53 まだ終わらずに、異世界へ
大きな音のした方へ走っている途中、今まで見えていたはずのものが見えなくなっていることに気づいた。
「門が……ない?」
「そうみたいですね。となるとさっきの崩落音って……」
「とりあえず急ごう」
嫌な予感が心の中に渦巻く中、足を走らせる。
そして目的地に着いた蓮人達の見た光景は驚くべきものだった。
蓮人達が門を離れた時はオークが襲って来ていた。しかし、目の前に広がっていたのはオークの無数の死体だったのだ。
「オークが襲って来ていたはずじゃないのか……?」
「私達が見た時はオークだったはずです。ということはもう戦いは終わったってことなんですかね?」
少しホッとしたようにリーは言うが、おそらくそれは間違いだろう。この場に獣人族がいないことからそれは分かる。
(この森に来る前にも、やけにオークが多かった。そしてこの村にも押し寄せてきた。これはオークが大量発生しているのではなく、オークがより強いモンスターから逃げ出していたとしたら……)
道中や今までの事を思い出してその可能性を思いつく。
「いや、オークより強いモンスターが襲って来ているのかもしれない。気を抜いちゃダメだ」
「やっぱりそうなんですかね……」
リーは1度ため息をついてから気を引き締め直す。ポチはクンクンと周囲の匂いを嗅いでいる。
「蓮人! あっちの方からタロの匂いがする!」
ポチは門があった瓦礫より奥、森の中を指差し、その方向へ走り出す。その後を蓮人とリーは追いかける。
森の中をポチが言う方へ走っていくと、すぐに金属が擦れる音と獣人族の雄叫びが聞こえてきたのだった。
(やっぱりまだ戦いの途中か……。敵はなんなんだ?)
そして開けた場所が見えてくると、そこにはタロ達武器を構えた獣人族と、大太刀を持つ体長3メートル程もある、見た目は戦国時代の武士のようなモンスターが一体いた。
獣人族はそのモンスターを囲んでいるのだが、皆息をきらせ、大なり小なり怪我をしているようだ。それに対しモンスターは隙なく構え、まだまだ余力を残しているように見える。
「リー、あのモンスター何か分かるか?」
「オーガに似ているような。でも、違います。あんなの本でも読んだこともありません……」
リーのその言葉に蓮人とポチは驚くが、今はそんな時間も惜しい。
3人はすぐに気持ちを切り替えて武器を構え、そしてそのモンスターに近づいていく。
「タロ、大丈夫か!」
「蓮人か。大丈夫とは言い難いな。こいつ、かなり強いぞ」
蓮人の声に反応し、モンスターから目を離さず返事をしてくる。
確かに、獣人族が剣や槍などを持って束になって戦っているのにも関わらずモンスターが怪我をしている様子はない。それだけ力量の差があるようだ。1対1では勝負にならない可能性だってあっただろう。
(もしかして、タロが昨日やられていた相手ってこいつのことか? いや、でもそれなら反応しているだろうし……。とりあえずこいつを倒すのが先か)
「タロ達は下がって休憩してくれ。当分は俺たちが持ちこたえる!」
そう言って蓮人はそのモンスターに向かって駆けていく。そして目の前でジャンプして飛び上がり、落下の勢いも借りて大上段からの一撃を食らわせる。
その一撃は斬り上げられた大太刀と均衡したように思われた。しかしそれは一瞬の話でそのまま蓮人は押し返され吹き飛ばされる。
そのまま空中で1回転して体勢を整えて着地する。
「大丈夫ですか?」
リーがこちらに杖を構えながら寄ってきて追撃に備えているが、追撃してくる様子はない。ただひたすらこちらを見ている。
「ああ、大丈夫だ。リー、援護頼むぞ」
そしてもう一度刀を構えて走り出す。それに合わせるようにリーは風の矢を生み出し、モンスターに向かって発射する。その風の矢は腕や足、顔など様々な部位を狙って放たれていたのだが、その全てが大太刀によって斬り割かれてしまった。
だが、その間に蓮人は懐に潜り込むことに成功、突きを放つ。しかし、無属性魔法を発動していない蓮人の力だけでは鎧に傷をつけるのが精一杯だった。
そんな蓮人に向けて大太刀が横に振られたのだが、既に蓮人は後ろに下がっていて当たらない。
そしてモンスターが蓮人に気を取られているあいだに、音も立てずそっとポチが後ろに回り込んでいた。そのまま鎧の隙間の皮膚の部分をナイフで切り裂く。しかし、皮膚がかなり強靭でうっすらと赤い線が入っただけだった。
攻撃が通らないと判断するやいなやポチは後ろに下がり、大太刀の攻撃範囲外に逃げる。
「並の武器じゃ傷もほとんど入らないか。俺の無属性魔法しかないみたいだな……。
もってくれよ、俺の体!」
そう言ってボロボロな体に鞭を打ち、無属性魔法を発動させた。
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