152 工房に向かって、異世界へ
結局その日一日を身体強化の発動時間の短縮に使ったことによって、蓮人はもうほとんどのラグなしに、ポチは約10秒、ジュシュでも30秒程にまで短縮することが出来た。
そうして次の日である。蓮人達は全員で朝ご飯を済ませたあと、時間には少し早いがヘパイスの工房へと向かう。
そう、今日は待ちに待った蓮人の新たな武器である大太刀を受け取る日なのである。凹んだ胸当てを渡すのは少し怖いところもあるが、それを差し引いても楽しみが勝っており、ずっとニヤケ顔だ。
ヘパイスの工房に着いた蓮人ははやる気持ちを抑えながらゆっくりとノックをして名乗る。
「あのー、蓮人です。時間にはまだありますけど大太刀を受け取りに来ました」
「ちっ、もう来やがったのか。言った通り仲間も皆連れてきるんだな、まあ入れや」
少し疲れた顔のヘパイスがドアを開けて出てきた。
「はい! それで大太刀の方は……」
「馬鹿野郎! 今朝方打ち終わって刀身を冷やしてるところだ! まだ待てねえのか!」
「い、いえ、分かりました……」
この前よりもピリピリしているヘパイスである。リー達はそんな蓮人を無視して壁に立てかけられている武器や防具を見回っていた。
「それで、お前の凹んでるっていう胸当てはどうなんだ、さっさと見せてみやがれ」
蓮人は冷や汗を垂らしながらヘパイスへと手渡す。それを受け取ったヘパイスの顔は段々と険しくなってくるが蓮人にはどうすることも出来ない。
ついでにリー達は部屋の隅に固まって飛び火が来ないように逃げている。この裏切り者め。
しかし、雷が落ちるという予想は外れ、ヘパイスは1つ大きなため息をつくだけだった。
「ったく、こんなにもやられやがってよぉ。もっとしっかりしやがれってんだ。
まあいい、おい! そこで縮こまってるヤツらもさっさと脱げ!」
ヘパイスの脱げという一言で空気が凍りついた。そしてリーとジュシュが立ち上がったかと思うと風の矢と水刃を生み出したのだ。
「わああああ!!! ばかばかばかばか!」
蓮人は慌てて立ち上がり、今にもキレそうな顔をしているヘパイスの前に割り込もうとしたときだった。
――――ドンッ
ヘパイスから龍神から放たれた覇気に似た者が放たれたのだ。
それをまともに受けたリーとジュシュは魔法もかき消され、その場にペタンと座り込んだ。
「手間かけさせんじゃねえよ。誰もお前らをとって食おうなんて思っちゃいないさ、武器と防具の手入れしてやろうってだけだ。蓮人から話聞いてんだろ?」
その問いかけに全力で首を縦に振るリー達とジュシュである。
「だったら早く脱いでそのローブと杖をここに入れてくれや」
ヘパイスは壁際に置いているカートのようなものに蓮人の胸当てや肘当てなどを置きながらそういう。
リーとジュシュ、それにポチとジリーもそれに従って防具を脱ぎ、武器と防具全てをそこに置く。
「んじゃちょっくら作業してくっからよ。多分夕方までは時間がかかっから蓮人達は好きにしててくれや。外に出ていってくれても構わんしこの部屋で待ってても構わん。
ただし、今から俺が入るあの部屋にはぜったい入るんじゃねえぞ?分かったな?」
ヘパイスから脅しにも近い言葉を受け取る。
先程覇気を受けたリーとジュシュは恐ろしさを身をもって体感しており、もはや少し涙目だ。
「うん、分かったよ。大人しく図書館にでも行ってくる」
「おう、それがいいさ。また日暮れくらいにきてくれ、その頃には全部終わってるはずだ。 じゃあな、くれぐれもこの部屋に入ってくれるなよ?」
ヘパイスはその言葉を残してその部屋へと消えていった。
「じゃあ図書館に行こうか。無属性魔法についての本もどうなったのか気になるしな」
「おいらお腹空いた!」
リーやジュシュはまだ少し震えている中でポチだけはまだ通常運転だ。
「そうだな、ほら行くぞ!」
リーとジュシュの背を押しながら工房を後にするのだが、1つだけ蓮人の胸の中に残っていた。
(俺、胸当てが凹んでるなんて言ったっけ? それにヘパイスのあの覇気って……まあそんなわけないか)
「早く行くぞー!」
その疑問は心の隅に追いやり、図書館への道を歩いて行くのだった。
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