162 一方その頃、異世界へ
話は少しだけ遡り、バタちゃんが全力を尽くし、闇の球体を生み出したところだ。
「あれ、俺何してんだ?」
「ぐるじい…………」
「うわわわ! ごめん!」
蓮人は掴んでいた男の冒険者の胸倉を離した。
「ゲホゲホッ……ところで、俺たちゃなんで殴り合ってんだ?」
その男は口から血の混じった唾を吐きながら尋ねてくる。蓮人の口もしっかりと切れており血の味が広がっていた。
蓮人達の周りでも殴り合いが行われていたようだが、誰一人として自分がケンカしていた理由を分かっていない。
「おい! 何だあれ!」
隣にいた男がいきなり空を指さし驚きの声を上げる。蓮人もそれに倣うと、そこには闇の球体が浮かんでいたのだ。そして、その対面にいる少女には非常に見覚えのあるものだった。
「あれは、まさか……」
蓮人は周囲を見回して姿を確認するのだが、見つからない。
「蓮人さん!」
「蓮人!」
ジリーとジュシュも慌てて近づいてきた。
「あれって、リーさんですよね……?」
「やっぱりそうだよな。それに、あの闇の球体を構えてるやつが、俺達がさっきみたいに凶暴になってケンカしてた原因なんだと思う」
「確かに。それに、あの真っ黒い球体は絶対ヤバいよね……」
3人は心配そうな目線をリーへと向ける。
「でも俺達じゃ空を飛べないんだ、どうしたらいい……」
そんなとき、闇の球体が発射された。
(くそ、何も出来ないのかよ……)
自分が理性を失って殴り合いのケンカしている間にもリーは戦っていた。そして我に返った今でも戦いの場が空である以上出来ることは何も無い。
蓮人は自分の無力さに嫌気がさしていた。
そのとき、空に一筋の光の奔流が走った。そうして視線を空へと向けるとそこではその一筋の光が爆音と共に闇の球体が爆散したのだ。それだけでなく、闇の球体を放った蝶の羽を生やしている少女の体をも貫く。
「おおおお! 何なんだあの魔法、なんて威力してやがるんだ!」
「すげえ!!!」
「あんな魔法初めて見たぞ!」
周囲の人々がリーの放った魔法の威力にざわめきだす。
そして羽を生やした少女が光の粒へと変わり、消えていった。
その瞬間、
「「「「うおおおおおお!!!」」」」
リーの完全なる勝利に周りにいる人は全員声を上げた。もちろんジリーとジュシュも例外ではない。
「「やったー!!!」」
2人は抱き合って喜んでいるのだが、そんな中蓮人だけは難しい顔をしている。
「どうしたんですか? そんな難しい顔をして。折角リーさんが勝ったんですよ?」
「ああ、それはそうなんだけど……」
蓮人はじっと空にいるリーを見ていると、異変はすぐに起きた。
「ああ! 危ないです!」
「くそ、やっぱりか!」
リーが頭を下にして落下を始めたのだ。蓮人は全力で落下点へ向けて走り出す。それにワンテンポ遅れてジリーとジュシュもついて行く。さらにその後ろには真ん丸のお腹を抱えたポチもいた。
「間に合わない……くそ!」
蓮人は新たな身体強化を発動させ、人外の速さで駆ける。
そのおかげで間に合ったのだが、頭から一直線に落ちているためキャッチするには非常に危険だ。
頭を捻って何かないか方法を考えていると、後ろから声がかけられた。
「蓮人! こっち!」
そこには身体強化を発動させ盾を構え、しゃがみ込むジリーがいた。一瞬で意図を理解した蓮人は全速力で盾に向かって走り出す。
「行くぞ!」
「よし! こーい!」
蓮人は盾の上に飛び乗り、
「「せーの!!」」
掛け声とともに蓮人はリーに向けて大きく飛び上がり、そのまま空中でお姫様だっこの要領で優しく抱え込んだ。そんなリーの顔は疲れ切っていたが柔らかな笑みを浮かべて眠っていた。
「さて、どうするか……」
リーを抱えることが出来たまでは良かったのだが、肝心な着地をどうするかだ。
「蓮人さん! これを使ってください!」
声のした方ではジュシュが水属性魔法を発動させ、大きな泡を生み出していた。
蓮人は迷いなくその泡に向かって足から着地する。かなりの勢いがあったのだがその泡は全てを吸収し尽くし、更に蓮人をポヨンと軽く上に跳ねさせた。そうして蓮人は綺麗に着地をすることに成功したのだった。
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