161 最高の魔法を放って、異世界へ
リーは杖先に魔力を集め、図書館で読んだ本に記されてあった今知りうる限りで最高の威力を持つ魔法を放つ準備をする。
その間にも闇の球体はゆっくりと迫ってきており、魔法の完成が間に合うのか瀬戸際なところだ。
リーの額から緊張で滲み出た汗が垂れ落ち、そんな様子を見たバタちゃんは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「ふふふ! 今更どんな魔法を使おうが無駄だよ! ナイトメア様の力と私の本気を超えることなんて絶対に出来ないんだから!」
「……いえ、絶対こんな所で終わらせませんから!」
闇の球体がもはやリーのすぐ近くまで迫ってきており絶体絶命のピンチだ。
しかしリーの目はから光が失われることはなく、じっとその闇の球体とバタちゃんを見据えている。
「なんなのよその目! 早く死んでよ! 行け!」
バタちゃんは勢いよく手を振り下ろした。その瞬間、闇の球体の落下スピードが上がった。
もはやリーに当たるまで後数秒というところだ。
そのときだった。杖先に集まる魔力が今までとは比にならないほどの光を放ったのは。
「やっと、出来ました!」
その光は魔法の完成の合図。目を開けられないほどの、しかし優しげな光が辺りを覆い尽くす。
「シャイニングレイ!」
リーの高らかに告げられた言葉によりとてつもない魔力から光の奔流が生み出され、レーザービームのように一直線に闇の球体へと突き刺さる。
――――バアアアアアアン
とんでもない爆発音と共に光の奔流が闇の球体を突き抜け、爆散させる。
それでも勢いを落とすことなく一直線に突き進む。
「……う、そ…………」
バタちゃんはそう呟き、自分の胸元を見下ろす。そこには光が突き刺さっていた。
それでも勢いが無くなりきらず、そのまま体を貫通していった。
その数秒後、何の前触れもなくシャイニングレイは消え去った。
残っているのは魔力をほとんど使い切り肩で息をしているリーと体に大きな穴が空いたバタちゃんだけだ。
そのときバタちゃんは笑い声を上げだした。
「はははは! これは、私の負けだね……もう何をする力も残ってないしこのケガじゃもう死ぬだけだし……」
戦いに負け、後は死を待つだけだと言うのにどこか清々しい顔をして笑みを浮かべていた。
リーはそんなバタちゃんを見て心が痛んでしまう。しかし、致命傷を与えたのは自分だ、殺すのは自分だ、という事実がある以上そんなことを態度に出すわけにはいかない。すました顔でじっとバタちゃんを見つめる。
「ねえ、リーちゃんはこんな私に心を痛めてるでしょ。私が殺しちゃうんだって」
リーは咄嗟に声をあげることが出来なかった。
「ふふふ、やっぱり図星なんだね。リーちゃん分かりやすいからね! でも、そんなこと気にしないでよ」
「…………いえ、命を奪う以上逃げてはいけないことですから」
リーは声が震えないように神経を集中させ、声を絞り出した。
「ほんと、真面目すぎるよ。私が言うんだからいいの!
それに、この殺し合いをふっかけたのは私でリーちゃんはギリギリまで嫌がってたじゃない。だから全部自業自得、リーちゃんが気にする必要はないんだよ」
そう言うバタちゃんは和らげな笑みを浮かべていた。その笑みは人間の笑みとなんら変わりはない綺麗なものだった。
リーは思わず涙をこぼしてしまいそうになり歯を食いしばってグッと堪える。しかしそのせいで話しかけることが出来なかった。
「あー、もうそろそろ時間みたいだよ。またね、リーちゃん。
ほんの短い時間だったけど私はリーちゃんのこと大好きになったよ!」
そう告げるバタちゃんの体は光の粒へと変わっていった。そして空へと昇っていく。
体は全て消え去ったのだが、ある言葉だけは残った。
――――次はちゃんと友達として出会えたらいいね
口元が思わず緩んでしまっていた。
「そうですね、待ってますよ……」
リーはそのまま気を失い、空高くから落下していく。
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