156 バタちゃんが出て、異世界へ
正常なのがリーだけだと気づいたあと、蓮人達を冷静に戻そうと耳元で大声で叫んだり頬を叩いたりと色々試してみるのだが、全く正気に戻る気配はない。むしろリーのことを知覚すらしていないように思える。
「これはどうしたらいいんでしょうか……」
そのとき、途方に暮れているリーの頭上を何か大きな影が通過した。そしてその影が通過した後には何か粉ようなものが降ってきており、オレンジの日を反射しているのに気づく。その光景はどこか幻想的なものだった。
「キレイですね……」
リーはこんな状況にも関わらず見惚れてしまったのだが、そこから更に異変は起きた。
その何かが降ってきたところでは口論や殴り合いがより激しくなったのだ。
「まさかあの影の正体がこれを引き起こしてるんじゃ……」
まだ空から降る粉のようなものが原因であるとは分からないのだが、リーは半ば確信していた。
そして周囲を見回すのだが、もはやケンカしていない人物はポチだけだ。とはいってもポチは屋台の食べ物を全て食べ尽くす勢いなので正気に戻った後1番タチが悪いかもしれない。
そんなことを考えてしまったが頭の隅に追いやる。
「そんなこと考えるのはこれが解決してからですね。蓮人さん達が動けないならば、私がやってみせますよ! 待っててくださいね!」
そう宣言し、リーは風属性魔法を使って突風を生み出して空へと飛び上がる。
「行きますよ! 待ってなさい!」
夕陽に向かって飛んで行った影の正体を追うようにリーも風を操り、鳥の如く飛んでいくのだった。
そうして空を飛んですぐだった。その正体にはすぐ近づくことが出来た。
(あれは、ポイズンバタフライ……? いえ、でも森で出会ったものと比べて大きすぎるし、どこか人のような面影が感じられる)
そんなことを思いながら後ろを追いかけていた時だった。
「あらぁ? あなたなんで人間のくせに空を飛べてるの? しかも私の鱗粉も全然効いてないじゃない。あなたって何者なの? どうしてなの?」
目の前にいたポイズンバタフライはいきなりリーの方を振り返り、流暢な言葉を話し始めたのだ。
リーはビックリして言葉が出てこないのだが、喉の奥からなんとか絞り出した。
「……あなたは何者ですか?」
「先に質問したのは私なのになぁ。まあいいや、答えてあげる。
私は元ポイズンバタフライだよ。ナイトメア様に力を貰って進化した……ってあれ? 私って名前ないんだ、なんて名乗ればいいんだろう……」
その元ポイズンバタフライと名乗るどこか幼さの残る人のようなモンスターは、リーの前であるにも関わらず何の警戒もしていないようだ。必死に頭を捻って自分の名前を考えている。
「んー……もうバタちゃんでいいや、よろしくね!
それで今度はあなたがさっきの質問に答える番だよ?」
話が通じそうな相手であることに少し安心しつつ、その質問へ回答するリーである。
「私はリー。これは風属性魔法で体を浮かしているだけ、あなたの鱗粉が効かない理由は分からないわ」
警戒を絶やさないリーはいつもの丁寧な言葉使いが少し壊れていた。そんな口調でそのまま話を続ける。
「バタちゃん、だったわね。今すぐその鱗粉を降らすのをやめて、って言ったらやめてくれる?」
「無理だよ! これはナイトメア様からのお願いなんだもん、絶対やめられないよ!
なんでそんな事言うの……? もうリーちゃん嫌いだよ、私が、倒してあげる!」
そう声を荒らげたバタちゃんの顔は幼げな少女の顔には似合わない殺気と憎悪を放ち出すのだった。
読んで頂きありがとうございます!
よろしければブックマーク、評価、感想お願いします!




