146 ヘパイスに会って、異世界へ
全くお客のいない店へと近づいていく。その光景はどこか見覚えのあるものだった。
店員はローブを着てフードを目深に被っており顔が見えなかったが眠っているようだ。
「あの、すいません!」
「うん? ああ、お前か」
「あ、あんたは!」
フードを下ろした顔があらわになる。その顔は名前は知らないが蓮人のよく知る人だった。
そう、ガサラの街で蓮人達に刀や防具を売ってくれた人だったのである。
「おう、俺が打った刀や防具の出来はどうだ? 最高だろ? 何しろ今まで打ってきた中で最高の出来だったからな」
自分の作品に誇りを持っているらしく、自信満々に尋ねてきた。
「それが、俺の力不足のせいで折れてしまいました……」
「何してやがる、このクソボケが」
その店員の目がいきなり変わり、蓮人を睨みつけてきた。それと共に放たれる覇気のようなものの迫力はとんでもなく、蓮人は後ずさりしてしまい、ポチとジュシュはペタンと座り込んでしまった。その覇気は龍の峠で龍神から放たれた覇気とどこか似ており、心の底からふるえあがるものだった。
「す、すいません……!!!」
蓮人は慌てて頭を下げ、誠心誠意謝る。その蓮人の頭の上からチッと舌打ちが聞こえたかと思うとそのまま溜息が聞こえてきた。
「……まあいいさ。お前ら3人ともついてきやがれ」
「え?」
「いいからついてこいって言ってんだよ! ちょっと待っとけ!」
そういうやいなやお店に並べている武器や防具をかたずけ、鍛冶通りから繋がる裏通りの方へ歩いて行く。いきなりすぎて状況が分からず蓮人達は立ち尽くしていたのだが、
「さっさと来い!」
「「「はい!!」」」
蓮人達へ向けられた怒鳴り声に周囲からの注目が集まるのだが、そんなものを気にする余裕はなく、慌ててついて行くのだった。
そのまま裏通りを歩いていき、目的地へはすぐに到着することが出来た。
「ここが俺の工房だ。さっさと中へ入ってくれ」
周りの建物よりは少し大きめのレンガ造りの家で扉の上には大きな看板がはられており、そこには「工房ヘパイストス」と書かれていた。
なんとも言えない絶妙なネーミングセンスだが何も言えるわけなく促されるがままに中へ入る。
「早速だがその折れた刀を見せてくれ」
「は、はい!」
次はどう怒られるのかビクビクしながらも帯刀していた刀を鞘ごと渡す。
「そういやお前に名乗ってなかったな。俺の名前はヘパイスだ、よく覚えときやがれよ、蓮人」
そう名乗るだけ名乗ると意識は既に刀に向いており、抜いてどう折れたのか状態を確認している。しかし、その間に蓮人は疑問を覚えていた。
(確かに俺はこの人の名前を知らなかったけど、俺もこの人に名乗っていないはずだぞ、なんで知ってるんだ?)
先程放たれた龍神に似た雰囲気といい、蓮人はヘパイスをどこかそのような存在だと考えていた。
(まあでもそんなことあるわけないか。俺の名前を知っていたのもリーやポチが俺の事を名前で呼んでいたからだろうし)
「また雑に扱ってくれたもんだぜ。だがこれならちゃんと元に戻すことが出来そうだ。おい蓮人、その腰のポーチに入ってある角を出せ。さっさと直してやるからよ」
「は、はい……!」
蓮人はポーチから龍神の角を取り出し、手渡す。少し不機嫌そうになりながらもそれをコンコン指で叩きながら強度を確認している。
「ちと癪だが申し分のない素材だな。これを使って新しい刀の刀身を作るが問題ないな?」
一応確認を取ってはいるもののヘパイスの意識は角へと向いており、どう打とうか迷っているようだ。そこで蓮人は思い切って疑問をぶつける。
「問題ないですけど、なんでその角が俺のポーチに入ってるって知ってたんですか?それに、俺の名前を知っていたのも。
あなたは何者なんですか?」
「ば、ばば馬鹿野郎! 一流の鍛冶師ともなれば直感で素材くらい分かんだ! 名前は、えーっとお前の仲間が呼んでたから覚えてただけだ!」
いきなり慌て出し、怪しさ満点のヘパイスではあるが、鍛治師として武器を作りその商品で商売をしているのならばおかしくはない話であり、これ以上追求することは出来なかった。
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