33 蓮人の本気に、異世界へ
第二ラウンドが開始した蓮人の戦いは、まだまだ続いていた。
蓮人が踏み込んで刀を横に一閃する。敵はそれを上にジャンプして避けてそのまま蓮人の後ろに回り込みそのまま剣を振り下ろす。それに蓮人はいち早く反応し刀で受け、そのまま力で押し返す。敵はその力の流れに逆らわず後ろに大きく飛んで距離を取る。
(こいつ、マジで強い……)
無属性魔法を全開で発動しているにも関わらず、敵は互角に渡り合ってくる。
いや、無属性魔法のおかげで対等に戦えているだけで剣技ではおそらく負けているだろう。
(さあ、どうする?)
蓮人は勝つ方法を模索する。
考えながらもお互い隙を見せず睨み合っている。
(俺には何が出来る?考えろ)
そのとき、リーと2人で魔法を試しに出かけたことを思い出した。あのときはファイアボールをゴブリンに撃ったため、討伐証明部位まで燃やし尽くしてしまった。そんなことがあったので蓮人は火属性魔法を使うことはそれ以降無かった。
だが、今は状況が違う。敵は蓮人を本気で殺しにかかっているのだ。こちらも本気でやらねば殺される。
(よし、やってやる!)
蓮人は敵の様子を見ながら魔力を練っていつでもファイアボールを放てるように準備をする。
「ウワォォォォォ」
そして、ポチがいる方向からオオカミの遠吠えのようなものが聞こえ、敵はそれに一瞬意識が取られた。
蓮人はその隙を見逃したりはしない。
「ファイアボール!」
前に突き出した左手から直径20センチメートル程の火球が放たれた。
敵もバカではない。
「甘い!」
信じられないことに、迫りくる火球を真っ二つに剣で斬ったのである。
真っ二つに分かれたその間からにやけている敵の顔が見えた。
「お前器用だな、刀で俺と斬りあえて更に火属性魔法まで使えんだもんな。なかなかの威力だったぜ?」
「化物かよ……」
「そりゃ誉め言葉だぜ?」
そう言って男はバカでかい声で笑っている。蓮人は頼みの綱だった火属性魔法も効かなかったことによってまた振出しに戻った。しかし、他にやれることはない。もう一度魔力を練る。
そして次に生み出された火球は先程のものとは比べ物にならないほどの魔力の密度で、大きさも直径60センチメートルを超える。
「これも斬れるもんなら斬ってみやがれ……!」
そう言って火球が真っ直ぐに発射された。そして敵の視界が赤で染まったタイミングで蓮人は居合の構えを取る。狙いは敵がファイアボールを斬ったその瞬間だ。
「たかがデカくなったところでなんともねえよ」
そうやって敵は気合と共に剣を大上段から振り下ろし、またも火球は真っ二つに斬られる。
だが、首をさらけ出した無防備な瞬間が生まれた。蓮人はその瞬間を見逃すことはなく、既に踏み込んでいる。
刀が太陽光を反射して一瞬だけ光った。
次の瞬間には蓮人が刀をカチャンと音を立てて納刀する。その音と同時に、男は首と体が2つに分かれ、そのまま地面に倒れこむ。
そして、蓮人もそのまま崩れこむ。
「起きてください! ねえってば!」
そう言って蓮人は体が揺さぶられていたのに気が付いて体を起こす。
「あ、やっと起きました! 死んでなくて良かったです!」
起こしてくれていたのはシルフィーだったようだ。蓮人の周りにはスースーと寝息を立てているリーと、「もう食べられないよ」と王道の寝言を言っているポチが居た。おそらく、シルフィーが全員の戦いが終わって1か所に集めてくれたようだ。
「シルフィーが集めてくれたのか、ありがとう。他2人も無事みたいでよかった……」
そう言って蓮人はリーとポチの頭を優しく撫でてやる。心なしか2人とも笑ってくれたような気がする。
しばらく経って、2人とも目を覚ました。リーは蓮人に頭を撫でられていることに顔を真っ赤にして目を覚まし、そして蓮人が無事なことに喜んだ。ポチはもっと撫でろと頭を突き出し、自分がオオカミになったんだと興奮して話しているが蓮人には何のことかサッパリわからず夢の話だと思ってスルーする。
そんな頃にはもう日が暮れてしまってガサラに帰っても門が閉められている時間になっていた。
「妖精族の掟で人族を村に入れることは出来ないのですが、ここから少し行ったところに安全な洞窟があるのでそこに案内します!」
そんな申し出がシルフィーからあったのでありがたく連れて行ってもらう。その行きしなにオークを見つけたので、討伐して今日の夜ご飯になるのだった。シルフィーも食べられる木の実を色々用意してくれたので、その日の夜ご飯はなかなか豪華なものになるのだった。
しかし、日本での暮らしがまだ根本に残っている蓮人はやはり人を殺してしまった罪悪感に苛まれ楽しむことは出来なかった。
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