18 パーティーの結成に、異世界へ
ギルドマスターの教育という名のお仕置きを何とか生き残った蓮人は2階のテラスで1人、痛む体を擦りながらボーッと外の景色を眺めて夜風に吹かれていた。
(こんなに濃い日を過ごしてるけど、まだこっちに来て5日目なんだよな)
リーと出会い、ゴブリンから助けたことなどを思いだす。
(そういやリーとも仲間になったんだよな)
今覚えばあんなたくさんの人がいる場所で、俺の仲間になってくれなんて恥ずかしいセリフを大きい声で言ったのである。今思い返すとどこかむず痒い感じがするのだった。
(そうだ、無事に帰ってこられたんだから、リーをパーティーに誘わないとな)
どんな反応をするのか想像して楽しみな蓮人である。
「蓮人さん、起きてください」
優さしい声が聞こえて蓮人の体が揺すられる。
どうやら寝てしまっていたようだ。
「ここは……」
寝ぼけながら体を起こし、目をこする。
「何寝ぼけてるんですか、もう打ち上げ終わっちゃいましたよ!」
顔を上げるとそこにはリーの顔が超至近距離にあった。2人の目が合い、そのままお互い固まる。そして距離の近さに気付いて顔を真っ赤にしながら2人は離れる。
照れてどちらも口を開くことなく沈黙が続く。
「「あの!」」
2人の声が被る。それにまた照れる。
「リーからどうぞ!」
「いえ、蓮人さんこそ!」
そんな問答が始まる。
押し付けあっているだけだが、2人とも楽しそうだ。
「じゃあ、同時に言おう。それでどうだ?」
「それいいですね! のりました!」
2人は頷きあって、小さくせーのとタイミングを合わせる。
「「一緒にパーティーを組んでくれ!(ください!)」」
またお互いの声が揃ったことにビックリして顔を見合わせる。
今度は照れるのではなく、そのまま2人とも声を上げて笑うのだった。
「ああ、勿論だよ」
「こちらこそお願いします!」
そしてまた2人は目を合わせて笑い合うのだった。
少し経った後、
「パーティー名ってどうしましょうか?」
リーが蓮人に尋ねる。
「そうだなぁ。ホワイトストライプスとかどうだ?」
蓮人が日本にいた頃、好きだった洋楽のバンドの名前を挙げる。
「なんかかっこいいですね。意味とかあるんですか?」
「えーと、確か、白と黒のボーダーのことでどんな色にも勝る色である的な感じだったはずだ」
うろ覚えなバンド名の由来を思い出してなんとなくで答える。
「おお、かっこいいです! それにしましょう!」
リーは、蓮人が適当に思いついて言った名前を気に入ったようである。
「じゃあそれにするか!」
こうして蓮人とリーのパーティーはホワイトストライプスとなったのだった。
「そういえば、オットさんが蓮人さんのことを探していましたよ。伝えるのをすっかり忘れてました」
蓮人とリーはパーティー名が決まった後も何故か下に降りる気がせず、2人テラスで星を眺めているのだったのだが、そのことを思い出して蓮人に伝えた。
「なんの用なんだろう」
折角の2人きりのロマンチックな雰囲気に若干後ろ髪を引かれながらも、現実に戻ってくる蓮人。
面倒くさいので放っておこうなどと悪い考えをしている。
「なんでも、蓮人さんの体が白く光るのは何なんだって言ってましたよ」
「そんなのただの無属性魔法だろ、オットも剣を装備していたんだし、それくらい分かるだろ」
そんな当たり前のことのせいでリーとのロマンチックな時間を邪魔された蓮人はご立腹である。
「オットさんが言うには、普通光らないらしいですよ」
蓮人は固まる。
「え?」
「だから、普通は光らないみたいです。ギルドマスターやリアムさん達も光っていませんでしたし」
「え、じゃあ俺の光るのって何なんだ?」
「それをオットさんが聞きたいそうですよ」
蓮人は難しい顔をして考え始める。
(無属性魔法じゃないとなると、女神様がくれた能力ってのはこの光ることってことか? 確かに光ると力とかもかなり強くなるし、そういうことなのか。でもじゃあこれってどういうときに発動するんだろう。わかんないことだらけだな)
「やっぱり、女神様に頂いた力なんですかね?」
リーは考え込んでいる蓮人の顔を覗き込みながらそう話しかけてくる。
はっきりとはしないが、おそらくそうだと答える。
「女神様に頂いた力であるならば、あまり人には言いふらさない方がいいかもしれませんね」
リーは難しい顔をしながらそう言う。
「なんでだ?」
「この街、ガサラは大丈夫なのですが、このアルフェウムには女神様を邪神とする宗教もあるのです。なので女神様の力を頂いたとなると、命を狙われる危険性があるからですね」
「まじかよ……」
少しショックを受けた蓮人はまたも考え出す。
「じゃあ、女神様にこの世界に転移させてもらったことも黙っておくべきだな」
「それがいいかもしれませんね」
2人は話し合い、蓮人は田舎の村から冒険者になるためにガサラにやって来たという設定に落ち着くのだった。
「おーい、連絡もなしに何日も学校休んでどうしたんだよ」
とある少年が、小さなボロアパートのドアを何度もノックしながらそう叫んでいた。
隣の部屋の住人からうるさいと言われ、仕方なしにその場を後にする。
「蓮人、いったいどこに行っちまったんだよ……」
後にした部屋のドアには『高橋』と書かれた札がかかっていたのだった。
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