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勇気をもって、異世界へ  作者: レイン
34/170

34 リーの過去に、異世界へ

 誰も蓮人が苛まれている罪悪感と手の感触のことには気づかずに、夜が更けていく。


「今日はもう夜も深けてきたし、早いところ休むことにしようぜ」


 蓮人が話の弾んでいる他の3人を止めて休むことにして、蓮人が不寝番を受け持つことになった。


 (どうせ手にはあの斬った感触が残っていて眠ることが出来ないだろうしな)


 そして皆が眠りに入る。ポチとシルフィーはすぐに寝息をたてはじめた。

だが、リーは1度横になったにも関わらず、すぐに起き出して蓮人の横に腰を下ろした。


「どうしたんだ? 寝ないのか?」


「ええ、しばらく眠れそうにないので」


 リーもどこか疲れた顔をしている。

お互い口を開くことも無く、夜ご飯を作るために焚いた火をずっと眺めている。パチパチと火が弾ける音とポチとシルフィーの寝息だけが2人の間に流れていた。

 沈黙を破るようにリーが口を開いた。


「私は今日、初めて人を殺しました。

 その人はいわゆる盗賊で悪い人で、殺さなければ私だけじゃなく仲間まで殺されるところでした。

 なので間違ったことをした覚えはありませんし、罪悪感もないです。

 やっぱり私は冷たい人間なんでしょうか」


 無表情で目を合わせることなく淡々と問いかけてくる。

その問いかけに蓮人は答えることは出来ず、沈黙を返す。

 また、リーが口を開いた。


「蓮人さんは優しすぎるのです。ガンズローゼズはもう全力で私達を殺しに来るでしょう。そうなると、私くらい冷たい人間にならないと生き残れませんよ」


どこか悲しそうな、そして達観したような顔で言う。

蓮人にはそれがやけに悲しく感じられ、同時に憤りも覚えた。

リーの言葉にではない。そんな言葉を言わせた蓮人に対してだ。


「そんなことないさ、リーは温かい人間だよ」


 その場しのぎにしかならない言葉を言う。

そしてお互いの間にはまた沈黙が流れる。


「私は故郷を盗賊に襲われ、両親や友人は皆殺されました」


 リーからそんな予想外の言葉が発せられ、蓮人は驚いて声が出ない。リーは話を続ける。


「家族が殺され、次は私の番だってなったとき、ある冒険者の方が助けてくれたのです。その冒険者の方はとても強く、盗賊は逃げ出していきました。

 そこで私だけはなんとか生き残ることが出来ました。でも、逆に言えば私以外は皆殺されてしまい、助けることが出来ませんでした。

 そして、私は誓ったんです。絶対に復讐するって。裕福な家庭では無かったですが、毎日家族3人で楽しく暮らして、友人と遊んでいたあの大切な時間を奪っていった盗賊達が憎いです。

 そして今日殺した人がその盗賊だったのかもしれないと思うと、当然の報いだと清々しますし、間違っても罪悪感なんて覚えません」


 それで話が終わる。リーは昔を思い出して悲しい顔を浮かべていた。

 蓮人はリーの肩をそっと抱き寄せて頭を撫でてやる。そして今度は蓮人が口を開く。


「俺にそんな過去があったなら、俺でもリーみたいになってると思う。いや、もっと酷くて盗賊狩りなんてしてただろう。それで早死してたと思う。

 でも、リーは違う。わざわざ俺のことを心配して、思い出したくもない過去を話してくれて。

 全然冷たくなんかない。仲間想いの温かくて優しい人だよ」


 リーは蓮人の胸に顔をうずめて声をあげないようにそっと泣いた。

蓮人は背中をさすって落ち着くのを待ちながら話し始める。


「俺の故郷は平和なところでさ、殺人なんてめったに起こらなかった。

 俺はその故郷での価値観や考え方をそのままこっちに持ってきてしまった。でも、それじゃダメだったんだな。

 本当に守りたいもののためなら全力で戦わなくちゃいけない。それがこの世界のルール。

 そして、俺はリーやポチを守ってやりたい。だからこれからはもっと全力で戦うよ。

 それを教えてくれてありがとう、リー」


 そして夜はもっと更けていく。








 「私が魔法の適正検査もせずに剣を使っていたのは、助けてもらった冒険者さんに憧れてだったんです」


 いきなりのカミングアウトだ。そしていつも通り顔が赤くなって恥ずかしがっている。少し安心した蓮人である。


「でも、蓮人さんに初めて助けてもらったとき、あのときの冒険者さんと蓮人さんの姿が被って見えたのです。それから何故か剣への拘りが無くなったんですよね。それに一緒に冒険したいって思ったんです。

 蓮人さんに守ってもらえると安心したからなのでしょうか?」


 リーも理由が分からなそうだが、さらっと照れることを言ってくる。


「ああ、絶対守ってやるよ」


 照れた顔を見られないようにそっぽを向きながらそう告げる。


「ええ、お願いします。でも、蓮人さんの背中は私に任せてくださいね!」


 そう言って笑顔が蓮人に向けられた。

 その笑顔にやられて、もう心の中で更にもう一度誓って、微笑んで頷きを返すのだった。

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