56 モンスターとの決着に、異世界へ
蓮人とモンスターはお互い武器を構えたままずっと睨み合い、既に10分以上が経過している。
(先に集中を切らした方の負けだな)
蓮人はモンスターの大太刀と筋肉の動きに集中しながらそんなことを思っていた。
リーやポチ、獣人族達も固唾を呑んで見守っている。音を立てる人など誰もいない。そのまま10分以上が経過する。
だんだんと太陽も降りてきて周囲がオレンジ色に染まり出している。
そのとき、蓮人達の頭の上を飛んでいる鳥から、一際高いピューイという鳴き声が聞こえた。
その鳴き声が合図になったかのように、蓮人とモンスターは同時に駆け出す。
地面を蹴ったタイミングは同時だった。
しかし、モンスターが1メートルを移動する間に蓮人は疾風の如きスピードで4メートル以上進み、既にモンスターの懐へ潜り込んでいる。
そのまま刀から放たれている白い光がモンスターの胴へと一閃された。
そのまま蓮人は駆け抜けていく。
ワンテンポ遅れてモンスターは大太刀を取り落として地面に膝をついている。対して蓮人は刀を鞘に直してニコリと笑顔を浮かべている。
そしてモンスターに近づいて肩に手を当てた。
「やっぱ、お前強いわ」
そう言って蓮人は地面に倒れて気を失った。
「いてててて」
蓮人は痛む体を無理矢理に起こす。
周りにはリーとポチ、そして正座してこちらを向いているモンスターがいる。
「あれ、俺負けたのか……」
「勝負には勝ったけど戦いには負けたってやつですね」
リーは少し呆れたような、そして怒ったような顔でそう言ってくる。
蓮人はいきなりそんな事を言われても訳が分からないのでリーに尋ねる。
「最後の勝負は蓮人さんがモンスターの胴に刀を入れて勝ちました。でもその後気を失って倒れたのはモンスターじゃなくて蓮人さんなんです! だから勝負には勝ったけど戦いには負けたって言ったんです!」
そう言ってリーは蓮人の頭にチョップをかます。
「……本当に、心配かけないでくださいね」
リーは涙目になりながらそう言ってくる。
蓮人はそんなリーの頭を撫でながら一言謝った。
一段落した後、蓮人は正座したまま待機しているモンスターに向かい合う。
「リーにもああ言われたことだし、引き分けってことでどうだ?」
モンスターはキョトンとした顔をしているがすぐに笑みを浮かべたような気がした。
そして蓮人に向けて頭が地面につくほど下げてから立ち上がり、森の方へ歩き出す。
その後ろ姿を見て、蓮人は思わず声をかけてしまう。
「お前はこれからはモンスターじゃない! ムサシだ! また勝負しようぜ!」
ムサシという名前を蓮人が言った瞬間、白い光が覆った。
そして声をかけられた元モンスター、ムサシはこちらを振り向いた。
「吾輩の名はムサシだ! いつでも尋常に御相手いたす!」
さっきまでは話すことが出来なかったはずのムサシが流暢に話したのだった。
それに驚いて声が出ない間に森の奥へ姿を消していた。
「い、今喋ったよな……?」
蓮人がそばに居るリーとポチに問いかける。
2人とも信じられないという顔をしながら首を縦に振っている。
「俺が名前付けたからか?まあ何にせよ、これでまたいつか戦えるな。今から楽しみだ」
蓮人は嬉しくてたまらないという笑みを浮かべている。
「だからってまた倒れたりしないでくださいね!」
そんな蓮人の様子を見たリーは注意する。
そんなやり取りにポチや他の獣人族も笑って見ているのだった。
そんなこんなで無事にとは言いきれないが1日が終わる。
昨日はポチの家でのパーティーだったが、今日は蓮人達の活躍を祝ってくれることになり、村をあげてのパーティーとなった。
「あー、腹減ったなぁ」
「おいらも腹減った!」
蓮人とポチは2人でお腹を鳴らしながらパーティーが始まるのを待つのだった。
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