25 ポチの正体を知るために、異世界へ
3人は倒したオークのことなど忘れて、現在の状況について考える。いや、考えることも出来ておらず、状況を飲み込もうとしているところだ。
ポチは覚悟を決めた様子でナイフを捨ててその場にしゃがみ込む。
「さあ、早くおいらを捕まえろよ」
もう生きることを諦めたような様子だ。
そんな様子に意味が分からずきょとんとする2人。
「えっと、捕まえてどうすんの?」
蓮人はポチにそう尋ねる。
「おいらは高く売れるって聞いたぞ。だからこのローブを着てずっと隠れて逃げてきたんだ」
そこではっとした顔でリーは声を上げる。
「ま、まさか…… ポチちゃんって獣人族なのですか?」
「おいらは何も覚えちゃないが、そうみたいだぞ」
「本当に存在していたなんて……」
リーはビックリして腰を抜かしそうだ。
しかし、蓮人は獣人族なんて言われてもしっくりこないし、なんなら異世界なんだからケモノミミの獣人族なんて居て当たり前だなんて思っている。ちなみにゲームの知識である。
「あの、何が凄いんだ?」
リーに尋ねてみる。
「蓮人さんは知らないですよね。
獣人族は伝説に伝わる部族なのです」
はるか昔、アルフェウムが創造される頃にまで話は遡る。
神の世界から女神様が世界を生み出すために、今のアルフェウムがある場所にやってきた。
そこで女神様は幾日も休むことなく願いを捧げる。そして手を振りかざすことで、今のアルフェウムが創造された。
しかし、その世界は今とは違って生物が存在しておらず、ただ自然があるだけの世界だった。
そこで何か物足りないと感じた女神様はある生物を生み出した。
それが人族である。
生み出された人族は恐るべきスピードで発展していき、様々な地方で村が生まれ、いくつもの国が作られていく。
そして争いが生まれた。
人の性と言うべきしかないのか分からないが、いつの時代でも隣の芝生は青く、それぞれが相手の物を羨み、そして奪うべく戦争が始まった。
それを神の世界から見守っていた女神様は残念に思い、モンスターを作り出した。
モンスターの脅威にはそんな戦争をしているべきではない。
国同士手を取り合って協力して生きて欲しいという女神様の願いの元に、モンスターが作り出されたのである。
女神様の願い通り、争いあっていた国は協力してモンスターを討伐するようになり、争いは無くなって平和になったと思われた。
しかし、その平和は続かない。
生み出されたモンスターが強く凶暴過ぎたのである。それも人類を軽々と滅ぼせるほどに。
そこでまた女神様は救いの手を差し伸べる。
そのときに作り出されたのが、獣人族、竜人族、魚人族であり、現在伝説として言い伝えられている『神人族』である、
獣人族は陸の、竜人族は空の、魚人族は海の平和を守ることを女神様に命じられ、その凶暴なモンスター達を討伐した。
そしてアルフェウムには平和が生まれ、今この世界に繋がる。
それ以後、『神人族』はこの世界、アルフェウムでまた生まれる脅威のためにひっそりと暮らしている。
「こんな言い伝えがあるのです」
話し終えたリーは一息つく。
「とりあえず、ポチはその獣人族とやらで本当に存在していると思われていなかったってことだよな?」
リーの熱心な解説を台無しにするようなそんな言葉を言う。
「う…… まあ、はい、そういうことです」
今回の要点は抑えられているだけにリーは文句を言えない。
「なるほどな、確かに伝説として言い伝えられている『獣人族』が実際に存在しているなら、そりゃあ高く売れるだろうなぁ……」
そんな蓮人の何気ない言葉に、ポチの顔がまたピクリと反応する。そんな言葉にはかなり敏感なようだ。
この話を聞けば、ポチが何故頑なにローブを脱ぐことを拒んだのかがよく分かった。今までにケモノミミがあることをバレたことがあるのだろう。そしてどんな目にあったのか、どう生きてきたのか……。
(ここで俺達がそんな真似しちゃポチが壊れてしまう。もうポチは立派な俺達の仲間だ!)
「大丈夫だ、ポチ」
死を覚悟して諦めた顔をしていたポチは、その言葉に顔を上げる。
「俺達はそんな真似はしない。確かに獣人族ってことは初めて聞いたし驚いたけど、それでお前を売ったり殺したりなんてことはしないし、誰にもさせない。
だって、俺達はもうパーティーで、仲間なんだから」
蓮人とリーは優しい笑みを浮かべてポチに近づき、優しく背中を撫でてやる。
そこでポチは声を上げて大泣きしてしまった。
今まで、余程辛い思いをしてきたのだろう。その分今は気が済むまで泣けばいい。
だって、今は蓮人とリーが居るのだから。
ポチはもう1人ではない。
読んで頂きありがとうございます!
2日前からカクヨムでもこの作品を投稿させて頂いてます。内容は同じですがそちらも是非お願いします!