168 デートの約束をして、異世界へ
「なあ、リー。ちょっといいか?」
「は、はいっ。何でしょうか……?」
リーはソワソワして手ぐしで髪をずっとといている。
「えーっと……今日はいい天気だなぁ」
部屋の窓から見える外はもう真っ暗でいい天気なのかよく分からないが口から出てくるのはそんな言葉だった。
(ああ! 何をしてるんだ俺のこの口は!)
何度も覚悟を決めているのだが言えそうにない自分の口を責め立てる。
そんな中、リーは髪をとくのをやめて窓の外の星に目をやっていた。
「……本当ですね、雲ひとつなくて星が良く見えてますね」
そう言って部屋にあるベランダへと出ていってしまった。
「ふーっ、今度こそ絶対だぞ……!頑張れよ俺の口!」
リーに聞こえない大きさの声で宣言し、自分に言い聞かせ、そして蓮人もリーの後に続いてベランダへと出て行く。
ベランダではリーが手すりに両肘を置いて空を見上げていた。
蓮人はその横へと並んで手すりにもたれ掛かり、空を見上げた。
「確かに雲ひとつなくて星が綺麗だなぁ」
空一面に満天の星空が広がっていた。日本の山奥の冬空のようだ。いや、それ以上に星が空を覆い尽くしている。
「ええ、今日は特に星が綺麗ですよ、星座もハッキリと見えますし。しかもお月様も真ん丸です」
やはり異世界というだけあって蓮人にとって見覚えのある星座はひとつもないため分からないのだが、満月は日本と一緒でよく分かる。
「ああ、綺麗な満月だ。眩しいくらいだな」
そう言いながら視線をリーの方へ向ける。
その瞬間、蓮人は息を呑んだ。
空と同じようにキラキラと星が輝いている目。
それに覆い被さるような長いまつ毛。
真っ白な肌なのだが少しだけ赤く染まっている頬。
白い肌をより際立たせるような紅い唇。
その全てに目を奪われたのだ。言葉が何も出てこず、目を離すことも出来ない。
「…………そんなに見られたら恥ずかしいです」
そんな蓮人の様子に気がついたのか真っ白な肌全てを真っ赤にして顔を伏せた。その上で蓮人の様子を上目遣いで伺ってくる。
(……ダメだ、こんなの、可愛すぎる……)
蓮人も頬を赤らめながらも必死に視線をリーから外して空を見上げる。
胸のドキドキが止まらなかった。
火照っている顔を通り抜ける夜風が冷やしていく。
そうして2人とも口を開くことなく夜空を見上げるという心地よい時間がどれほど経ったのだろうか。
言葉というものは言おう言おうとするとなかなか出てくることがなく、何も考えずにいるとすっと出てくるものだ。
「リー、この収穫祭って明日もやってるみたいだし、2人で回らないか?」
あれだけ難産だった言葉が簡単に出てきた。
それを聞いたリーの頬がまた赤らんでいるのだが、緩んでもいた。
「……はい! 明日楽しみですね!」
リーが蓮人の方へ可愛い笑みを向けた。そしてその笑みにまたも目を奪われる。
「もう! 恥ずかしいのでそんなに見ないでくださいよ!」
頬を膨らませて言うと部屋へと戻っていくのだが、
「……約束覚えててくれてありがとうございますね。楽しみです」
リーがボソッとそう呟いたのを蓮人は聞き逃さなかった。もちろん後ろ姿だが耳が真っ赤になっているのも見逃さない。
(リーも楽しみにしてくれてたんだ、良かった良かった)
蓮人は胸をなでおろしながら、明日への緊張感とワクワク感を込めてもう一度空を見上げるのだった。
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