158 バタちゃんの本気に、異世界へ
「なんで! なんで私の魔法が効かないの! そのローブ一体なんなの!」
バタちゃんは整った幼い顔を心の底から嫌そうにゆがめながら絶叫し、憎悪のこもった目でリーを睨みつけている。
リーは100本の風の矢全てを無効化出来たことにそっと胸を撫でおろし、返事を返す。
「私のこのローブは魔法を全て無効化するのです。だから、バタちゃんの魔法は私には一切通用しませんよ」
リーは睨みにも全く怯むことなく言い放ったのだが、バタちゃんはそれを余裕だと感じたのか睨みつける視線がよりキツくなる。
「なんなの? その余裕。私じゃリーちゃんに勝てないって思ってるの?」
体を圧迫してくる殺気がより強くなり、それにやられたリーは咄嗟に返事を返すことが出来ず沈黙を返すことになった。
「ふーん、無視するってことはそういう事なんだね……でも、私が魔法だけだと思ってるの? 安心してよ、絶対に殺してあげるからさ」
そう呟いた瞬間、バタちゃんの体からドス黒い瘴気が溢れ出した。かと思うとその瘴気がバタちゃんの体を覆い尽くしていくのだ、まるで繭になるかのように。
「これは……」
リーはあまりの禍々しさに数歩後ろへ下がってしまう。
繭になったことで殺気は全く感じられなくなったのだが、代わりに生命力とでもいうべきなのだろうか。繭の中から放たれている威圧感がこれまでの比ではない。
それに気づいたリーは慌てて魔力を練り始めた。繭から解き放たれてしまう前に倒してしまわなければならないからだ。
「ウインドショット!」
突き出した杖から目にも見えないほどの速さで空気の弾丸が何発も撃ち出されたのだが、
――――カアン
その全てが明後日の方向へ跳ね返されてしまった。
「なんですか……じゃあこれならどうですか! ウインドアロー!」
50本もの風の矢が生み出され、一斉に襲いかかる。
しかし、これも当たらないという結果は同じだった。滑らかな面のせいで当たった瞬間方向をズラされてしまうのだ。
そのまま上や横、下へと飛んでいくのだが、下には皇都の街が広がっており、更には未だケンカをしている人達が大量にいるのだ。その人たちに危害を加えないよう放った魔法を消すしかなかった。
「一体どうすれば……」
何をしたとしてもこの繭には通じない上に下手をすれば街の住人にまで危害を加えてしまう可能性もあるのだ。リーは行動に移ることが出来ないまま時が過ぎていく。
そんな中、笑い声が響いてくると共に真っ黒な繭が中から引き裂かれていく。
出てきたのは今までのような幼い姿をしたバタちゃんではなく、大人っぽく妖艶な雰囲気を持った女性だった。背にある羽根はより大きく、そして豪華で派手になっている。
そして、バタちゃんから放たれる威圧感、そして魔力量もケタ違いに増えていた。
「ふふふふふ……ここからが本気だよ、リーちゃん? でも疲れちゃうのは嫌だから……さっさと死んでね?」
その瞬間、またもリーに向けて突風が打ちつける。それにバランスを崩したリーはどうすることも出来ず落下していく。
「今度はしっかり地面に叩きつけてあげる♪」
バタちゃんは猛スピードで飛んで体勢を整えているリーの腹に思い切り蹴りを食らわせる。
とっさにお腹に水属性魔法で水のバリアを張ることで威力は軽減することが出来たのだが勢いまで殺すことは出来なかった。
そのまま勢いよく落下し、轟音と共に地面に叩きつけられてしまうのだった。
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