153 新たな刀を手に入れて、異世界へ
「いやー、本当に良かったな!」
「うんうんうんうん!」
蓮人達は図書館の帰り道だ。ジリーは胸に大事そうに無属性魔法についての本を抱き抱え、首がとれそうな勢いで縦に振って頷いている。
「それにしても本当に貰えるとはって感じですね! 私はてっきり図書館の蔵書にされるものだとばかり思ってましたよ!」
「俺もそう思ってたよ、それにしても本当に良かったなぁ。これでいつでもどこでも読み放題だ」
それを聞いてジリーの頬がまたも緩んでいた。それとは対照的にリーだけは何かを考え込んでいるような顔をしている。
「そんな難しい顔してどうしたんだ?」
「いえ、館長さんがブツブツ呟いていたことが気になって……」
「へえ、ちなみにそれはなんなんだ?」
「これで約束は果たされました。どうか我が図書館の繁栄をどうかよろしくお願い致します、龍を引き連れた麗しい御方よ……って蓮人さん達が本を受け取って喜んでいる間に涙ぐみながらボソッと呟いてたんです」
「なるほど……」
蓮人にとっても非常に心当たりのある人物像である。そう、1人は蓮人をこの世界に運んでくれた女神、引き連れている龍というのは龍神だろう。
そんな中、リーは蓮人にグッと近づいて誰にも聞こえないよう囁くように話を続ける。
「……これって龍神様だったり蓮人さんをアルフェイムに連れてきた女神様だったりしませんか?」
リーも同じことを考えていたようだ。その上でなにか疑っているようでもある。
「ナイトメアが現れてから色々トントン拍子で進みすぎてないですか? 無属性魔法の本がいきなり見つかったり、新しい武器を作って貰えたり。もちろん神様なわけですから私達のためにしてくれているんでしょうけども、それでも……」
「確かにそう言われるとそんな気もしてくるな……まあでも信じるしかないだろ。実際強くなれそうだし、新たな武器もこれから手に入るわけだし、俺たちのためにしてくれてるんだって。大丈夫だよ」
「蓮人さんがそう言うならいいんですけど……」
まだまだ腑に落ちていないようなリーではあるが実際どうなのかは分からないのだ、今は信じて突き進むしかない。
(…………健吾を助けるためにもな)
蓮人はそんな気持ちを吹っ切るためにいきなり大声を上げる。
「あー、新しい刀が楽しみだなぁ! 待ちきれないぞ!」
「わわっ!」
リーはいきなり隣で大声を上げられて驚いているが、蓮人はそんなリーを置いて走り出す。
「ちょっと待ってくださいよ!」
リーもその後に続いて走り出す。
「あ! おいらもー!」
「私も!」
そのすぐ後にポチとジリーも走り出した。
「あ! なんでですか! 待ってくださーい!」
取り残されたジュシュも慌てて後を追いかけるのだった。
結局全力疾走で通りを走り抜けた蓮人達の姿はヘパイスの工房の前にあった。
ちなみに1位と2位は蓮人とポチの争いだったが僅差でポチ。だがスタートダッシュの差があったので実際はポチがダントツだ。
3位と4位もこれまたリーとジリーの接戦だったがリーの勝利、そして最下位は言わずもがなジュシュだ。
「はあはあ、なんで、いきなり、走り出すんですか……」
ゴールしたジュシュはその場でへたり込む。
「は、ははは、悪い悪い。それじゃあ中に入ろうか」
全員息を切らしている中、ドアを開けて工房の中へと入っていく。
中ではもう作業を終えた様子のヘパイスが椅子に座り込んでのんびりコーヒーを飲んでいた。
「おう、やっと来たか、ちゃんと全部終わってんぞ……ってなんでそんな疲れきってんだ?図書館に行っただけじゃねえのかよ」
「色々あって……それよりももう出来てるのか!?」
「ああ、ほらよ」
ヘパイスは椅子の横に立てかけてあった大太刀を鞘ごと蓮人へと投げ渡す。
それを受け取った蓮人は刀身半ばまで抜いて刃を確認し、そして勢いよく抜き放つ。
「す、すげえ……」
刃は龍神の角を使ったこともあってか鈍く白く光を放っていた。斬れ味はこの前の刀などと比べるまでもなく見ただけで分かる。
「ちゃんと言われた通り刃の長さは153センチメートルだ。柄の部分も合わせて前の刀よりも長く太くしてある」
柄も蓮人の手にしっかりとフィットしており、1番力の入れやすい太さになっている。
蓮人は何度か素振りをして確認してみるのだが、全てが完璧に噛み合い文句を付けるところがない。
「どうだ?」
「うん、完璧すぎる……」
蓮人の心の底からの感嘆に気を良くしたのか満面の笑みを浮かべ、大声で笑い声を上げる。
「はっはっはっは、そうだろうそうだろう。なんせ作ったのは俺様だからな。んじゃ次はこっちだな」
ヘパイスは机の上に蓮人の胸当てやリーのローブなどを並べ始めた。
大太刀が最高の出来だった以上、蓮人の中で期待は否応なしに高まっていたのだった。
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