57 一段落して、異世界へ
「「「かんぱーい!」」」
蓮人達は飲み物が入ったジョッキを打ち合い、そのまま口に運んでゴクゴク飲み干す。
「プハァァァァァ。うまい!」
蓮人の顔が自然にニヤけてしまっている。
「蓮人さん、おっさんくさいですよ」
リーは上品にジョッキから飲み物を飲んでそう言う。
ポチは目の前に並べられている料理をすごい勢いで食べ始めていた。
「これくらいでいいの! せっかくのお祝いなんだから!」
そう言って蓮人も目の前に並べられた料理に手を出す。
「うまい!」
リーも美味しそうに食べている。周りの獣人族達もワイワイ騒ぎながらお酒を飲み、料理を食べて楽しんでいるようだ。
そんな光景を見て蓮人はまた頬が緩んでニヤけるのだった。
(守れて、本当に良かったなぁ)
蓮人は今回の戦いについて思い出す。
ガンズローゼズのボスとの決死の戦いやムサシとの一発勝負の真剣勝負。
そのムサシとの戦いが終わったあとは慌てて事後処理だ。
急いで結界の修復を行い、そして村の中のガレキなど戦いの跡を皆で協力して片付けた。結界は壊されたのではなく解除されただけだったのですぐに戻すことが出来た。簡単に解除されるのもどうかとは思うので改善が必要だとは思うが。
そんなことを考えながら料理を楽しんでいると、ハチとシロが近づいてきた。
「蓮人さん、ポチだけでなくこの村まで助けて頂いて本当にありがとうございます」
そう言って90度のお辞儀をする。蓮人は慌てて自分も立ち上がり顔を上げさせる。
「いえいえ、当たり前のことですよ。それに、問題を起こしたのも俺と同じ人族ですから……。むしろ俺たちの方が謝らなければならないです」
立場が変わって蓮人が頭を下げた。
「いえいえ、人族の皆がああという訳ではありません。蓮人さんのような素晴らしい人もいるわけですから」
「そうだぞ! 蓮人はいい人!」
食べる手を止めてポチはいきなり蓮人に飛びついた。蓮人はお礼を言って頭を撫でてやる。
そんな会話をしているとタロが近づいてきて蓮人に肩を組んで絡み始めた。
「おーい、何辛気くせえ顔してんだよぉ。お前は今日のヒーローなんだせぇ? シャキッとしろよぉ」
「お前酒臭い! やめろ、離れろ!」
タロは肩を獣人族の力を使ってガッチリ組んで蓮人を離さない。もちろん疲れきっている蓮人では全力で抵抗しても逃げることは出来ない。
そんな2人の絡み合いをリー達は微笑ましくおもいながら、そして蓮人に同情しながら見ているのだった。
「おおーい……。見てるなら助けてくれよぉ」
蓮人の声が虚しく響くのだった。
「ていうか、お前あの時の薬は何ともないのか?」
絡まれる腕を外すのを諦めた蓮人はそう話しかける。
「お前と初めて会った時に怪我して倒れてたって話のやつか? まあそのときの記憶がないってだけで今はピンピンしてるし大丈夫だろうよ」
今までベロベロに酔っていたはずのタロはいきなり真剣な顔になってしっかりと呂律の回った口で答える。
「それなら良かった。
それはそうと、お前酔ってないんだろ! さっさと離れろ!」
タロの口調から酔っていない事を判断した蓮人はもう一度自分から引き剥がそうと躍起になる。
「そんな冷たいこと言わないでくれよぉ。いいじゃないのー」
またベロベロに酔った風に抱きついてくる。
「酒臭い。誰か、誰か、助けてくれぇぇぇぇぇ」
また蓮人の絶叫が響くのだった。
そんなやり取りをしていると、蓮人は初めて会うのだがこの獣人族の村を治めている村長がやって来た。
顔はシワが多く優しげなおじいちゃんという感じがするが、体はしっかりと引き締まっていて力はそこまで衰えていなさそうだ。
「蓮人くん、ちょっといいかね?」
「はい! もちろんです!」
タロも逆らうことの出来ない村長からのお呼び出しだ。蓮人はさっさと着いて行ってタロから離れて行く。寂しそうな顔をしているタロを放っておいて。
そのまま着いていくと村長の家に連れられ、客間のような部屋で2人向かい合ってソファに座っていた。
「あの、それで何の用でしょうか?」
「まあまあ先にお礼を言わせておくれ。この村の子供を連れてくるだけでなく、この村を救って貰って、感謝してもしきれない。本当にありがとう」
そして村長にまで座ったままだが頭を下げられた。
「いえいえ、いいんです。だから頭を上げてください」
「お礼と言ってはなんだが、うちの孫を嫁に貰ってくれんかのう?」
頭をさっと上げた村長はそんな事を言ってくるので蓮人は顔を真っ赤にしながら断る。
「い、いえ。お、お礼なんていいですから」
村長はそんな蓮人の様子を見てふぉっふぉっふぉと笑い声を上げている。
(あー、からかわれた)
蓮人はため息をついて本題を尋ねる。
「そうじゃのお、本題に移るとしよう。
ワシ達獣人族は今までこの村が人族にバレないように隠れて暮らしてきたのじゃ。それが女神様からの言い伝えじゃったからのう。
じゃが、今は状況が変わってしまった。だからワシはこの村や獣人族達が実在することを人族に発表しようと思っておるのじゃ。
それの手伝いをしてもらいたい」
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