31 本気になって、異世界へ
蓮人は防戦一方になりながらも、上手く相手の剣を捌き、まだ一撃も食らっていない。だが、相手の剣が1回1回振り下ろされる度に重く、速くなっていく。
そしてとうとう耐え切れず、斬り上げられた剣に蓮人は刀を弾かれ大きく体勢を崩してしまう。だが、なんとか持ち堪え、振り下ろされる剣を後ろに大きくジャンプすることでかわすことが出来た。
しかし、そのまましゃがみこんでしまう。
蓮人は今までの攻防で息がきれ、もう既に肩で息をしているのに対し、相手はまだ全然余裕という風に剣をブラブラさせて頭をかいている。
「うーん、もう飽きたなぁ。そろそろ殺されてくれや。他の2人もさっさと殺してやらねえといけねえしよ」
ゆっくりと歩いてしゃがみ込んでいる蓮人に近づき、目の前で剣を振り上げる。剣の鈍い光が蓮人の頭の上に迫ってきているが、動くことが出来ない。足が動かず立ち上がれないのだ。
(俺はこれで死ぬのか……?)
蓮人の頭にはアルフェウムに来てからの思い出が走馬灯のように流れていた。
リーを助けるためにこの世界にやって来たこと。そして仲間になって、一緒に冒険してきたこと。レノやギルドマスター達といった仲良くなった人達、そして新たに仲間になったポチのこと。
まだまだ日数がほとんど無くて短い思い出だが、何よりも濃くて大事な思い出だ。
しかし、
「じゃあ死ね」
その言葉と共に剣が蓮人の首に向かって振り下ろされる。
(こんな所で終わるなんて、嫌だ!)
蓮人は気力を振り絞って刀を持ち上げて剣を受け止めた。
「ほう!」
男は剣が止められるだなんて思ってもいなかったのだろう。心底驚いている。しかし、驚いている理由はこれだけではない。
なぜなら、また蓮人の体が白く光っているからだ。
「なんで光ってやがんだ? まあいい、これでまた楽しめそうじゃねえか」
そう言って男は構える。先程までの余裕は消え去り、全力で蓮人を殺しにかかろうとしている。
蓮人も刀を構え、それを全力で迎え撃つ。
そして第二ラウンドが始まる。
「お前は絶対許さない」
その一言でポチの力はぐんと跳ね上がり、小柄な男は圧倒され始めていた。ポチの攻撃で致命傷を負わないようにするので精一杯で、体には無数の切り傷があり服もビリビリに破けている。
そしてナイフに気が向いている間に、ポチは全力の蹴りを敵の鳩尾に叩き込む。
敵はその勢いのまま吹っ飛び太い木の幹にぶつかった事で止まる。口から血を吐き出していた。
「キャハハハハハハ。お前絶対殺す」
そう言って腰のポーチから紫色の気味の悪い液体が入った官を取り出して中身を飲み干した。
その瞬間、ビクンと体が跳ねた。そして全身の筋肉が膨張を始める。
その反応が終わった時、全身の傷は癒えており、ポチと同じくらい小柄だったはずの体は今や180センチメートルに到達しており、筋肉もパンパンに膨れ上がったことで服も破れている。
そして白目を向いて涎をダラダラと垂らしている。どう見ても自我は無さそうだ。
「グガガガアアアアアア」
そうデカく野太い声で叫ぶと、地面を蹴ってポチに迫り来る。
先程よりもかなり大きい体になったにも関わらず、より素早くなっている。
いきなり速くなったことでポチの反応が遅れてしまい、真正面からストレートパンチを顔面に食らってしまう。殴られる直前で自分から少し後方へバックステップを踏んだことで勢いを減らしたのにも関わらず、今度はポチが弾き飛ばされ木に激突する。
とんでもない重さのパンチで、威力を減らした一撃ですら立ち上がることが出来なくなる。
しかし、気力でフラフラしながらも立ち上がる。
「グギャアア」
ダラダラと涎を垂らしながらポチに近づいてくる。だが、ポチはフラフラで離れるには足元が覚束ない。
(うう、おいらこのまま殺されるのか……)
目も霞んできて焦点が合わなくなってきた。
(悔しい、くそ、くそ……)
涙が溢れてくる。もっと力があれば負けることもないし、蓮人達を危険にさらすことは無かったのに。
そんな後悔の念でいっぱいになる。
そんなとき
(力が欲しいか?)
そんな声がポチの頭に響く。とうとう幻聴かとポチは無視してゆっくりと近づいてくる敵を見ていたら、もう一度尋ねられた。
その問いに肯定を返す。
(では、新たな強さを願うのだ)
そんな言葉が響いた。
(欲しい、負けない力が。欲しい、皆を守れる力が。欲しい、新たな強さが!)
そう願った瞬間、願いは聞き届けられたと声が聞こえた気がした。
そして、ポチの体が眩い光を放ち出した。
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