45 2人並んで、異世界へ
話は尽きないのだが、ポチがシロの膝の上で船を漕ぎ出したので、お話の会はお開きとなった。その日はポチ家でお世話になることになり、シロに客間に案内してもらったのだが、そこには2組の布団が並んでいるのだった。
ガサラの宿では全てベッドであったので、アルフェウムに来てから初めての布団である。日本人としては非常に嬉しいことなのだが、1つ問題がある。
それは、2組のベッドがピッタリ隙間なくくっついて敷かれていることだ。
「え、2組?」
驚いて変な声が出てしまった。
「あら、2人同じ布団が良かったかしら? 敷き直す?」
シロさんは何か勘違いしてしまっているようだ。
「さすがに、年頃の男女がこんなピッタリってまずくはないですか……?」
シロは蓮人の言葉を聞いて自分の勘違いに気づいて驚き、謝ってきた。
「あらそれはごめんなさいね、あまりに2人が仲がいいもんだからすっかり夫婦なんだと勘違いしてたみたいだわ。
でも客間がこの部屋しかないの。どうしましょうか」
シロは少し困ったような顔で悩んでいる。
泊めてもらう分際で別の部屋にしてくれなんて贅沢は言えない。それにリーのような美少女と1つ屋根の下で布団に入るなんて、本当は喜ばしいことなのだから。
「あの、そういうことなら同じ部屋で俺は大丈夫ですよ。リーは?」
「は、はい。私も大丈夫です……」
リーは顔を真っ赤にしてどもりながらもそう答えた。
「じゃあそういうことでお願いします。じゃあごゆっくりね」
シロは部屋から出ていく間際、蓮人にだけ見えるようにガッツポーズをしていった。蓮人も年頃の男なのでシロが何を言いたいのかは理解出来るのだが、そんな度胸は蓮人にはもちろんない。
「も、もう夜も遅いし寝ようか……」
そんなことのせいで蓮人まで変に意識してしまう。
「そ、そうですね……」
蓮人はピッタリ隙間なく敷かれている布団をさりげなく少しズラして間を開けて布団に入る。
お互い布団に入っても口が開かれるわけでもなく沈黙が続く。
(落ち着け、俺。こんなの野営のときにリーと同じテントで寝ているのと変わらないんだ。シロさんに惑わされるな、俺)
必死に心を落ち着ける。
そんなとき、リーが口を開いた。
「蓮人さん、もう寝ちゃいましたか?」
「は、はい。起きてますよ」
声が裏返ってしまった。そんな蓮人の反応がおかしかったのか、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
「蓮人さん緊張し過ぎですよ。普段野営のとき同じテントで寝てたりするじゃないですか。確かにシロさんの……ふ、夫婦という言葉には照れちゃいましたけど……」
尻すぼみに小さくなる声のため後半は蓮人に聞こえることはなかったのだが。
そんなリーの様子を見て緊張しているのもバカらしくなった蓮人は普通に会話をすることにする。
「確かに野営のときと変わんないもんな。今はポチはいないことくらいか……」
「そう、ですね……」
そこであることに気づいた。
「ポチは、もうこれからいないんだよな……。また2人パーティーに戻っちゃうな……」
「寂しくなりますね。ポチちゃんはマスコットみたいで見てて癒されますし」
雰囲気がしんみりしてしまった。
ポチと出会ってまだほとんど時間が経っていないが、2人にとってはもう大事な仲間なのだ。パーティーから抜けてしまうとなると寂しくなる。
「でもポチにとってそれが1番いいんだよ。巣立ちってやつだ。まあ巣立って親の元に帰るっていう訳分からん状況だけどな」
リーはふふっと笑ってそうですねと答えた。
「それに一生の別れって訳でもないですしね。いつでも会いに来れますもんね」
「その通りだな。住む場所が変わったって俺たちが仲間だってのはどうやったって変わんないもんな」
蓮人はそう言って顔をリーの方を向けたのだが、リーも同じように蓮人の方を向いていた。そのため不意に2人の目が合うことになった。数秒見つめ合ったあと、2人とも急に照れて天井を向いた。
「そ、そろそろ寝ようか」
「そ、そうですね。明日も朝早いでしょうしね」
そして2人の甘酸っぱい時間は終わるのだった。
もちろん蓮人は眠れるわけもなく悶々とした時間が続くのだった。
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