人さん、帰りましょう!」
リーは真っ赤な顔を隠しながら寝ているポチを抱っこして出て行こうとする。
そんなリーをダーガはやりすぎたと謝りながら引き止める。
「待って、悪かったよ。まだ話は残ってるからちょっとだけ待って!」
リーは返事はしないが動きをとめたのでそれを了承を得たと判断したダーガは話を続ける。
「王様に書類を届けに来たって言っていたよね。僕が王城の衛兵に蓮人達を優先的に見るように伝えておけば早目に王様に謁見できるかもしれないんだけど、どうする?」
「いいんですか?」
ありがたい話に今度は蓮人が体を乗り出す。
「今日のお礼とお詫びってことで特別だよ。
まあ他の権力者からの話があったらその後に回されちゃうかもしれないけど、普通よりは早く見て貰えるはずだよ」
ギルドマスターの印があるため、蔑ろにされる訳がないので、運が良ければ本当に数日の内に謁見することも出来るかもしれない。
「じゃあお言葉に甘えて、お願いします!」
「うん、了解したよ。伝えておくから明日王城の衛兵に声をかけてね」
「「ありがとうございます!」」
蓮人とリーは息ピッタリでお礼を言ったのだが、そんな様子を見てダーガはまたニヤケている。
「いやー、やっぱりお似合いじゃないか」
またもそう言われたことでリーは真っ赤になってそのまま詰所を出ていってしまった。
「じゃあこれで失礼します!
ちょっとリー、待ってくれよ!」
蓮人も顔を赤くしながらも挨拶をして出て行くのだった。
読んで頂きありがとうございます!
よろしければブックマーク、評価、感想お願いします!