167 覚悟を決めて、異世界へ
「おいしー!」
ポチは匂いに釣られてやって来た屋台で買ったスープを飲んでいる。
「やっぱり旬で取れるトミートを使ったトミートスープは美味しいですね! 具材にも味がよく染みてますよ!」
ジュシュも美味しそうにスープを飲み、ゴロゴロの野菜やお肉をほおばっており幸せそうだ。
蓮人もそれにならって一口スープを口へと運ぶ。
「……うん、トマトスープだ」
蓮人は誰にも聞こえないほどの声の大きさで呟いた。
液体の色も真っ赤で味もほのかな酸っぱさと甘さが共存しており、日本に居た頃に飲んだことのあるものと比べるまでもなくトマトスープだ。ただ日本のものよりもはるかに濃厚で蓮人の舌を楽しませる。
「うまいな」
「良かったです! お口に合わなかったのかと思いましたよ」
飲んでも反応がなかった蓮人を心配そうに見ていたジュシュがそう言う。
「いやー、どこか懐かしい味がして昔のことを思い出してたんだよ」
「なるほど、そうだったんですね。そう言えば私蓮人さんの昔の話って聞いたことないです。蓮人さんってどこ出身なんですか?」
「あー……ここからかなり遠くて名前もない村だな」
(そういや、ジリーとジュシュには俺が異世界から来たってことはまだ言ってなかったんだっけ。2人は信用出来るし、またの機会に話してみるか)
そう考えている間の無言の間にジリーとジュシュは触れてはいけないことだと判断したのかすぐに話題を変えてきた。
「あ! あっちの屋台にも美味しそうなものがありますよ! ポチちゃんあっちに行ってみましょう!」
ジュシュがポチの手を握りジリーと2人で走っていき、蓮人とリーの2人が取り残された。
(これは、今がチャンスなのでは……!)
折角2人になったこのチャンス、「前にした約束通り2人でお祭りを回る続きをしないか?」なんて声をかけようとするのだが、いざとなると声が出ない。
リーも顔を少し赤らめてトミートスープだけを見て食していた。
蓮人は覚悟を決めてリーに話しかける。
「あ、あの! リー?」
「はっはい! って蓮人さん置いてかれてますよ早く行きましょう!」
そう言ってすぐリーは後を追いかけてしまった。
「あ、ああ……まあ仕方ないか」
蓮人は肩を落としながらももう1回と心に決めて後を追うのだった。
場面は変わって一通りの屋台のご飯を堪能した蓮人達は宿へと帰っていた。
旬のトミートを使った料理はどれも絶品と言えるもので非常に満足のいく食事だったはずなのだが、
「はぁ…………」
蓮人1人だけは屋台を周り始める前よりも浮かない顔をしていた。
(結局言えなかった……)
あれからリーが蓮人の横に寄ってくることも無かったため話すことすら出来なかったのだ。
(もしかして俺って嫌われてるのか……? いや、考えるだけで虚しくなってくる……)
頭を横にブルンブルン振ってそんな考えを頭の隅へと追いやるのだった。
この日はそのまま部屋へと戻ったのだが、ポチはベッドへと飛び込んだ途端眠りに落ちてしまった。
その上、
「最近色々あって疲れたから温泉でも入りたいなぁ……」
「それなら私皇都にあるいい温泉の場所しってるよ、お姉ちゃん!」
「本当に!? それなら早く行きましょ!」
こうして部屋にいるのは実質蓮人とリーの2人となってしまった。
ジリーが部屋を出ていく間際に蓮人へだけウインクして行ったため、おそらく蓮人が何をしようとしているのか空気を読んでくれたのだろう。
その好意を無駄にする訳にはいかない。蓮人は覚悟を決めて口を開くのだった。
「なあ、リー。ちょっといいか?」
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