54 新たな戦いに、異世界へ
蓮人は雄叫びと共にもう一度走り出す。そんな蓮人を援護するかのようにリーはバブルショットをモンスターの足元に向かって放ち、ポチは持ち前の身体能力を活かして翻弄する。
そうしてモンスターの目前に迫った蓮人は刀を横に一閃した。その攻撃は今までで1番のものである手応えがあった。
しかし、その攻撃は大太刀によって受け止められていた。バブルショットによって地面の状態が良くなく、踏ん張りがあまり効かないにも関わらずだ。
そしてその攻撃はそのまま受け流され、そのまま地面に伏せるように倒されてしまう。
そんな蓮人の頭の上に、太陽の光を鈍く反射し、ギラギラと光っている大太刀が振り上げられている。
蓮人は死を覚悟したのだが、ポチの大太刀の刀身への決死の体当たりによって軌道が逸らされ、蓮人の頭の数センチメートル横に振り下ろされた。かなりの威力だったらしく、刀身の半ばまで地面に埋まっている。
そんな隙を見逃さず、蓮人は手を地面についたまま飛び上がりモンスターの腹にドロップキックを食らわせて吹き飛ばす。
しかし、その勢いはを利用されて大太刀を引き抜かれてしまった
その間に蓮人とポチはモンスターから離れて距離をとる。
「ポチ、大丈夫か?」
「あの大太刀、かなり硬かった」
蓮人を守るための決死の体当たりの際、刀身の峰の部分に頭をぶつけてしまっていたらしい。涙目になっている。
そんなポチの傷をリーは水属性魔法を使って治してやる。
その間、蓮人はモンスターからの攻撃に備えていたのだが、一向に攻撃してくる気配はない。
(何が目的なんだ? 全く読めない)
そんな疑問を感じながら攻撃に備えていると、ポチの治療が終わった瞬間に蓮人に向かって大太刀を構え、疾風の如く駆け込んできた。
それに蓮人は刀を合わせて押し返されないように踏ん張る。
ただひたすらお互いに押し合う。その間にポチは獣化し、音も立てずモンスターの後ろに回り込んで背中に爪の一撃を食らわせる。
しかしその攻撃は鎧に阻まれ、ダメージを与えることが出来なかった。
モンスターはそれに構うことなく、ただひたすら蓮人をねじ伏せようとグイグイ大太刀を押し込む。
一瞬は均衡していた鍔迫り合いだったのが蓮人はどんどん押し込まれていった。とうとう耐えきれずに蓮人は後方へ弾き飛ばされてしまった。
それにモンスターは走ってついていき、大太刀を飛んでいる蓮人に向けて振り下ろそうとする。
リーがそんなことはさせまいと何本もの風の矢を生み出し、蓮人に当たらないようにコントロールしながら発射する。
それに気づいたモンスターは攻撃を中止し後方へ大きくジャンプして避けた。
蓮人は体勢を整えて着地し、追撃を警戒する。だが今回もさっきと同じように、モンスターは追撃することなく悠々と佇んでおり、疲れた様子もない。
それに対し蓮人達はガンズローゼズのボス達と死力を尽くして戦ってきたところなのだ。消耗は激しい。
(このままじゃ時間稼ぎで精一杯だ、どうする?)
蓮人は疲れた頭をフル回転させて策を練る。しかし何も思いつかない。
そんなとき、リーから話しかけられた。
「蓮人さん、もしかしてなんですが、敵は蓮人さんしか狙っていないんじゃないですか?」
(確かにそれは一理あるかもしれない)
今までの攻防は必ず蓮人かモンスターから始まっていた。そしてリーかポチの手助けが入り、一騎打ちの邪魔になると攻撃をやめている。
「なるほど、武士として正々堂々と一騎打ちを所望ってことか」
なぜかその考えは蓮人にとってしっくり当てはまった。
モンスターと戦った獣人族は皆怪我をしているが命に関わる怪我をしている者はいないこともしっくりきた理由なのかもしれない。
そして蓮人は笑い出した。モンスターの武士としての考えを理解したとき、蓮人の血が騒ぎ出したのである。
(こいつと本気で、戦いたい!)
この世界に来てからは生きるため、誰かを救うために刀を振ってきた。しかし、今回は違う。自分の本気で、相手をねじ伏せたいのだ。
体の疲れなど関係ないし気にもならない。アドレナリンが溢れて止まらず、むしろ普段よりも体が軽いくらいだ。
「リー、ポチ、これからは手を出さないでくれ。俺が本気でやる」
リーは蓮人が正気か疑い、止めようとしたのだが、蓮人の表情を見たら止められなかった。おもちゃを貰った子供のような、大好物のご飯を目の前にした子供のような、そんな嬉しそうな顔をしていたから。
はあと1つ溜息をついて
「分かりました。でも絶対負けないでくださいね、待ってますから」
そう言ってポチと一緒に後ろに下がる。
それを確認した蓮人はモンスターの方へ向き直して話しかける。
「待たせて悪かったな。じゃあ始めようか」
蓮人は刀を正眼に構える。それを見たモンスターはどこか嬉しそうに大太刀を構えた。
そして、一騎打ちの戦いが始まる。
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