150 新たな身体強化をマスターして、異世界へ
こうして図書館を出て外に出るまでの道中である。ジリーはワクワクを隠せずずっとそわそわしている。
「あの本って結局何なんでしょうね? まあ貰えるかもしれないというのはありがたいですけどね」
「確かにな。でも持ち主が出てくると無理なんじゃないか? というかそうなっちゃうとあの本がもう読めなくなるのか……」
「嘘! それは無理だよ!」
ワクワクそわそわしていたジリーはそんな蓮人とリーの会話を聞いて我に帰ってきたようだ。全力で拒否し始めるが蓮人はそれを上手く躱しながら皇都の外に出て人のいない方へ歩いていく。
「さ、着いたぞ。今はそんなことは忘れて色々試してみようぜ!」
蓮人とジリー、ポチは円になって向かい合う。
「よーし、まずは新しい身体強化からだ!」
3人は一斉に身体強化を行う。
初めて図書館に行った時に読んだ本で魔力の練り方を蓮人は学んでいる。具体的には体を流れる血のように魔力を循環させ、それを手先などに集めることによってより強力な魔法を放つことが出来る、というものだ。
そして、この方法は新たな無属性魔法の身体強化にも応用することができるのだ。
今までの無属性魔法は魔力を活発にしてそれを体から放出することで強化していたのだがこれでは魔力の減りも多く、無駄が多いらしい。
しかし、活発化させた魔力を血のように体に巡らせ循環させることにより、ほとんど魔力を減らすことなく今までよりも効果的な身体強化を行えるようになるのだ。
「こ、これはすごいぞ!」
既に魔力の練り方をマスターしていた蓮人にとっては簡単なことで、一瞬で新たな身体強化を成功させていた。そして大きくジャンプしたり駆け回ったりして体の調子を確認する。
「今までよりも高く飛べるし、足も速い。それに、力も強くなってる!」
蓮人は目の前にあった大きく硬い岩をただのデコピンだけで真っ二つに割ってしまった。あまりの強さに本人も驚いている。
それに続いてポチも持ち前のセンスを活かし、30分もかからないうちに成功させた。
「うわー、すごーい!」
ポチはキャッキャと笑い声を上げながら周囲を走り回っているのだが、
「もはや全然見えないです……」
あまりのポチの動きの速さにリーとジュシュは目で追うことすら出来ていない。
元々目がいい蓮人が身体強化を使って視力まで強化した上でやっと見えるようになる速さなのだ。身体強化もしていない目では追うことはそうそう出来ないだろう。
そして肝心の力なのだが、こちらはまだ体も成長しきっておらず仕方ないのだろうか、確実に強くはなっているのだが目を見張るような強さにはなっていなかった。
それでもこの速さから振るわれるナイフは十分な脅威となるだろう。
こうして蓮人とポチは新たな身体強化をマスターし、残るはジリーだけなのだが、
「なんで出来ないの……」
1時間以上経ってもジリーにだけは出来る気配すらなかった。今にも泣き出しそうな顔をしている。
「蓮人ぉ……どうやってるのぉ……私にも教えてぇ……」
自分もやっと強くなれると意気込んでいたジリーはまたも上手くいかない現実に今にも泣きそうな顔をしていた。そして蓮人へとしがみつく。
「教えてやるから落ち着けって! ほら!」
蓮人はジリーを慰めて落ち着かせ、言葉を続ける。
「いきなり身体強化を成功させようとするんじゃなくて、魔力を体に流す前にまず体を流れる血の流れを感じとるんだ」
「うん……」
ジリーは目を瞑って意識を集中させる。しばらくすると雑念が取り払われたようで血の流れを掴んだようだ。
「じゃあ次は少しずつ血管の中に魔力を入れるようにして体を流していくんだ」
「うん……」
「少しずつ、少しずつ増やしていくんだ……」
ジリーは額から汗を垂らしているが手応えはあるようで決して集中を切らさない。
「よし、いい感じだぞ……」
蓮人はなんとなくだがジリーの体を流れる魔力が強まっていき、そして完成したのを感じ取った。
「今だ! 上にジャンプ!」
ジリーは言われた通り上に大きく跳ぶ。目測5メートル程飛び上がり、そのまま音もなくスタッと着地する。今までよりも遥かに高く跳ぶことが出来ている。
「出来たじゃないか!」
蓮人は自分の事のように喜びながら俯いているジリーに近づくと、いきなり抱きつかれた。
「え!? ちょっ!?」
「出来たよぉ……ありがとぉ……」
ジリーは今度こそ泣き出すのだった。
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