149 本を預けようとして、異世界へ
司書にしっかり怒られた後、席について無属性魔法についての本を囲んでいる蓮人達である。
「は、早く読みましょう!」
「お、おう!」
蓮人が席についてポチを膝の上に乗せる。リーとジリーとジュシュの3人はその後ろに回り込んで本を覗き込んでいる。
蓮人としては女子3人のそれぞれ違う甘い匂いに意識がとられそうになるがそれを理性で耐えて本のページをめくり、読み進めていくのだった。
「ふーっ……」
その本を読み終えた蓮人達は全員で顔を見合わせる。
「これは、本当に大発見ではないですか……?」
「そうね、私みたいに無属性魔法しか使えない身からすると、これは世界が変わるわ」
「なんでこんな本が今まで世に出回っていなかったのでしょうか? というかそもそもなぜ私達は何度も探していたはずなのに見つからなかったのでしょう?」
「なにも分からんが、とりあえずすごいとしか言えないな……」
皆口々に色々なことを言っていたが、最後の蓮人の呟きには同感だったようで頷き合う。
「ねえ蓮人! 早く乗ってたこと試しに行こう! 今ならまだ夜までには時間あるし!」
ジリーは本も人一倍熱心に覗き込んでおり、読み終えてからのやる気も物凄いことになっている。
だがそれも仕方ないだろう。
ジリーは前のパーティーいた間は大きな盾をメイン武器にして仲間を攻撃から守りつつ腰に装備しているサブの剣で隙を見て攻撃するというスタイルだったのだが、ホワイトストライプスに入ってからは蓮人の無属性魔法から放たれるとんでもない攻撃力の刀だったり、ポチの素早い動きだったり、リーの敵を寄せつけさせない威力の魔法だったりと正直言って盾をメイン武器とするジリーの役割はほとんどなかった。
それを自分で理解していたジリーは蓮人達に隠れて鍛え続けていたのだ。しかし蓮人のようにトントン拍子で強くなることは出来ず悩み続けていたのだが、そこでこの無属性魔法についての本のおかげで強くなるための足がかりが出来たのだから。
蓮人としてはもう一度始めから読み直し、しっかりと知識を取り込んでから試してみたかったのだがそんな事情を薄々勘づいていた蓮人にはそんなジリーの言葉を断ることは出来なかった。
「そうだな! 今ならこの本の全部とは言わずとも少しくらいなら出来るだろうし」
こうして蓮人達はその本を片手に席を立ち上がり司書のいるカウンターへと向かう。
皇都の図書館では本の貸出制度はないのだがカウンターで手続きをすることでその本をキープすることが出来るのだ。
「この本のキープをお願いします!」
「はい、分かりました。こちらの書類をお書きください」
蓮人は渡された書類に名前や滞在している宿の名前などを書いていくのだが、その間に司書の表情が段々と険しくなっており、
「少々お待ちください」
と言ってカウンターの裏へと消えていった。
そして待つこと5分、奥から先程の司書とこの図書館の館長と思われる険しい顔をした人が出てきた。
「私この図書館の館長をしております。
お時間を取らせて申し訳ありませんがお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「は、はぁ……」
「この本はどちらで見つけたものなのでしょうか?」
「魔法に関する本が並んでいる棚のところに普通に置いてありましたけど……」
本が光っていたから見つけたなどと信じてもらえないだろうことは黙っておく。
「なるほど、分かりました。お話ありがとうございました」
館長はお辞儀をして裏へ戻ろうとするのだが、蓮人は声をかけて引き止める。
「あの、何かあったんでしょうか……?」
「はい……実はその本はこの図書館の蔵書ではないんです。先程裏にいる司書に聞いたところ全員見覚えはなかったと。
そして貴方様達のお話を聞く限り持ち主も分からないという状況なんです」
「それじゃあこの本はどうなるのでしょうか?もう読めなくなったりとかって……」
「それはこれからの会議で決めることになりますが、お引き取りになられたいということでしょうか?」
「そんなこと出来るのですか?」
蓮人は驚きで思わず声を上げてしまった。館長はそれを注意しながらも返事をする。
「出来ないことはありません。会議ではそのように伝えておきましょう。それでは失礼致します。」
館長はそう言って本を持って今度こそ裏へと帰って行った。
そして蓮人達も魔法を試しに行くため、その場を後にするのだった。
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